【事業承継の勘所⑦】事業承継対策としての組織再編・M&A

 

1.はじめに

これまでは後継者(基本的に親族、場合によっては親族外の専務や番頭格の従業員など)を念頭に解説を行ってきました。

しかし、どうしても後継者が見つからないという場合があります。一方、同業他社や異業種からの参入を考えている会社からすれば、自社が行っている事業を引き継ぎたいという話も出てきます。

そこで、今回は、非後継者への事業承継、具体的には組織再編・M&Aについて解説を試みます。

 

 

2.会社(法人それ自体)を譲渡するか、一事業部門を譲渡するか

組織再編・M&Aを考える場合、大きな視点として表題のようなものがあります。具体的には、「会社(法人それ自体)を譲渡する場合」は株式譲渡、合併を検討する、「一事業部門を譲渡する場合」は事業(営業)譲渡、会社分割を検討する、と分類できます。

 

ところで、これらの手続きを選択するに際して、最初に念頭に置かなければならない事項があります。それは、取引先や債権者との関係をどうするのか(引き継いでもらえるのか)、新たな許認可手続きが必要とならないか、という問題です。

よく、書籍やネット上に、合併や会社分割は債権者の同意なく手続きを行なうことが可能…という記載があったりします。たしかに法律上は間違っていません。しかし、往々にして、取引契約書にはこのような組織再編・M&Aが行われる場合は事前の報告義務が課せられていたり(報告義務を怠ると解除原因になる)、当然の無催告解除事由と定められていたりします。いわゆる“チェンジオブコントロール条項”と呼ばれるものなのですが、どこまでの取引先や債権者に対し、どのタイミングで、どの程度まで組織再編・M&Aの話を事前告知し、あらかじめ同意を取り付けておく方が実務上は大きなポイントになりますので注意が必要です。

また、許認可についても、書籍やネット上で「許認可の承継OK(新たな許認可不要)」という記載があっても安易に信じない方がよいかと思います(組織再編・M&Aを行う前提条件が異なっていることが多いので)。必ず、監督官庁に事前相談を行い、見解を確認したほうが良いといえます。

なお、上記とは別の話ですが、当然のことながら、これらの組織再編・M&Aに対する課税関係はそれぞれ異なるものとなりますので、税理士の協力は必須となります。

 

3.株式譲渡について

これは読んで字の如く自社株式を第三者(非後継者)へ譲渡することです。この結果、第三者の完全子会社になったり、関連(グループ)会社になったりします。ポイントとしては、株式譲渡それ自体では自社の法人格は消滅しないというところになります。

株式という対象財産を売買するだけですので、比較的簡易に行いやすいという点がメリットと考えられます。

なお、株式を譲受ける側からすれば、会社(法人それ自体)をもらいうける以上、当該法人において将来的な偶発債務や簿外債務が発生しないか重大な関心ごとになります。このため、いわゆるデューディリジェンスと呼ばれる実地調査が行われることがあり、根掘り葉掘り会社経営のことを質問されますので、この辺りは覚悟する必要があります。

 

 

 

4.合併

一般的には吸収合併を用いられることが多いので、以下は吸収合併を念頭に置いていることにご留意ください。

さて、合併についても株式譲渡と同じく会社(法人それ自体)を譲渡する形になります。ただ、吸収合併の場合、会社(法人それ自体が)が第三者の法人の中に吸収されてしまい、自社が完全に消滅するという点です。法律論はともかく心情論として、この点を受け入れることができるのかが実は重要だったりします。

なお、合併手続きは、やや専門的な知識と法的手続きが要求されますし、登記も必要です。このため、専門家に依頼・相談しながらではないとなかなか進めにくいのが実情です。また、会社を買取る側からすれば、当該会社が自社内に吸収される以上、将来的な偶発債務や簿外債務が発生した場合、買取る側がすべて負担しなければならないという点で非常にリスクのある取引となります(株式譲渡の場合、買取った会社・法人格だけが負担するのであって、株式保有者が当然に責任を負担するわけではありません)。このため、株式譲渡の場合以上にデューディリジェンスが厳格に行われる傾向がありますので、吸収される側としては説明義務や社内調査の負担が重くなることを覚悟する必要があります。

 

 

5.事業(営業)譲渡

これは自社の事業部門のうち、買取り希望者が欲しい事業部門だけを切り売りする手続きとなります。事業内容を特定し、引き継ぎたい個別具体的な資産等を特定したうえで売買するという手続きになることから、これについても比較的容易に行われる手法ではないかと考えられます。

ただ、合併と異なり、当然に取引先が一緒に引っ付いてくるわけではありません。つまり、取引先が、当該事業を買受けた側と取引を継続したくないと言ってきた場合、そのまま甘受せざるを得ないところがあります。このため、重要な取引先とは事前の交渉を要することとなり、事業売却側で緻密かつ誠実に取引先と交渉を行い、内諾を取り付ける必要があるという点で負担が生じます。

また、負債についても当然に事業買取側に移転するわけではありません。このため、事業部門を売却したはいいが負債だけが残ってしまい、返済しようにもお金を生み出す事業が無いということにもなりかねません。事業売却側としては、事業譲渡による売却資金で返済が可能なのか、残った負債についてどのように整理するのか、この点を意識しておく必要があります。一方、事業買取側としては、どこまで負債を引き継ぐのか契約内容の明確化はもちろん、法律上負債を引き継ぎかねない商号や看板(屋号)、標章の続用はできる限り回避するなどの方策を講じる必要があります。

 

 

6.会社分割

買取希望者が欲しい事業部門を売渡すという点では事業(営業)譲渡と同じです。会社分割の特徴は、売渡し対象となる事業部門に属する資産はもちろんのこと、債権者や取引先についての同意を得ることなく(但し、チェンジオブコントロール条項や労働者に関する特則には注意)、強制的に移転させることができる手続きとなります。

この手続きについては、かなりの専門知識が必要ですし、登記を含めた手続きの煩雑さがありますので、専門家に依頼・相談しながら行った方が良いでしょう。

 

 

7.まとめ

後継者が見つからず、第三者に自社を委ねるための組織再編・M&A手続きの概略の解説を行いました。専門的な知識はもちろん税務も絡みますので、各種専門家に依頼・相談しながら手続きを進めて行った方が望ましいといえます。

 

(平成29年9月13日更新)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。