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IT企業のM&Aで重要な契約条項とは? 株式譲渡・事業譲渡の違いと業態別の留意点を弁護士が解説

目次

IT企業のM&Aの特徴

IT企業のM&Aは、製造業や小売業などのM&Aと比べて、引き継ぐべき対象が見えにくいという特徴があります。なぜなら、土地・建物・在庫といった有形資産よりも、契約関係、知的財産権、ソースコード、顧客情報、ノウハウ、人材といった無形資産が事業価値の中心になるからです。そのため、表面的な売上や利益だけで判断すると、譲渡後に想定外の問題が発覚するおそれがあります。

特に、IT企業のM&Aでは、次の点を丁寧に確認する必要があります。

・顧客との契約が継続するか

・成果物やソースコードの権利帰属が明確か

・外注先やフリーランスとの契約処理に漏れがないか

・個人情報、営業秘密の管理体制に問題がないか

・特定の役職員や主要取引先に依存しすぎていないか

また、同じIT企業でも、システム開発、SESSaaSECなどでは、収益構造も法的リスクも異なります。例えば、システム開発であれば未完成案件や検収の問題が重要になり、SaaSであれば利用規約、個人情報、障害対応体制が重要になりやすいです。

したがって、IT企業のM&Aでは、一般的なM&Aの知識だけでは足りず、対象会社の業態に応じて、契約関係と事業運営の実態を具体的に点検することが重要です。

株式譲渡と事業譲渡の違い

中小のIT企業がM&Aを検討する際、実務上よく用いられる手法は、株式譲渡と事業譲渡です。もっとも、両者は似たように見えても、法的な構造も、引き継がれる対象も、契約実務上の注意点も大きく異なります。どちらを選ぶかによって、買い手・売り手の負担やリスク配分は大きく変わりますので、違いを正確に理解しておく必要があります。

(1) 株式譲渡の特徴

株式譲渡は、対象会社の株式を売買する方法です。買い手は会社そのものを取得するため、対象会社が有する資産、契約関係、債務、従業員との雇用関係などは、原則として対象会社に存続したまま維持されます。

そのため、IT企業のM&Aでは、顧客契約や保守契約、クラウド利用契約、従業員との関係を比較的維持したまま承継しやすいという利点があります。

一方で、買い手は、顕在化している資産だけでなく、簿外債務、労務問題、情報管理上の不備、過去の契約上の不備なども含めて取得することになります。

したがって、株式譲渡では、表明保証や補償条項の設計が特に重要になります。

(2) 事業譲渡の特徴

事業譲渡は、会社そのものではなく、事業を構成する資産・契約・権利義務の一部又は全部を個別に移転する方法です。

株式譲渡とは異なり、何を引継ぎ、何を引き継がないかを契約上特定する必要があります。

IT企業の場合、事業譲渡では、次の点が問題になりやすいです。

・顧客との契約を移転するために相手方承諾が必要となる場合があること

・ソースコード、ドキュメント、商標、著作権などの対象範囲を明確にする必要があること

・従業員との雇用関係は当然には移転せず、別途対応が必要になること

・個人情報や顧客データの承継に慎重な検討が必要になること

つまり、事業譲渡は、不要な負債やリスクを切り分けやすい反面、承継手続が煩雑になりやすく、IT企業では特に契約・知財・データの移転設計が重要になります。

(3) IT企業のM&Aでどちらが適しているか

どちらが適しているかは、案件ごとに異なります。

一般に、既存契約や人員体制をなるべく維持したまま承継したい場合には株式譲渡が使いやすいです。これに対し、特定事業だけを切り出したい場合や、買い手が不要な負債・偶発債務を引き受けたくない場合には事業譲渡が検討対象になります。

もっとも、IT企業では、契約関係や知的財産権の処理が不十分であると、どの手法を選んでも後に紛争や想定外の負担が生じかねません。そのため、単に手法の一般論で選ぶのではなく、対象会社の業態、契約構造、知財の整理状況、個人情報の取扱い等を踏まえて判断することが重要です。

株式譲渡契約で重要な条項

株式譲渡は、対象会社そのものを買い手に移転する手法です。そのため、買い手は、対象会社が保有する資産や契約関係だけでなく、簿外債務、労務上の問題、情報管理上の不備、過去の契約処理の不備なども含めて承継することになります。特にIT企業では、価値の中心が無形資産にあり、契約関係や知的財産権の整理状況が会社の実態に大きく影響しますので、株式譲渡契約書の条項設計が重要です。

(1) 譲渡対象・譲渡価額に関する条項

まず基本となるのは、どの株式を、いくらで譲渡するのかを明確に定める条項です。中小企業では発行株式の全部を譲渡することが多いですが、株式数、譲渡日、代金支払日、支払方法は明確にしておく必要があります。あわせて、クロージング時点までに配当、役員貸付、関連当事者取引などがどのように処理されるのかも確認すべきです。

(2) クロージング条件に関する条項

株式譲渡契約では、契約締結日と実際の引渡日を分けることがあります。この場合、買い手としては、一定の条件が満たされた場合にのみクロージングを行う構成にすることが重要です。例えば、次のような事項が典型です。

・重要取引先との契約が維持されていること

・重大な法令違反や事故が発生していないこと

・必要な社内承認や第三者承諾が得られていること

・デューデリジェンス(DD)で判明した是正事項が完了していること

IT企業では、主要顧客との契約継続や、重要人材の離脱の有無が企業価値に直結しやすいため、一般的な条件だけでは足りない場合があります。

(3) 表明保証条項

株式譲渡契約で特に重要なのが表明保証です。表明保証とは、売り手が、契約締結時やクロージング時において、対象会社に関する一定の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証するものです。

IT企業では、一般的な財務・法務事項に加え、次の論点を個別に検討すべきです。

・主要な顧客契約、外注契約が有効に存続していること

・ソースコード、成果物、商標、ドメイン等の権利関係に重大な不備がないこと

・従業員、外注先、フリーランスとの間で権利帰属や秘密保持に関する契約が整備されていること

・個人情報や営業秘密の管理について重大な事故や法令違反がないこと

OSS利用やライセンス遵守に重大な問題がないこと

IT企業では、帳簿には現れにくい問題が後に顕在化しやすいため、抽象的な表明保証だけで済ませないことが重要です。

(4) 誓約事項・補償条項

誓約事項では、契約締結後クロージングまでの間に、対象会社の事業を通常の範囲で運営することや、重要な契約変更、役員報酬変更、多額の借入れなどを買い手の承諾なく行わないことを定めます。IT企業では、主要人材の処遇変更や、主要顧客との契約条件変更も対象に含めるべき場合があります。

一方、補償条項では、表明保証違反や特定のリスクが現実化した場合に、売り手がどの範囲で損害を補償するかを定めます。補償については、以下の点を明確にする必要があります。

・補償対象となる事由

・補償額の上限

・請求できる期間

・少額免責やバスケット条項の有無

買い手としては補償範囲を広く取りたい一方、売り手としては責任の長期化や無制限化を避けたいのが通常です。

(5) IT企業特有の条項設計の視点

IT企業の株式譲渡契約では、一般的なM&A契約の雛形を用いるだけでは不十分です。

特に重要なのは、契約、知的財産、人材、情報管理という無形資産に関するリスクを、デューデリジェンス(DD)で把握した上で、表明保証、誓約事項、補償条項、クロージング条件に適切に落とし込むことです。

価格交渉だけに意識を向けるのではなく、どのリスクを誰が負担するのかを条項レベルで具体化することが、紛争予防の観点からも重要です。

事業譲渡契約で重要な条項

事業譲渡は、会社そのものを移転する株式譲渡とは異なり、対象事業を構成する資産、契約、権利義務等を個別に選別して移転する手法です。そのため、何を譲渡対象に含め、何を対象外とするのかを契約上具体的に定める必要があります。特にIT企業では、価値の中心が有形資産ではなく、顧客契約、ソースコード、知的財産権、ノウハウ、人材、データにあることが多いため、事業譲渡契約では対象の特定と承継方法の設計が極めて重要です。

(1) 譲渡対象を明確に定める条項

事業譲渡契約で最も重要なのは、譲渡対象の明確化です。

例えば、次のような項目は、契約書上で個別に整理すべきです。

・顧客との契約、保守契約、ライセンス契約

・ソースコード、設計書、仕様書、マニュアル

・商標、ドメイン、著作権その他の知的財産権

・売掛金、前受金、未払金その他の債権債務

・サーバー、PC、開発環境等の設備

・従業員との関係や引継ぎ対象業務

IT企業では、「事業一式」といった抽象的な記載では足りず、後の紛争を防ぐためにも、一覧表や別紙を用いて具体的に特定することが望ましいです。

(2) 契約承継・第三者承諾に関する条項

事業譲渡では、契約上の地位は当然には移転しません。顧客契約、外注契約、クラウド利用契約、プラットフォーム利用契約などを買い手に引き継ぐには、原則として相手方の承諾が必要です。

そのため、契約書では、どの契約について承諾取得を前提とするのか、誰がいつまでに承諾取得に動くのか、承諾が得られなかった場合にどう処理するのかを定める必要があります。

IT企業では、主要顧客との契約が移転できないだけで事業価値が大きく変動することがあります。したがって、承諾取得を単なる事務作業として扱わず、クロージング条件や解除事由とも連動させて設計すべきです。

(3) 知的財産権・成果物の取扱い

IT企業の事業譲渡で特に問題になりやすいのが、知的財産権の承継です。

ソースコード、プログラム、デザイン、マニュアル、データベース等について、誰にどの権利が帰属しているのかが曖昧なままでは、買い手は事業を安定的に運営できません。

そのため、契約書では、次の点を明確にすべきです。

・譲渡対象となる知的財産権の範囲

・著作権が第三者に残っていないか

OSSや外部ライセンスの利用条件に問題がないか

・ソースコードや技術資料の引渡方法

・譲渡後の使用継続に制約がないか

(4) 従業員・データ・移行支援に関する条項

事業譲渡では、従業員との雇用関係は当然には移転しません。買い手側での再雇用や転籍の実務対応が必要になります。特にSESや運用保守のように、人材と顧客対応体制そのものが事業価値となる業態では、誰が引き継がれるのかを具体的に検討すべきです。

また、個人情報や顧客データの承継については、事業譲渡に伴う移転の可否や必要な対応を、法令上の規律、利用目的との関係、プライバシーポリシーその他の対外公表内容等を踏まえて検討する必要があります。

さらに、譲渡後の移行支援条項も実務上重要です。例えば、一定期間の引継ぎ対応、顧客説明への協力、障害発生時の初期対応協力、外注先との調整協力などを定めておかないと、クロージング後の運営が混乱しやすくなります。

(5) 事業譲渡契約で重視すべき視点

事業譲渡契約では、不要なリスクを切り分けやすい反面、承継に必要な事項を一つでも落とすと、買い手が想定した事業を取得できない事態が生じます。IT企業の場合は特に、契約、知的財産、人材、データ、移行支援の各要素を個別具体的に設計することが重要です。

抽象的な条項で済ませず、対象事業の実態に応じて承継範囲と責任分担を明確にすることが、事業譲渡契約では不可欠です。

業態別の留意点

(1) システム開発・SIerM&Aで注意したいポイント

システム開発会社やSIerM&Aでは、売上高や顧客数だけでは事業価値を十分に判断できません。個別案件ごとに、契約条件、開発進捗、検収状況、再委託体制が異なり、これらによって引き継ぐリスクの内容も大きく変わるためです。特に未完成案件や、納品後も追加対応が続いている案件がある場合には、譲渡後に想定外の負担が生じることがあります。

まず確認すべきなのは、主要案件の契約状況です。システム開発では、基本契約だけでなく、個別契約、注文書、仕様書、議事録などに権利義務が分散していることが少なくありません。少なくとも、次の点は確認が必要です。

・請負か準委任かが明確か

・仕様変更や追加開発の経緯が記録化されているか

・検収の完了状況が確認できるか

・未収金や損害賠償リスクが残っていないか

また、成果物やソースコードの権利帰属も重要です。顧客に移転済みなのか、自社に留保されているのか、外注先から適切に権利を取得できているのかによって、譲渡対象としての価値は大きく変わります。さらに、再委託先との契約、秘密保持、責任分界が未整備である場合には、後に紛争の原因になります。

そのため、システム開発・SIerM&Aでは、案件管理や権利処理の実態を確認し、その結果を表明保証、補償条項、承継範囲、引継ぎ義務などに具体的に反映させることが重要です。

(2) WEB・アプリ制作会社のM&Aで注意したいポイント

WEB制作会社やアプリ制作会社のM&Aでは、売上や受注件数だけでなく、成果物に関する権利関係と、制作後の対応範囲を丁寧に確認することが重要です。これらの業態では、完成したサイトやアプリそのものだけでなく、デザインデータ、ソースコード、画像素材、フォント、外部サービス利用契約など、多数の要素が組み合わさって事業が成り立っているためです。

まず確認すべきなのは、成果物の権利帰属です。顧客に著作権を移転しているのか、自社に留保して利用許諾としているのかによって、譲渡対象としての価値や、譲渡後の利用可能範囲が変わります。特に、外部デザイナー、エンジニア、カメラマン等を利用している場合には、元請会社に必要な権利が適切に集約されているかを確認すべきです。

また、次の点も重要です。

・画像、動画、フォント、テンプレート等の利用条件に違反がないか

・納品後の保守、修正、更新対応の範囲が明確か

・アプリ運営に必要なアカウントや開発者登録の承継に支障がないか

・顧客との間で追加修正や不具合対応が未解決で残っていないか

WEB・アプリ制作では、完成物だけでなく、制作過程で用いた素材や権利処理の積み重ねが重要です。そのため、M&Aでは、制作契約、外注契約、素材利用条件、運用保守の実態を確認し、その結果を表明保証、補償条項、承継対象の特定に具体的に反映させる必要があります。

(3) SES事業のM&Aで注意したいポイント

SES事業のM&Aでは、売上高や稼働人数だけでなく、契約の実態、人員の定着状況、取引構造を慎重に確認する必要があります。SESでは、事業価値の中心が設備や知的財産ではなく、エンジニアの稼働と取引先との継続的な関係にあるためです。そのため、形式上の契約書だけでなく、現場でどのような運用が行われているかを把握しなければ、譲渡後に想定外のリスクが顕在化するおそれがあります。

特に重要なのは、契約実態が適切に整理されているかという点です。SESでは、業務委託契約や準委任契約の形式を採っていても、実際には発注先から直接指揮命令を受けているような運用があると、偽装請負その他の適法性に関する問題が生じ得ます。この種の問題は、株式譲渡であれば買い手がそのまま引き継ぐことになりやすく、事業譲渡でも承継範囲や補償の設計に影響します。

確認すべき主なポイントは、次のとおりです。

・契約書と実際の業務運用に乖離がないか

・多重下請構造や再委託の実態が不明確でないか

・特定の取引先又は特定のエンジニアへの依存が強すぎないか

・雇用契約、業務委託契約、秘密保持契約等が整備されているか

・退職や契約終了によって売上が大きく減少する構造になっていないか

SES事業では、人材の承継と取引継続が事業価値を左右します。そのため、M&Aでは、契約類型の適法性、人員の定着可能性、主要取引先との関係を確認し、その結果を表明保証、補償条項、キーマン対応、承継範囲の設計に具体的に反映させることが重要です。

(4) 運用保守事業のM&Aで注意したいポイント

運用保守事業のM&Aでは、現在の売上額だけでなく、その売上がどのような契約条件と対応体制によって維持されているかを確認することが重要です。運用保守は継続課金型の事業として評価されやすい一方、実際には、障害対応、緊急出動、問い合わせ対応、定期作業などの負担が重く、契約条件と現場運用にずれがあると、譲渡後に収益性が大きく悪化することがあります。

特に確認すべきなのは、保守契約の内容と実態です。契約書上は月額固定であっても、実際には個別対応が際限なく発生していることがあります。また、SLAや対応時間、障害時の一次対応義務、再委託の可否などが曖昧な場合には、買い手が想定以上の義務を負担するおそれがあります。

主な確認ポイントは、次のとおりです。

・保守範囲、対応時間、除外事項が明確か

SLAや障害対応義務が過度に広くなっていないか

・実際の対応工数と契約対価が見合っているか

・主要顧客への対応を特定担当者に依存していないか

・ログ、設定情報、手順書等の引継資料が整備されているか

さらに、運用保守では、顧客データやアクセス権限、監視ツール、クラウド環境の管理権限が事業継続に直結します。そのため、M&Aでは、契約条件だけでなく、運用手順、権限管理、引継体制まで確認し、その結果を表明保証、補償条項、承継対象、移行支援条項に具体的に反映させることが重要です。

(5) SaaS事業のM&Aで注意したいポイント

SaaS事業のM&Aでは、売上規模だけでなく、契約条件、解約率、データ管理体制、サービス運営基盤を総合的に確認することが重要です。SaaSは継続課金型であるため安定収益が見込めるように見えますが、実際には、利用規約、SLA、サポート体制、クラウド利用環境の設計次第で、譲渡後の負担や法的リスクが大きく変わります。

特に重要なのは、顧客との契約条件が実際の運用と整合しているかという点です。例えば、利用規約では広い免責を置いていても、営業資料や個別契約で過度な性能保証やサポート対応を約している場合には、買い手が想定以上の義務を負担することがあります。また、障害対応、返金対応、データ保存・削除の運用が不明確であると、譲渡後の紛争につながりやすくなります。

主な確認ポイントは、次のとおりです。

・利用規約、SLA、個別契約の内容に矛盾がないか

・障害時対応、返金、解約時のデータ取扱いが整理されているか

・個人情報や顧客データの管理体制に問題がないか

・クラウド事業者や外部ベンダへの依存関係が過度でないか

・ソースコード、開発環境、運用権限の引継ぎに支障がないか

SaaS事業では、契約書だけでなく、実際のサービス運営体制そのものが企業価値に直結します。そのため、M&Aでは、規約、個別契約、データ管理、委託先管理、障害対応実務を確認し、その結果を表明保証、補償条項、承継範囲、移行支援義務に具体的に反映させることが重要です。

(6) EC事業のM&Aで注意したいポイント

EC事業のM&Aでは、売上高や会員数だけでなく、その売上がどのような契約関係、法令対応、運営体制によって支えられているかを確認することが重要です。ECでは、商品販売だけでなく、利用規約、特定商取引法上の表示、返品・解約対応、決済、配送、会員データ管理などが一体となって事業を構成しているため、表面的な数字だけでは実態を把握できません。

特に重要なのは、販売条件や顧客対応のルールが適切に整備され、実際の運用と矛盾していないかという点です。例えば、利用規約や販売ページ上の表示と、実際の返品対応、定期購入の解約対応、ポイント処理の運用が食い違っている場合には、譲渡後にクレームや返金負担が顕在化するおそれがあります。

主な確認ポイントは、次のとおりです。

・利用規約、販売条件、特商法表示が整合しているか

・返品、交換、解約、返金の運用が明確か

・決済代行会社、配送会社、モール運営事業者との契約に問題がないか

・会員データ、購買データ、メール配信データの管理が適切か

・不正注文、チャージバック、レビュー対応等の運用が整理されているか

また、EC事業では、自社サイト型かモール出店型かによっても、承継の難易度や依存リスクが異なります。そのため、M&Aでは、規約や表示だけでなく、決済・物流・顧客対応・データ管理の実務まで確認し、その結果を表明保証、補償条項、承継対象、移行支援義務に具体的に反映させることが重要です。

売り手の視点から見た交渉ポイント

IT企業のM&Aにおいて、売り手は売却価格に目が向きがちですが、実務上は、契約締結後にどこまで責任を負うのかという点も同程度に重要です。特に株式譲渡では、買い手が対象会社をそのまま引き継ぐため、買い手から広範な表明保証や補償を求められることが少なくありません。しかし、これに十分な整理なく応じると、売却後も長期間にわたり予想外の責任を負うおそれがあります。

売り手としては、価格だけでなく、責任範囲と引継義務の限定を意識して交渉すべきです。

(1) 表明保証を広げすぎないこと

買い手は、契約関係、知的財産、労務、個人情報管理などについて広い表明保証を求める傾向があります。

しかし、売り手としては、自ら把握し切れていない事項まで無制限に保証するべきではありません。特にIT企業では、過去案件、外注先との権利処理、運用実務など、事後的に問題が顕在化しやすい分野があります。

したがって、表明保証は、開示資料や認識可能な範囲を踏まえて整理する必要があります。

(2) 補償責任の上限・期間を明確にすること

補償条項については、対象範囲だけでなく、責任の上限額や請求期間を明確に定めることが重要です。これらを曖昧にしたまま契約すると、売却代金を受領した後も、長期間にわたり不安定な立場に置かれます。売り手としては、少なくとも次の点を意識すべきです。

・補償の対象となる事由を限定すること

・補償額の上限を譲渡価格との関係で明確にすること

・請求期間を合理的な範囲に区切ること

・少額請求を防ぐための免責基準を設けること

(3) クロージング前後の義務を過度に負わないこと

売り手には、クロージングまで通常どおり事業を運営する義務や、クロージング後の引継協力義務が課されることがあります。もっとも、その内容が広すぎると、売却後も事実上事業対応に拘束されることになりかねません。特にIT企業では、主要顧客対応、障害対応、キーマン引継ぎなどについて協力を求められやすいため、対象業務、期間、対応方法を具体的に定めるべきです。

(4) 開示と契約調整を連動させること

売り手にとって重要なのは、問題を隠すことではなく、把握した問題を適切に開示し、その内容に応じて契約条件を調整することです。未整理の知財、特定顧客への依存、外注契約の不備などがある場合には、表明保証の例外、補償範囲、価格調整などで処理することが現実的です。

売り手としては、譲渡後の責任を無限定に残さないよう、開示と条項設計を一体で進めることが重要です。

買い手の視点から見た交渉ポイント

IT企業のM&Aにおいて、買い手が重視すべきなのは、取得対象が将来にわたり安定して収益を生み出すかという点です。もっとも、IT企業では、売上や利益が一定程度出ていても、その基盤となる契約関係、知的財産権、人材、データ管理体制に不備があると、譲渡後に想定外の負担が顕在化することがあります。

そのため、買い手としては、価格交渉だけでなく、どのリスクを契約条項で手当てするかを強く意識する必要があります。

(1) 売上の継続可能性を慎重に見極めること

IT企業では、売上が継続収益に見えても、実際には特定顧客、特定案件、特定人材に依存していることがあります。特に、主要顧客との契約が短期更新型である場合や、営業担当者・技術責任者への依存が強い場合には、譲渡後に取引が縮小する可能性があります。

買い手としては、帳簿上の数値だけでなく、収益の持続可能性を契約実態と運用実態の両面から確認すべきです。

(2) デューデリジェンス(DD)で把握した問題を契約に反映させること

買い手にとって重要なのは、問題を発見すること自体ではなく、その問題を契約条件に落とし込むことです。例えば、知的財産権の帰属不明、個人情報管理上の不備、未解決クレーム、偽装請負の疑いなどが見つかった場合には、単に説明を受けるのみで済ませるべきではありません。少なくとも、次のような方法で対応を検討すべきです。

・表明保証の対象として明確にすること

・補償条項で責任分担を定めること

・是正をクロージング条件に組み込むこと

・必要に応じて価格調整を行うこと

(3) 引継ぎと移行支援を具体化すること

IT企業では、契約書上の権利移転が完了しても、それだけで事業運営が安定するとは限りません。ソースコード、クラウド環境、顧客対応履歴、運用手順、障害対応フローなどが適切に引き継がれなければ、譲渡後に業務が混乱するおそれがあります。特にSaaS、運用保守、SESでは、現場レベルでの引継ぎが事業価値に直結します。

そのため、買い手としては、引継ぎ対象、協力内容、期間、対応窓口を契約上できる限り具体化すべきです。

(4) 一般的な雛形で済ませないこと

IT企業のM&Aでは、一般的なM&A契約の雛形だけでは十分に対応できないことが少なくありません。

買い手としては、対象会社の業態、契約構造、知財の整理状況、人材依存性、データ管理の実情を踏まえ、表明保証、補償、クロージング条件、移行支援義務を案件に応じて設計することが重要です。取得後に問題が顕在化してから対応するのではなく、契約交渉の段階でリスク分担を具体化しておくべきです。

弁護士が関与すべき場面

IT企業のM&Aでは、基本合意がまとまった後に契約書だけを弁護士に確認してもらえば足りる、というものではありません。実際には、初期段階から法的論点を整理しておかないと、後になって価格、責任分担、承継範囲の見直しが必要になることがあります。特にIT企業では、契約関係、知的財産権、個人情報、人材依存性など、事業価値と法的リスクが密接に結び付いているため、早い段階での関与が重要です。

弁護士が関与すべき主な場面は、次のとおりです。

・基本合意書の段階で、独占交渉権、秘密保持、費用負担等を整理する場面

・デューデリジェンス(DD)で判明した問題を、価格調整、表明保証、補償条項に反映させる場面

・株式譲渡契約又は事業譲渡契約の内容を具体化する場面

・契約承継、知的財産権、個人情報の取扱いを整理する場面

・クロージング後の引継ぎやトラブル対応を見据えて条項設計を行う場面

M&Aでは、問題が見つかった後に対応するのではなく、想定されるリスクを契約にどう落とし込むかが重要です。その意味で、弁護士は契約書の最終確認にとどまらず、交渉全体のリスク設計に関与すべきです。

リーガルブレスD法律事務所のご案内

IT企業のM&Aでは、価格やスキームの検討が先行し、契約承継、知的財産権、個人情報、人材引き継ぎといった法的論点の整理が後回しになることがあります。しかし、これらを十分に整理しないまま交渉を進めると、デューデリジェンス(DD)の段階で問題が顕在化したり、契約締結後に想定外の負担が生じたりすることがあります。こうした事態を避けるためには、早い段階で法的論点を整理し、自社の状況に応じた進め方を検討することが重要です。

リーガルブレスD法律事務所は、IT企業法務に継続して取り組んでおり、システム開発、SES、運用保守、SaaSECWEB・アプリ制作など、IT業界に特有の契約構造や事業運営の実態を踏まえた法務支援を行っています。IT企業のM&Aにおいても、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書の作成・レビューにとどまらず、契約承継の可否、知的財産権の整理、人材・取引先への依存、個人情報や顧客データの取扱い、引継ぎ体制の設計まで視野に入れて助言している点が特徴です。

ご相談に当たっては、課題の内容やご希望に応じて、主に次のような形でご利用いただけます。

M&Aを進める前に、法的リスクや検討事項を整理したい場合

法律相談サービス

株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、基本合意書、デューデリジェンス(DD)対応など、特定の案件について確認を依頼したい場合

スポットサービス

M&Aの検討段階から契約交渉、クロージング、引継ぎまで継続して相談できる体制を整えたい場合

法律顧問サービス

自社にとって、どの形が適しているか分からない場合でも問題ありません。

売り手として相談したいのか、買い手として検討したいのか、あるいは契約書レビューのみを依頼したいのかを含め、ご事情やご希望を伺った上で、適したサービスをご案内します。

IT企業のM&Aについて、業態に即した観点から相談できる弁護士を探している場合には、当事務所も選択肢の一つとしてご検討ください。

(1) 法律相談サービス

まずは、自社のM&Aに関して何が問題になり得るのかを整理し、どの論点から優先的に対応すべきかを確認したい場合には、法律相談サービスが適しています。

なお、リーガルブレスD法律事務所では、これまでにお取引のない事業者様からのご相談も積極的にお受けしています。IT企業のM&Aでは、初期段階で論点を整理しておくことにより、契約交渉やデューデリジェンス(DD)対応での混乱を防ぎやすくなります。早めのご相談であればあるほど、実情に即した進め方をご提案しやすくなります。 

ご相談内容例

・自社が売り手又は買い手としてM&Aを進めるに当たり、どのような法的論点を優先して確認すべきか整理したい

・株式譲渡と事業譲渡のどちらが自社に適しているのか、契約承継、知的財産権、個人情報、人材引継ぎの観点から相談したい

・基本合意書、デューデリジェンス(DD)対応、最終契約書のうち、どの段階でどのような点に注意すべきか確認したい

サポート内容例

・対象会社の業態、契約構造、取引先との関係、知的財産権やデータ管理の状況を踏まえ、どの論点を優先して検討すべきか整理して提案します

・株式譲渡、事業譲渡それぞれの特徴を踏まえ、想定される法的リスクや契約上の留意点を整理してアドバイスします

・紛争予防の観点から、契約書で手当てすべき条項、デューデリジェンス(DD)で確認すべき事項、引継に向けて整備すべき事項を提案します

相談者が得られるメリット

・自社のM&Aにおいて優先して確認すべき法的課題を整理しやすくなります

・価格面だけでなく、契約承継、知的財産権、人材、データ管理などの重要論点を見落としにくくなります

・株式譲渡と事業譲渡のどちらが自社に適しているかを具体的に検討しやすくなります

・契約交渉、デューデリジェンス(DD)対応、クロージングに向けて、どの場面で弁護士の関与が必要か判断しやすくなります

IT企業の業態に即したM&Aの進め方を、実務に沿って具体的に検討しやすくなります

弁護士費用

190分以内で15,000円(税別)

実施方法

①ご予約(お問い合わせフォーム又はお電話にて日程調整)

②事前準備(関係資料を共有いただきます)

③相談実施(オンライン又は対面)

④解決策提示(リスク診断、交渉方針などを具体的にご提示)

⑤アフターフォロー(ご希望内容に応じて別途契約の上、交渉代理や訴訟対応、継続支援へ移行)

お問い合わせはこちら

(2) スポットサービス(法律相談以外のサービス)

基本合意書、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、デューデリジェンス(DD)対応など、特定の事項について必要な範囲で依頼したい場合には、スポットサービスをご利用いただけます。

リーガルブレスD法律事務所では、法律相談サービス以外にも、例えば次のようなサービスをご提供しています。

・基本合意書、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書その他M&A関連契約書の作成、レビュー

・法務デューデリジェンス(DD)における契約関係、知的財産権、個人情報、取引先対応等に関する確認、助言

・システム開発、SES、運用保守、SaaSECなど、業態別のM&A論点に関する個別相談

・契約承継、知的財産権の帰属、顧客データの取扱い、人材引継に関する法的整理

・表明保証、補償条項、クロージング条件、移行支援条項等の条項設計に関する助言

・クロージング後の引継対応、取引先説明、トラブル予防に関する助言

 

いずれについても簡単にお話をお伺いした上で、お見積書をご提示します。

お見積書の作成は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

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(3) 法律顧問サービス(顧問弁護士サービス)のご案内

継続的に相談できる体制を整え、M&Aの検討段階から契約交渉、クロージング、引継後の対応まで一貫して法務判断を行いたい場合には、法律顧問サービスが適しています。特にIT企業のM&Aでは、契約書の確認だけでなく、契約承継、知的財産権の整理、個人情報や顧客データの取扱い、キーマン人材への依存、取引先対応など、継続的に法的判断が必要となる場面が少なくありません。

問題が顕在化してから弁護士に相談するのではなく、早い段階から継続して相談できる体制を整えておくことが、交渉の安定化、紛争予防、対応の迅速化につながります。

 

ご依頼内容例

・基本合意書、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、関連契約書を継続的に確認してほしい

・デューデリジェンス(DD)対応、契約承継、知的財産権、人材引継、データ管理について随時相談したい

M&Aの検討段階からクロージング後の引継まで、自社の業態に合った法務対応を継続的に整えたい

サポート内容例

・基本合意書、最終契約書、開示資料等の内容を継続的に確認し、対象会社の業態や取引実態に即した修正方針を提案します

・契約承継、知的財産権の帰属、個人情報・顧客データの取扱い、主要取引先や主要人材への対応について、個別事情を踏まえてアドバイスします

M&Aの進行状況に応じて、優先的に整理すべき論点、契約条項、引継体制、社内対応方針を提案します

依頼者が得られるメリット

M&Aの各段階で、法的リスクを継続的に確認しやすくなります

・契約書だけでなく、契約承継、知的財産権、データ管理、引継対応まで含めた継続的な助言を受けやすくなります

・交渉やデューデリジェンス(DD)の途中で問題が見つかった場合にも、事情を把握している弁護士に速やかに相談しやすくなります

・自社の業態や取引実態に合ったM&A対応体制を整えやすくなります

・必要な場面ごとに場当たり的に対応するのではなく、一貫した方針でM&A対応を進めやすくなります

実施方法

①お問い合わせ後、オンライン面談(30分程度、無料)を実施し、ご要望事項の聞き取りやプランの説明を行います

②ご提案書(見積書)の提示

③顧問契約の締結

④窓口の開設(専用メール、チャットの提供)

⑤サービス開始

・日常的な対応(契約書レビュー、相談に即応(即日~数日以内対応可))

・ミーティング(必要に応じて経営課題、法務リスクを総点検)

・追加支援(必要に応じて交渉代理、訴訟対応、研修実施などを提供)

お問い合わせ

下記のフォームを入力してください。

20264月執筆>

※本記事は執筆時点における一般的な見解を示すものであり、個別案件への適用は事案により異なります。

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営業時間:平日9:15〜18:00(土日応相談)
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