画面表示(UI)は著作権その他法律の保護対象になるのか?

【ご相談内容】

当社は、ビジネスソフトからゲームまで幅広くソフトウェアを制作する会社です。

最近、当社が開発したソフトウェアの画面表示(UI)と類似するソフトウェアが世の中に出回っており、何らかの対策を講じたいと考えています。

法的な対策としてどのようなことが考えられるのでしょうか。

 

 

【回答】

画面に表示される内容(画像)を表現方法の1つであると捉えた場合、著作権法に基づき対策を講じることができないか検討することになります。ただ、ビジネスソフトの場合やスマートフォン等の小さな画面を前提にしたソフトウェアの場合、画面上で表現できる事項が限られてしまうため、ありふれた画面表示(UI)になりがちという問題があります。

次に、画面表示(UI)を意匠登録するという方法が考えられます。令和元年の意匠法改正により、画面表示(UI)も意匠登録できるようになったのですが、全ての画面表示(UI)が意匠登録できるわけではありません。この点に注意しながら、意匠権に基づく対策を講じることができるのか検討することになります。

さらに、画面表示(UI)に関連する技術を特許にするという方法が考えられます。もっとも、画面表示(UI)それ自体を保護対象とするのではなく、例えば特定の技術を用いることで画面操作がしやすくなるといった点に着眼することになりますので、発想の転換が必要となることに注意を要します。

最後に、画面表示(UI)について、不正競争防止法(商品等表示又は商品形態)に基づく対処法も考えらえます。ただ、画面表示(UI)が不正競争防止法の各要件を満たすのか検討の余地があります。

以上の通り、画面表示を法的に保護するための対処法はいくつか考えられますが、各手法の問題点を把握しながら、適切な手法を選択することがポイントとなります。

以下の【解説】では、実務上各手法を用いる場合の留意点を整理しています。本記事に目を通していただくことで、競業他社より類似する画面表示が出現した場合の法的対処法につきご理解いただけるかと思います。

 

 

【解説】

1.画面表示(UI)と著作権

(1)著作権侵害の成立の可否

画面表示(UI)が著作物に該当する場合、他の事業者が類似する画面表示(UI)を用いているのであれば、著作権法が定めている複製権又は翻案権侵害として対処することが考えられます。

ちなみに、類似画面について新たな創作が認められない場合(いわゆるデッドコピー)であれば複製、新たな創作が付加されている場合は翻案と区別して取り扱うのですが、裁判所は翻案について、次のように定義しています。

 

【最高裁判所平成13年6月28日判決】

翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為

 

ただ、実のところ、他の事業者が用いる類似画面表示(UI)に対し、著作権の問題として処理する場合、複製権侵害なのか翻案権侵害なのかはあまり重要ではありません(どちらにせよ著作権侵害という結論に変わりはないため)。

重要なのは、上記裁判例がさらに踏み込んで指摘しているのですが、たとえ真似をしたとしても、当方の画面表示(UI)に創作性がない部分を真似したに過ぎないのであれば、著作権侵害は成立しないと示している点です(裁判例は翻案について触れていますが、同様の趣旨は複製の場合にも該当します)。

 

【最高裁判所平成13年6月28日判決】

既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である

 

そして、上記裁判例は、具体的な事情を当てはめた結果、「本件ナレーションは、本件著作物に依拠して創作されたものであるが、本件プロローグと同一性を有する部分は、表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分であって、本件ナレーションの表現から本件プロローグの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから、本件プロローグを翻案したものとはいえない。」として、単に類似しているだけでは著作権侵害は成立しないと結論付けました。

したがって、著作権侵害の判断においては

 

自らの著作物と、相手方の著作物との同一性を有する部分を抽出する

抽出した同一性のある部分に関する自らの著作物部分につき、創作性の有無を判断する

創作性がある場合、相手方の著作物より本質的な特徴を直接感得できるのか(=イメージとしては自らの著作物との関係性を連想させるのかという意味です)を判断する

 

ことがポイントとなります。

これを前提に、ビジネスソフトの画面表示(UI)とゲームの画面表示(UI)につき、著作権法で対処できるのか検討します。

 

(2)ビジネスソフトの場合

ビジネスソフトの代表例としては、日程管理ソフトや経理ソフトなどがあります。

ただ、これらのビジネスソフトについては、どれも似たり寄ったりの画面表示(UI)であることがむしろ通常であり、一見すると著作権侵害だらけではないかと思われるかもしれません。

しかし、画面表示(UI)が似たり寄ったりになるのは、ソフトウェアが実現しようとする業務内容や機能を表現しようとした場合、必然的に表現方法が限られることに原因があります。

この点に関し、次のように判断する裁判例が存在します。

 

【東京地方裁判所平成14年9月5日判決】

一般に、ビジネスソフトウェアは、表計算や文書作成など特定の計算処理や事務的作業を行うことを目的とするものであって、その表示画面も、コンピュータへの指令や数字・文字等の情報を入力するためか、あるいは計算の結果や作成された文書等を利用者が閲覧するためのものである。このような表示画面は、作業の機能的遂行や利用者による操作や閲覧の容易性等の観点からその構成が決定されるものであって、当該ビジネスソフトウェアに要求される機能や利用者の利便性の観点からの制約があり、作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は限定的なものとならざるを得ない。

 

上記裁判例は、上記(1)で記載した著作権侵害の判断基準②に関し、ビジネスソフトの場合は創作性の有無を制限的に判断しています。そして、他の裁判例でも同様の傾向があるようです。

なお、上記裁判例は、さらに次のように判断しています。

 

【東京地方裁判所平成14年9月5日判決】

仮に、他社ソフトの表示画面に、原告ソフトの表示画面において認められる創作的要素のうちの一部が共通して認められるとしても、原告ソフトにおける他の創作的要素が他社ソフトの表示画面に存在しない場合や、原告ソフトに存在しない新たな要素が他社ソフトの表示画面に存在するような場合には、表示画面全体としては、他社ソフトの表示画面から原告ソフトの表示画面の創作的表現を直接感得することができないという事態も、十分に考えられるところである。

これを要するに、原告ソフトの表示画面については、仮にこれを著作物と解することができるとしても、その創作的表現を直接感得することができるような他者の表示画面は、原告ソフトの表示画面の創作的要素のほとんどすべてを共通に有し、新たな要素も付加されていないようなものに限られる。すなわち、仮に原告ソフトの表示画面を著作物と解することができるとしても、その複製ないし翻案として著作権侵害を認め得る他者の表示画面は、いわゆるデッドコピーないしそれに準ずるようなものに限られるというべきである。

 

結局のところ、上記(1)で記載した著作権侵害の判断基準③に関し、少しでも差異があれば「本質的な特徴を直接感得」することができないとして、翻案権侵害が成立することは事実上皆無であるとしています。

なかなかここまで言い切った裁判例は他にはないようですが、ただ、多くの裁判例を検討する限り、ビジネスソフトについては簡単に著作権侵害を認めない傾向があることは間違いありません。

 

以上のことから、ビジネスソフトの画面表示(UI)の模倣について、著作権で対処することは難儀することが多いと考えらえます。

 

(3)ゲームの場合

いわゆるテレビやパソコン等でプレイできるゲームの場合、特徴的なキャラクターとその動作、様々な背景画像とその組み合わせ、画面遷移等による表現が考えられることから、ビジネスソフトの場合のような表現方法の制限を考慮する必要はありません。

したがって、上記(2)で記載したような、著作権侵害の成立を制限する方向での価値判断は働きづらいと考えられます。

しかし、スマートフォン用のアプリゲームの場合、表示する端末画面が小さいことから、細かな表示を表現しづらく、どうしても表現上の制限が生じえます。この点を考慮すると、スマートフォン用のアプリゲームの場合、著作権侵害の成否に関し、ビジネスソフトと同様の価値判断が働く可能性があります。

この点、事例判断とはなりますが、スマートフォン用の釣りゲームに関し、次のように判断している裁判例があります。

 

【知的財産高等裁判所平成24年8月8日判決】

原告作品と被告作品とは、いずれも携帯電話機向けに配信されるソーシャルネットワークシステムの釣りゲームであり、両作品の魚の引き寄せ画面は、水面より上の様子が画面から捨象され、水中のみが真横から水平方向に描かれている点、水中の画像には、画面のほぼ中央に、中心からほぼ等間隔である三重の同心円と、黒色の魚影及び釣り糸が描かれ、水中の画像の背景は、水の色を含め全体的に青色で、下方に岩陰が描かれている点、釣り針にかかった魚影は、水中全体を動き回るが、背景の画像は静止している点において、共通する。

しかしながら、そもそも、釣りゲームにおいて、まず、水中のみを描くことや、水中の画像に魚影、釣り糸及び岩陰を描くこと、水中の画像の配色が全体的に青色であることは、…他の釣りゲームにも存在するものである上、実際の水中の影像と比較しても、ありふれた表現といわざるを得ない。

次に、水中を真横から水平方向に描き、魚影が動き回る際にも背景の画像は静止していることは、原告作品の特徴の1つでもあるが、このような手法で水中の様子を描くこと自体は、アイデアというべきものである。

(省略)

以上のとおり、抽象的にいえば、原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面とは、水面より上の様子が画面から捨象され、水中のみが真横から水平方向に描かれている点、水中の画像には、画面のほぼ中央に、中心からほぼ等間隔である三重の同心円と、黒色の魚影及び釣り糸が描かれ、水中の画像の背景は、水の色を含め全体的に青色で、下方に岩陰が描かれている点、釣り針にかかった魚影は、水中全体を動き回るが、背景の画像は静止している点において共通するとはいうものの、上記共通する部分は、表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない

 

表示範囲に制限があることを理由に、例えば、分かりやすさを追求し簡略化された影像表現を用いた場合、上記(1)で記載した著作権侵害の判断基準②については、ありふれた表現であるとして創作性が否定されやすい傾向があると考えられます。

また、創作性が認められたとしても、強烈に個性的なものとはなりにくいため、少し差異があれば、上記(1)で記載した著作権侵害の判断基準③について、「本質的な特徴を直接感得」することができないと判断される傾向があると考えられます。

 

以上のことから、一般論としてゲームはビジネスソフトより多様な表現方法を用いることができるため、ゲーム画面の模倣に対して著作権で対応しやすいと考えられます。

しかし、表示範囲など周囲環境によって表現方法に制約が生じる場合、ゲーム画面表示(UI)が類似する場合であっても、著作権で対処するハードルが上がってしまうことに注意を要します。

 

(4)画像とプログラムとの関係

ビジネスソフト及びゲームについては、画像を表示させるためのプログラムが組み込まれています。

したがって、画像それ自体ではなく、プログラムが著作物として認められるのであれば、これを根拠として、結果的に画面表示(UI)の保護を図ることができる場合があります。

プログラムの著作物については、次の記事をご参照ください。

 

(参考)

プログラムは著作権法でどこまで保護されるのか。注意点とポイントを解説

 

 

2.画面表示(UI)と意匠権

画面表示(UI)=デザインと考えた場合、意匠登録を行うことで画面表示(UI)の保護を図る方法が考えられます。

この点、意匠について、意匠法は次のように定義しています。

 

【意匠法第2条第1項】

この法律で「意匠」とは、…(省略)…画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第2項、第37条第2項、第38条第7号及び第8号、第44条の3第2項第6号並びに第55条第2項第6号を除き、以下同じ。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

 

ただ、この定義からすると、ありとあらゆる画面表示(UI)が意匠登録の対象となるわけではありません。

すなわち、機器の操作の用に供されるもの(例:操作画面)と機器がその機能を発揮した結果として表示されるもの(例:表示画像)に限定されます。

したがって、ゲーム等のコンテンツの場合、機器等の機能に関連する画面表示(UI)ではなく、また機器等の付加価値を高めるものではないため、意匠登録の対象となりません(要は、画面表示(UI)が、ゲームをプレイするためのハード機器それ自体の美観を惹起させるものではないということです)。

以上のことから、画面表示(UI)について、意匠登録による保護を検討するのであれば、事実上ビジネスソフトの場合に限られることになること、注意を要します。

詳細については、特許庁が公開している次の資料をご参照ください。

 

(参考)

令和元年意匠法改正特設サイト(特許庁)

 

 

3.画面表示(UI)と特許権

画面表示(UI)が特許の対象となるのか、懐疑的な方もいるかもしれません。

たしかに、画面表示(UI)それ自体を特許の対象とすることは、相当困難と言わざるを得ません。

ここでいう画面表示(UI)の特許とは、何らかの動作が絡むことで、結果的に画面表示(UI)が見やすくなる、操作がしやすくなるといった技術的な成果に対する発明のことを指します。すなわち、画面表示(UI)それ自体を特許の対象としているわけではなく、表示技術に対する特許を意味します。

したがって、画面表示(UI)について、特許による保護を検討するのであれば、画面表示(UI)に至るまでの技術的発想に焦点をあてるという作業が重要となります。

なお、一例として、ゲームに関し、画面に表示された敵キャラクターを振動で知らせる装置の特許権に関する裁判例などが公表されていますので、イメージを掴んでいただければと思います。

 

(参考)

知的財産高等裁判所令和1年月11日判決

4.画面表示(UI)と不正競争防止法

(1)周知表示混同惹起(不正競争防止法第2条第1項第1号)、著名表示冒用(同第2号)

そもそも画面表示(UI)が「商品等表示」に該当するのかという問題があるのですが、この点、ビジネスソフトについて、前述の裁判例は次のように判断しています。

 

【東京地方裁判所平成14年9月5日判決】

コンピュータソフトウェアの表示画面、例えばトップページ、情報表示画面や入力画面等が他に例を見ない独特の構成であり、そのような表示画面の構成が特定の商品(ソフトウェア)に特有のものとして、需要者の間に広く認識されている場合には、当該表示画面が同号にいう「商品等表示」に該当することも、可能性としては否定することができない。

しかしながら、ソフトウェアの表示画面は、通常は、需要者が当該商品を購入して使用する段階になって初めてこれを目にするものであり、また、ソフトウェアの機能に伴う必然的な画面の構成は「商品等表示」となり得ないものと解されるから、そのような事態は、ソフトウェア表示画面における機能に直接関連しない独自性のある構成につき、これを特定の商品(ソフトウェア)に特有のものである旨の大規模な広告宣伝がされたような例外的な場合にのみ、生じ得るものである。

 

一方、ゲームについては、前述の裁判例は次のように判断しています。

 

【知的財産高等裁判所平成24年8月8日判決】

ゲームの影像が他に例を見ない独創的な特徴を有する構成であり、かつ、そのような特徴を備えた影像が特定のゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されること等により、当該影像が需要者の間に広く知られているような場合には、当該影像が不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあり得るものと解される。

しかしながら、ゲームの影像は、通常は、需要者が当該ゲームを使用する段階になって初めてこれを目にするものである。本件において、第1審原告が周知商品等表示と主張する原告影像は、原告作品の冒頭に登場する画面ではなく、ゲームの途中で登場する一画面又はそれに類似する画面にすぎないものであり、ゲームの全過程にわたって繰り返されて長時間にわたって画面に表示されるものではない。

 

上記裁判例を踏まえると、ビジネスソフト・ゲームを問わず、画面表示(UI)が「商品等表示」に該当する可能性は限りなく低いと考えられます。

したがって、不正競争防止法に定める周知表示混同惹起行為及び著名表示冒用行為に該当するとして、画面表示(UI)の保護を図る方法は難しいと考えるべきです。

 

(2)商品形態模倣(不正競争防止法第2条第1項第3号)

不正競争防止法第2条第1項第3号に定める「商品形態」は有体物に限られるのではないかという議論があったのですが、この点については令和5年に成立した改正不正競争防止法で無体物を含むことが明確になりました。

したがって、画面表示(UI)も「商品形態」に該当する可能性はあり得るところです。

ただ、不正競争防止法が対象としている「商品形態」は“ありふれた形態”が除外されるところ、少なくともビジネスソフトの画面表示(UI)の場合、一般的にはありふれた形態にならざるを得ず、「商品形態」に該当する可能性は低いと言わざるを得ません。

したがって、ゲームの画面表示(UI)の場合は検討の余地があるものの、ビジネスソフトの画面表示(UI)を不正競争防止法に定める商品形態模倣行為に該当するとして、保護を図る方法は難しいと考えられます。

 

 

5.当事務所でサポートできること

生活・仕事スタイルが電子化する中で、人間とコンピュータ・ロボットを繋ぐ画面表示(UI)はますます重要になってくると考えられます。

このため、画面表示(UI)で自社の独自性や優位性を保とうと考える事業者は増加すると思われるのですが、現行の法体系で画面表示(UI)を法的保護対象にするためには、事前に抜かりなく準備をしておく必要があります。

当事務所では、画面表示(UI)を守るための方策のご提案や、画面表示(UI)が類似する場合の対処法など複数の事例を経験しており、知見とノウハウを蓄積しています。

当事務所は、これら知見とノウハウを最大限活用し、より適切な成果が得られるよう尽力することをお約束します。事業者の皆様におかれまして、画面表示(UI)に関するお悩みがある場合、是非当事務所にお声掛けください。

 

なお、画面表示以外の商品名称やデザイン模倣については、次の記事もご参照ください。

 

(参考)

商品名称・デザインを模倣された場合(パクリ)の対処法について、弁護士が解説!

 

<2023年9月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。