【事業承継の勘所⑤】事業承継対策と株式分散の防止

 

1.はじめに

前回までは、事業承継に必要な資産として、株式や事業用不動産などを包括的に移転させる方法である、遺言書の作成や生前贈与、売買といったものを検討してきました。
今回からは、事業承継の中でも特に重要となる経営支配権の問題、具体的には株式の帰属にスポットを当てて検討を試みます。
今回は、株式が“現状より分散しない”方策についてです。

 

 

2.定款による株式譲渡制限について

世間の認識と法律の原則論がよく逆転している場面として、株式譲渡が自由であることという点があげられます。すなわち、法律的には株式譲渡は自由に行うことができるというのが大原則論であり、例外として非上場会社において株式譲渡を制限したいのであれば、別途定款において、株式譲渡を行う際には株主総会又は取締役会等の承認を必要とする旨定めておく必要があるという立付けになっています。

 

したがって、中小企業といえども、株式譲渡が当然に制限されているわけではありません。特に、定款による株式譲渡制限が法律上定められたのは昭和41年の商法改正時であるため、これ以前に設立された法人であれば、たとえ家族経営であっても株式譲渡の制限が定められていない可能性があります。
定款による株式譲渡制限が設けられているか否かは、商業登記簿謄本(現在事項全部証明書)で確認することが可能ですので、最寄りの法務局で謄本を入手してください。

 

 

3.定款のよる株式譲渡制限の限界

上記の通り、株式分散防止策として定款による株式譲渡制限は機能しますが、絶対的なものではなりません。

というのも、株式譲渡を行いたいと希望する譲渡人が会社に申請し、会社の機関(株主総会又は取締役会)が株式譲渡を承認しないと決定した場合、次の手段として譲渡人は、当該会社が買取るか、買取人を指定するよう請求することが法律上できるからです。
キャッシュが十分にある会社であれば、むしろ譲渡人より買取ることができるので、株式の集中化を図ることが可能になるので願ったりかなったり…といっても良いかもしれません。しかし、キャッシュが無い会社であれば自社株として購入することが不可能ですし、またキャッシュに多少融通がきく会社であっても、自社株として購入するには法律上の財源規制がありますので、上手くいくかは不透明なところがあります。また、会社で自社株買取り不可となると、第三者の買取人を指定する必要があるのですが、その第三者を見つけることが一苦労ですし、第三者において株式を買取るだけの資金を準備できるかも検討する必要があります。
したがって、定款による株式譲渡制限という制度を用いるだけでは、株式分散防止策としては不十分となります。

 

 

4.相続人等に対する売渡し請求について

株式の分散(現状からの変更)が生じる場面は、株式保有者が任意に譲り渡そうとする場面だけではありません。例えば、オーナーや後継者以外の株式保有者が死亡するなど(株式保有者が法人であれば合併など)して、当然に移転が生じるという場面もあります(このような当然移転のことを法律上は「一般承継」と呼んだりします)。

このような場面では、10年くらい前までは手の打ちようがない=株式拡散防止策が無いという状況でした。というのも、相続などの一般承継の場合、上記2.で解説した定款による株式譲渡制限の対象外となっていたからです。
ところが、平成18年の会社法施行に伴い、相続などの一般承継により譲渡制限株式(定款によって譲渡制限が付された株式のことです)を取得した者に対し、会社は当該株式を売り渡すよう請求することが法律上認められることとなりました。これにより任意の株式譲渡(特定承継と呼んだりします)のみならず、相続などの一般承継についても株式分散防止策を講じることができるようになります。
もっとも、この売渡し請求については、定款の定めが必要となります。したがって、定款変更手続きが必要となりますので、その点は手間暇をかける必要が出てきます(なお、売渡し請求ができる大前提として、会社が発行する株式すべてが譲渡制限株式である必要があります。全株式を譲渡制限株式に定款変更する場合は株主総会の“特殊”決議が必要となりますので、注意が必要です)。

 

 

5.相続人等に対する売渡し請求導入に際しての注意点

定款変更が必要であるということは、株主総会で特別決議を成立させるだけの株式を保有していることが大前提となります。

また、会社が売渡し請求権を行使したものの、法律上の財源規制に引っ掛かってしまい、相続などの一般承継が生じタイミング時点ではたまたま会社の業績が悪かった場合、自社株を購入しようにも購入ができない可能性があることにも注意が必要です。
さらに、売渡し請求権の行使期間の制限(一般承継を知ったときから1年以内)、権利行使の度に株主総会の特別決議が必要(定款変更の特別決議とは別です)といった手続き上の制約事項にも注意を払う必要があります。
これ以外にも、相続人等に対する売渡し請求を導入することで、かえって後継者に不利に作用する場面もあり得ることが指摘されています。

 

例えば、オーナー社長が70%、オーナー社長の唯一の相続人であり後継者が10%保有、推定相続人ではない非後継者が20%の株式を保有していたとします。単純に相続が生じた場合、後継者が80%の株式を保有することになるので何ら問題が無いのでは?と思われるかもしれません。ところが、相続人等に対する売渡し請求が定款上定められていた場合、非後継者のみで売渡し請求を実行できる可能性があります。これは、売渡し請求権を行使するか否かの株主総会決議について、後継者はまさしく対象当事者であることから当該総会での決議に参加することができず、上記例でいえば非後継者の一存で権利行使するか否かが決まってしまうからです。

 

上記のような例からもわかる通り、単純に制度を導入すればよいというわけではなく、株式の保有状況を踏まえながら検討を進める必要があります。

 

 

6.まとめ

株式分散防止のための代表的な制度を2つご紹介しました。次回は、議決権保有割合の低下防止策について、解説を試みたいと思います。

 

(平成29年9月6日更新)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

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