【民法改正】第8回 意思表示(錯誤)

【民法改正】第8回 意思表示(錯誤)

 

弁護士:前回までは各種の契約について、民法改正によりどのように変わるのかをご説明しました。今回は、各種の契約を行う前提となる「意思表示」について、解説を試みたいと思います。
 
社長:いきなり「意思表示」と言われても何のことか分からないなぁ…。
 
弁護士:言葉が固いですよね。正面から考えると混乱するかもしれませんので、例外的な事象である、「契約するぞ!」と言ったけど、何らかの事情で誤解していたという場面を想定しながら、話を聞いていただければと思います。
 
社長:「契約するぞ!」と言ったものの、実は誤解があったから「いや、その話はなしよ」という主張ができるか、とイメージすればよいのかな。
 
弁護士:その通りです。まず、誤解の典型例といえる「錯誤」についてです。例えば、頭の中では「A商品が欲しい」と考えていたのに、口では「B商品をください」と言ってしまい、B商品に関する売買契約が成立したという場面を想定してください。
 
社長:ほうほう。
 
弁護士:現行民法では、こういった錯誤に基づく売買契約は無効、つまり最初から契約自体が存在していないという立付けになっていました。しかし、民法改正により「取消し」に変更されました。つまり、原則有効な契約であり、後で問題があれば契約の効力を覆せばよいという立付けになりました。
 
社長:結果的に契約の効力を失うことに変わりはないから、そんなに重要なことなのか?と思うけどなぁ。
それはともかく、本人の勘違いがあるかなんて、相手にはなかなか分からないことなんじゃないの。常に取消しと言われると、相手も安心して取引できないよね。
 
弁護士:無効か取消しかは、やや専門的なところがありますので、とにかく錯誤があった場合は契約の効力を後で覆すことができるという結論だけ覚えていただければ結構です。
 次に、ご指摘のあった点は非常に重要なところであり、今回の民法改正のポイントにもなっています。
 
社長:早速教えてよ。
 
弁護士:たしかに、何でもかんでも勘違いがあったと主張して契約の効力を否定されてしまうと、取引相手はたまったものではありません。そこで、そもそも法律上「錯誤」と言えるためには、勘違いをした表意者にとって、勘違いが無ければ意思表示をしなかったというだけではなく、一般通常人からしても、そのような勘違いがあれば意思表示をしなかったと言える、という主観と客観の二重の要件が必要となることが明確化されました。
 また、これは現行民法にも定めがあったのですが、表意者に重過失があった場合(勘違いがあるといっても、本人がちょっと注意すれば気が付いたという意味です)は錯誤による取消しの主張はできないという点は維持されます。
 
社長:つまり他の人から見ても、その勘違いなら仕方が無いなと思われる程度のものじゃないとダメということだね。
 
弁護士:その通りです。ちなみに、先ほどの事例では頭の中と表示との間にズレが生じていましたが、錯誤で問題となるのは意思表示を行うまでの内心を決定するまでの過程プロセル(動機)の勘違い、つまり、目的・用途に合致するのはA商品であるにもかかわらず、B商品が合致するものと考えてしまい、頭の中も表示もB商品という場面が多いと言われています。講学上は「動機の錯誤」と呼ばれているのですが、これについて現行民法では特に定めが無く、解釈論として取り扱われていました。
 
社長:たしかに、動機の錯誤の方が事例としては多そうだな。
 
弁護士:今回の民法改正ではこの点をクリアー化し、①基礎とした事情(動機部分)に関する認識が真実に反すること、②意思表示の基礎としたことが相手方に表示されていること、③その勘違いが主観的も客観的にも重要なものであること、が明文化されました。
 
社長:相手も動機の部分について分かっているんだから、その場合は取り消されても仕方がないという価値判断になったわけだね。
 
弁護士:その通りです。ちなみに、相手も分かっていたという絡みで付け加えると、表意者が錯誤に陥っていることを相手方が知っていた又は重過失によって知らなかった場合は、錯誤による取消しを主張しうる場合があります。また、相手も表意者と同じ錯誤に陥っていた場合には、取消し可能とされています。
 
社長:勘違いしていることを知っていたのであれば、相手を保護する必要もないということだね。
 
弁護士:その通りです。
 
社長:勘違いしている人とその取引相手との二当事者間のルールは分かったけど、第三者が絡んできた場合はどうなるんだい。
 
弁護士:鋭いご指摘です。実は現行民法には第三者との関係をどのように規律するのか規定が無い状態です。今回の民法改正では、第三者が善意(錯誤を知らないこと)かつ無過失(注意しても錯誤があるとは分からなかったこと)の場合は、第三者との関係では対抗できないという条項が明記されることになりました。
 
社長:第三者が保護される場合のルールを設けたわけだね。
 
弁護士:そうです。
ちなみに、第三者保護のルールに関連して申し上げれば、心裡留保による意思表示(表意者が真意ではないと知りながら、あえて真意とは異なる意思表示を行なうこと)の場合、第三者が善意(無過失は不要)であれば、取消しを対抗できないとする条文も明記されることになりました。
 
社長:なるほどねぇ。
 

 

 

 

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。