不表示(表示をしないこと)と景品表示法・製造物責任法との関係
不表示(表示をしないこと)と景品表示法・製造物責任法との関係
第1 はじめに
これまで、6回にわたって景品表示法に関する問題を解説してきました。
ところで、優良誤認・有利誤認等の問題については、いずれも「自社製品の素晴らしさを強調したいがために積極的に表示しすぎたこと」が、不当表示になってしまうとイメージできるかと思います。
そうであれば、不当表示の問題を回避するために「あえて表示をしない」場合、景品表示法の問題は生じないのか?という疑問がわいてくるかもしれません。
第2 不表示と景品表示法
1. まず、確認しておきたいのが、「表示をしない=不当表示の問題は生じない」という図式が成り立たないということです。
例えば、前々回に取り上げた不当広告の1つである「おとり広告」であれば、
・取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示は不当表示である
・取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示は不当表示である
とガイドラインに明記されています。
また、これまた以前に取り上げた「比較広告」についても、
・一般に、ある事項について比較する場合、これに付随する他の短所を表示しなかったとしても特に問題ない。
しかしながら、表示を義務付けられており、又は通常表示されている事項であって、主張する長所と不離一体の関係にある短所について、これを殊更表示しなかつたり、明りょうに表示しなかつたりするような場合には、商品全体の機能、効用等について一般消費者に誤認を与えるので、不当表示となるおそれがある。
例えば、土地の価格を比較する場合において、自社が販売する土地には高圧電線が架設されているため安価であるという事情があるにもかかわらず、これについて特に触れないようなときには、不当表示となるおそれがある。
とガイドラインに明記されています。
したがって、表示しないことが不当表示対策にはならないことをまずは確認する必要があります。
2. ちなみに、上記の比較広告の例示では不動産取引に関する事例が用いられていますが、不表示による不当表示の問題は、不動産広告で特に多く見受けられるようです。
例えば、「市街化調整区域のため住宅建築不可であるにもかかわらず、その旨の記載がない」とか、「土地に抵当権が設定されているにもかかわらずその旨の記載がない」等の事例があります。
また、不動産以外であれば、ダイエット食品の事例などもあります。例えば、食事制限や運動が必要であるにもかかわらずその旨記載せず、あたかも健康食品を摂取するだけ著しい痩身効果が得られるかの如く表示した健康食品について、不当表示とされた事例があります。
第3 不表示と製造物責任法
ところで、「表示をしないこと」については、景品表示法の問題としてクローズアップされるよりは、むしろ「表示をしない」=「指示警告に欠陥がある」=製造物責任法に基づく損害賠償義務が発生するのではないか…という形でクローズアップされることが多いように思われます。
そこで、次回からは、いわゆる表示に関する民事責任としての「指示警告上の欠陥」について解説を試みたいと思います。
なお、マーケティング的にはマイナスにしか作用しないにもかかわらず、警告表示を行ったことで法律上の損害賠償責任を否定された事例を1つ掲載しておきます。
(いわゆるこんにゃくゼリー誤謬事故に関する神戸地裁姫路支部平成22年11月17日判決です。なお、この記事を掲載した平成23年9月17日時点では、大阪高等裁判所にて係争中のようですので、確定した裁判事例ではないことに予めご留意下さい)。
「本件こんにゃくゼリーの警告表示は、…外袋の表面にはその右下に、ある程度の大きさで、子供及び高齢者が息苦しそうに目をつむっているイラスト(ピクトグラフ)が描かれ、こんにゃく入りゼリーであることも明示されていること、外袋の裏面には、子供や高齢者はこんにゃくゼリーをのどに詰めるおそれがあるため食べないよう赤字で警告されており、その真上には、ミニカップ容器の底を摘んで中身を押し出し吸い込まずに食するよう、摂取方法が同容器の絵とともに記載されていることに加え、…本件こんにゃくゼリーの外袋表面の中央には「蒟蒻畑」と印字されており、食感等の点で通常のゼリーとは異なることを容易に認識し得ると解されることからすれば、本件こんにゃくゼリーの警告表示は、本件事故当時において、一般の消費者に対し、誤嚥による事故発生の危険性を周知するのに必要十分であったというべきである。
したがって、本件こんにゃくゼリーにつき、警告表示の欠陥は認められない。」
※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。