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AIで有名人の顔や声を再現すると違法?パブリシティ権と2026年東 京地裁判決を弁護士が解説

目次

はじめに AIで有名人の顔や声を再現することは違法なのか

生成AIの進化により、実在する人物にそっくりな画像や動画、音声を、比較的簡単に作成できるようになりました。例えば、人気俳優に似た人物を登場させる広告動画や、有名声優の声に似たAI音声を利用した商品紹介動画なども、技術的には制作可能です。

しかし、本人の写真や録音データを直接使用していなければ、こうしたAI生成物を自由に利用できるのでしょうか。また、「AIで生成したものです」と明示したり、収益目的ではないSNS投稿で使用したりする場合であれば、法律上の問題は生じないのでしょうか。

この問題を考える上で注目されるのが、2026年9月30日に東京地方裁判所が言い渡した判決です。この判決では、声も一定の場合にはパブリシティ権の保護対象になるという判断が示されました。

また、これに先立つ2026年8月には、法務省が「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」(以下「法務省報告書」といいます。)を公表しています。

そこで、本記事では、パブリシティ権の基本的な考え方を説明した上で、東京地裁判決と法務省報告書を踏まえ、生成AIによって有名人の顔や声を再現する行為がどのような場合に違法となり得るのか、企業が注意すべきポイントとともに解説します。

1.パブリシティ権とは何か?肖像権・著作権との違い

(1)パブリシティ権とは

パブリシティ権とは、人の氏名や肖像などが有する「顧客吸引力」を排他的に利用する権利をいいます。

顧客吸引力とは、簡単にいえば、人々の関心や注目を集め、商品やサービスの販売などを促進する力のことです。

例えば、人気俳優が出演する広告を見て商品に興味を持ったり、有名スポーツ選手の写真が掲載された商品を購入したりすることがあります。このように、著名人の名前や容貌などには、それ自体に経済的な価値が認められる場合があります。

もっとも、パブリシティ権について、権利の内容や侵害の成立要件を直接定めた法律が存在するわけではありません。裁判例の積み重ねによって、その保護が認められてきました。

特に重要なのが、最高裁平成24年2月2日判決、いわゆる「ピンク・レディー事件」です。

この事件で最高裁は、パブリシティ権を人格権に由来する権利の一内容と位置付けた上で、氏名や肖像などを無断で使用する行為が、専らそれらの有する顧客吸引力の利用を目的とする場合には、不法行為法上違法となると判断しました。

そして、侵害となる典型例として、次の3つの類型を示しました。

① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

③ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

例えば、有名人の写真を無断でブロマイドとして販売する行為は①、写真を無断でTシャツに印刷して販売する行為は②、商品の広告に本人の写真を無断で使用する行為は③に該当し得ます。

ただし、これらの3類型は、パブリシティ権侵害が成立する典型例を示したものであり、限定列挙ではありません。3類型に直接該当しない場合であっても、これらに準ずる程度に肖像等の顧客吸引力を利用する目的が認められるときは、パブリシティ権侵害が成立する可能性があります。

また、「専ら」とは、顧客吸引力の利用以外の目的が少しでも存在すれば、パブリシティ権侵害が否定されるという意味ではありません。例えば、有名人の写真とともに記事を掲載している場合であっても、記事が写真の添え物にすぎず、実質的には写真の顧客吸引力を利用することが主な目的であると認められるときは、パブリシティ権侵害が成立する可能性があります。他方、有名人の活動について報道・論評する記事に、その内容を補足する目的で写真を掲載する場合には、パブリシティ権侵害が成立しないこともあります。

なお、パブリシティ権による保護は、全国的に知名度が高い著名人に限られません。特定の分野や地域において、その人物の肖像等が商品やサービスの販売を促進する力を有していれば、顧客吸引力が認められる可能性があります。

(2)肖像権・著作権との違い

パブリシティ権と混同されやすい権利として、肖像権や著作権があります。

肖像権は、一般に、自分の容貌や姿態をみだりに撮影されたり、公表・利用されたりしないという人格的利益を保護するものです。これに対して、パブリシティ権は、氏名や肖像等が持つ顧客吸引力という経済的価値に着目する点に特徴があります。

また、著作権は、文章、音楽、写真、映像などの著作物を保護する権利です。例えば、有名人を撮影した写真を無断で複製すれば、その写真の著作権侵害が問題となることがあります。一方、人物の容貌や声そのものが、当然に著作権で保護されるわけではありません。

したがって、生成AIの利用に際しては、著作権侵害が成立しないからといって、パブリシティ権や肖像権の侵害も成立しないとは限らない点に注意が必要です。

2.AIで生成した「声」もパブリシティ権の対象になる?東京地裁判決を解説

(1)事件の概要

2026年9月30日、東京地方裁判所は、声優の津田健次郎氏が、動画投稿サイト「TikTok」の運営会社に対して動画の削除を求めた事件について、判決を言い渡しました(東京地裁令和8年9月30日判決・令和7年(ワ)第70635号)。

この事件では、2024年7月から2025年9月にかけて、某アカウントよりTikTokに188件の動画が投稿されていました。これらは、都市伝説や心霊現象などに関するナレーションを、映像や字幕と組み合わせたものでした。

動画に使用されたナレーション音声について、津田氏は、自身の声に類似しており、その顧客吸引力が無断で利用されているなどと主張しました。

一方、投稿者のアカウントからリンクされた外部サイトには、津田氏本人の声をAIに学習させたものではなく、声まねが上手な友人の声をAIに学習させたデータを使用した旨の記載がありました。

津田氏は、パブリシティ権の侵害や不正競争防止法違反などを主張し、TikTokの運営会社に対して動画の削除を求めました。

(2)東京地裁は「声」もパブリシティ権の保護対象になると判断

本判決で注目すべきなのは、裁判所が、声もパブリシティ権による保護の対象となり得ることを明確にした点です。

裁判所は、人の声について、人の肖像と同様に個人の人格の象徴であると位置付けました。その上で、例えば実演家の声などを無断で使用する行為について、その声が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有し、専らその顧客吸引力の利用を目的として使用する場合には、パブリシティ権の侵害に当たると解するのが相当であるとの判断を示しました。

なお、法務省報告書でも、声は人物識別情報であるとともに個人の人格の象徴となるものであり、パブリシティ権の保護対象に含まれるとの考え方が整理されていました。

今回の東京地裁判決は、こうした問題について、裁判所が明示的に判断を示した点に意義があります。

(3)ただし、具体的な権利侵害が認められたわけではない

もっとも、本判決については注意すべき点があります。

裁判所は、声がパブリシティ権の保護対象となり得るという一般論を示しましたが、今回の動画に使用された音声が、実際に津田氏のパブリシティ権を侵害したか否かまでは判断していません。

なぜなら、裁判の対象となった動画が既に削除されていたためです。

裁判所は、投稿者がアカウントを削除し、その後、動画のデータもTikTokのサーバから削除されたと認定しました。その結果、仮に運営会社に削除義務が生じ得るとしても、さらに削除する義務はないとして、津田氏の請求を棄却しました。

つまり、本判決は「AIで有名声優に似た声を生成して利用する行為は違法である」と判断したものではありません。

本人の声を直接学習させていない場合でもパブリシティ権侵害が成立するのか、どの程度声が類似していれば本人の声を利用したと評価できるのか、プラットフォーム運営者がどのような場合に削除義務を負うのかといった問題についても、具体的な判断は示されていません。

声もパブリシティ権の保護対象となり得ることと、実際にその権利が侵害されたと認められることは、区別して考える必要があります。

3.AIによる顔や声の再現は、どこから違法になるのか

それでは、生成AIによる肖像や声の利用は、どのような場合にパブリシティ権侵害となるのでしょうか。

法務省報告書によれば、主として、①本人の肖像や声を使用したといえるか、②その肖像や声が顧客吸引力を有するか、③専らその顧客吸引力を利用する目的があるか、という観点から検討することになります。

ここで重要なのは、単に本人と似ているだけではなく、画像や音声に接した顧客が、それを特定の人物の肖像や声として識別できるかという点です。

以下では、具体的な場面を取り上げて説明します。

Q1.有名人にそっくりなAI画像を商品の広告に使用した場合は?

例えば、企業が生成AIを使用して人気俳優にそっくりな人物の画像を作成し、自社商品の広告に使用したとします。

この場合、実際の俳優の写真を使用していなかったとしても、その俳優の肖像が有する顧客吸引力を利用したと評価されれば、パブリシティ権侵害が成立する可能性があります。

特に、人気俳優を広告に起用した場合と同じような宣伝効果を得ることを目的として、本人に酷似した画像を使用した場合には、最高裁が示した第3類型に該当するかが問題となります。

もっとも、偶然、実在の人物に似た画像が生成された場合まで、当然に違法となるわけではありません。

法務省報告書では、本人の肖像を使用したといえるかについて、画像自体の類似性だけでなく、本人を想起させる付加情報なども総合的に考慮するとしています。

例えば、画像だけでは誰であるか判断しにくくても、本人を想起させる服装やキャッチコピーなどと組み合わせることで、特定の俳優の肖像を使用したと評価される可能性があります。

Q2.本人の音声を学習させず、似た声をAIで生成した場合は?

例えば、有名声優の音声を直接AIに学習させるのではなく、その声を上手にまねできる第三者の音声を学習させて、声優本人に似たAI音声を生成した場合はどうでしょうか。

これは、前述の東京地裁判決でも、投稿者側の説明に関連して問題となった事柄です。

パブリシティ権は、音声データそのものの複製だけを問題とする権利ではありません。そのため、本人の音声データを直接使用していないという事情だけで、パブリシティ権侵害の可能性が否定されるわけではありません。

法務省報告書では、生成された音声が本人の声に類似する場合には、声質や歌い方などの特徴、本人を想起させる付加情報などを総合的に考慮し、顧客が本人の声であると識別できるかによって判断するとしています。

例えば、特定の声優の独特な声質や話し方を再現し、視聴者がその声優の声として認識できる音声を商品の宣伝に利用する場合には、パブリシティ権侵害が問題となり得ます。

他方、単に低音で落ち着いた声を生成したところ、結果的に有名声優の声に似ていたという程度であれば、直ちにパブリシティ権侵害が成立するとはいえません。

Q3.「AIで生成した音声です」と明示すれば問題ない?

AI生成物を公開する際に、「本人の声ではありません」「AIで生成した音声です」などと表示する場合があります。

こうした表示は、本人が実際に出演していると閲覧者が誤解することを防ぐための措置として、一定の意味があります。

しかし、パブリシティ権侵害の判断において重要なのは、本人が実際に出演したと誤認されるかという点だけではありません。

例えば、「AIで声優○○さんの声を再現しました」と表示して、その声優に似たAI音声を商品の広告に利用した場合を考えてみます。

法務省報告書では、生成された音声に本人の氏名やアニメキャラクターの名前などが付されている場合、その表示が本人の声であると識別させる付加情報として考慮され得るとの見解が示されています。

つまり、AI生成物であることを明示するつもりで本人の氏名を表示した結果、かえって本人の声が有する顧客吸引力を利用していると評価されやすくなる場合も考えられます。

「AIで作成したことを表示すれば自由に利用できる」という考え方は適切ではありません。

Q4.収益目的ではないSNS投稿なら自由に使用できる?

企業の広告ではなく、個人が趣味で制作した動画をSNSに投稿する場合はどうでしょうか。

この点について、法務省報告書は、収益を得る目的がなく、興味本位でAI生成物をSNSに公開した場合、原則として、商品等への利用を前提とするパブリシティ権侵害の3類型には該当しにくいと整理しています。

もっとも、収益を得ていないことだけで、あらゆる法的責任が否定されるわけではありません。

例えば、有名人の肖像や声を利用して多数のフォロワーや閲覧数を獲得し、それによって本人に営業上の不利益を現に生じさせた場合には、3類型に準ずる行為としてパブリシティ権侵害が問題となる余地があります。

また、投稿した動画自体では収益を得ていなくても、SNSのアカウントを通じて商品を宣伝したり、商品販売サイトへ誘導したりする場合には、広告としての利用に該当する可能性があります。

さらに、パブリシティ権侵害が成立しない場合でも、本人の人格的利益を侵害する可能性がある点にも注意が必要です。

したがって、収益目的ではないという事情は重要ですが、それだけで適法性が決まるわけではありません。

Q5.有名人のものまねやパロディも違法になる?

有名人の声や容貌を模倣する行為は、生成AIが普及する以前から、ものまねやパロディなどの表現として行われてきました。

この点について、法務省報告書は、通常のものまねや声まねは、原則としてパブリシティ権侵害には該当しないとの考え方を示しています。

その理由として、ものまねや声まねは、通常、それを演じる者自身の氏名や芸名などを明示して行われており、模倣された人物の肖像や声を使用したものとはいえないことなどが挙げられています。

また、パロディについても、鑑賞の中心が著名人の肖像そのものではなく、風刺や滑稽化によって新たに創作された表現である場合には、パブリシティ権侵害に該当しないと考えられています。

ただし、ものまねをする者自身の氏名などを明示せず、視聴者が模倣された本人の肖像や声であると誤認するような場合には、パブリシティ権侵害が問題となる余地があります。

また、ものまねやパロディとしての側面があっても、本人の顧客吸引力を利用して商品を宣伝するなど、その利用態様によっては別途検討が必要です。

4.AIによるパブリシティ権侵害が発生した場合の法的責任

(1)損害賠償請求

パブリシティ権の侵害が認められ、故意又は過失、損害の発生、因果関係など民法709条の要件を満たす場合には、損害賠償責任が生じます。

例えば、企業が有名人の肖像や声を無断で広告に利用したことで、本人に損害が生じた場合には、損害賠償を請求される可能性があります。

損害額については、本人の肖像や声を適法に利用するために通常必要となる使用料相当額や、権利侵害によって失われた利益などが問題となります。

もっとも、パブリシティ権には、著作権法114条のような損害額の推定規定が直接設けられているわけではありません。こうした規定の類推適用についても議論があるため、具体的な損害額は個別の事情に応じて検討する必要があります。

(2)差止請求・削除請求

パブリシティ権の侵害が成立する場合には、問題となるコンテンツの利用停止や削除を求めることも考えられます。

法務省報告書は、パブリシティ権侵害に対する差止請求が認められると整理しています。ただし、差止請求が認められるためには、現在の侵害を排除し、又は将来の侵害を予防する必要性があることが求められます。

例えば、権利侵害に当たるAI生成動画がSNS上で公開され続けている場合には、削除請求が認められる可能性があります。

他方、既に問題となる動画が削除されている場合には、さらに削除する義務がないと判断されることがあります。

今回の東京地裁判決も、対象動画が既に削除されていることを理由に、削除請求を棄却したものです。なお、投稿者ではなく、プラットフォーム運営者に対して削除を求めることができるかについては、別途検討が必要となります。

(3)「声をみだりに利用されない権利」の侵害にも注意

生成AIによる声の無断利用については、パブリシティ権だけでなく、人格的利益の侵害も問題となります。

法務省報告書は、声についても、その精神的価値を保護する「声をみだりに利用されない権利」が認められるとの考え方を示しています。

例えば、生成AIを利用して、実在する人物が実際には発言していない内容を、本人の声で発言したかのような音声を作成し、公開する場合です。

このような行為については、本人の名誉感情や私生活の平穏のほか、自分の肖像や声を他人の管理下に置かれたくないという精神的利益や、自己像の同一性に対する利益などが侵害される可能性も指摘されています。

パブリシティ権が肖像や声の経済的価値に着目するのに対し、「声をみだりに利用されない権利」は人格的・精神的価値を保護するものです。そのため、著名人だけでなく一般人も保護の対象となり、収益目的の有無が直ちに侵害の成否を決めるわけではありません。

もっとも、本人に似た音声を公開しただけで、当然に権利侵害が成立するものでもありません。本人の社会的地位や活動内容、音声の利用目的・態様・必要性などを総合的に考慮し、人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるかによって判断されることになります。

企業としては、AI生成物の利用について、経済的な権利侵害だけでなく、人格的利益の侵害も検討する必要があります。

(4)不正競争防止法などの問題

このほか、不正競争防止法の適用が問題となる場合もあります。

例えば、他人の氏名や肖像、声などが、周知又は著名な商品等表示として機能している場合には、その利用態様に応じて、不正競争防止法2条1項1号の周知表示混同惹起行為や、同項2号の著名表示冒用行為に該当する可能性があります。

ただし、有名人の声であるという理由だけで、当然に商品等表示に該当するわけではありません。

また、生成AIによるコンテンツの制作過程で、既存の写真、映像、音源などを利用する場合には、別途、著作権や著作隣接権の侵害が問題となることもあります。

このように、生成AIによる肖像や声の利用については、複数の法律が問題となり得るため、それぞれの保護対象や成立要件を区別して検討する必要があります。

5.企業がAI画像・AI音声を利用する際の注意点

(1)生成AIを利用した広告・コンテンツ制作では事前確認を行う

企業が生成AIを利用する場合、まず重要なのは、公開前に生成物の内容を確認することです。

特に、実在する著名人の氏名や容貌、声などをプロンプトで指定した場合や、著名人に似せることを目的として画像・音声を生成した場合には、パブリシティ権侵害が生じる可能性を考慮する必要があります。

また、特定の人物を指定していなかったとしても、生成された画像や音声が実在の人物を強く想起させる場合には、利用方法によって権利侵害が問題となることがあります。

そのため、少なくとも、①実在する人物の肖像や声であると識別できる内容となっていないか、②その人物の知名度や人気を利用する目的がないか、③商品広告や販売促進に使用するものではないか、④本人の人格的利益を侵害する内容ではないか、⑤必要な許諾を取得しているか、という点を確認することが望まれます。

なお、生成AIサービスの利用規約に「商用利用可能」と記載されていても、第三者のパブリシティ権や肖像権などを侵害しないことまで保証されているとは限りません。

AIサービスの利用規約上、商用利用が認められていることと、生成物が第三者の権利を侵害しないことは、別の問題です。

(2)広告・動画等の制作を外注する場合は契約内容にも注意する

企業が広告や動画などの制作を外部の制作会社に委託する場合、その制作会社が生成AIを利用することがあります。

例えば、企業から商品のPR動画の制作を依頼された制作会社が、生成AIを利用して有名人に似た人物の画像や音声を作成し、動画に組み込むケースが考えられます。

この場合、発注企業が自ら生成AIを利用していなかったとしても、納品された広告や動画に第三者のパブリシティ権を侵害する画像や音声が含まれていれば、その広告や動画を公開した発注企業自身も法的責任を追及される可能性があります。

そこで、制作委託契約では、成果物が第三者のパブリシティ権、肖像権、著作権などを侵害しないことについて、制作会社に表明保証を求めることが考えられます。

また、制作会社が生成AIを利用する場合のルールを定め、特定の人物を模倣する目的での利用を制限することや、第三者の権利に関する問題が発生した場合の対応方法を取り決めることも有効です。

さらに、権利侵害を理由として広告の差替えや公開停止が必要となった場合の費用負担、損害賠償責任の分担などについても、あらかじめ検討しておくことが望まれます。

ただし、制作会社に責任を負わせる契約を締結したからといって、発注企業が第三者から責任を追及される可能性がなくなるわけではありません。そのため、発注企業としても、納品された成果物について、第三者の権利を侵害するおそれがないか確認することが重要です。

(3)本人の許諾を取得する場合は利用範囲を明確にする

実在する人物の肖像や声をAIで再現することを予定しているのであれば、本人から必要な許諾を取得することが、紛争予防の観点から有効です。

もっとも、単に「肖像や音声の利用を許可する」という合意だけでは、後日、許諾の範囲について争いが生じる可能性があります。

例えば、通常の広告出演を承諾しただけで、本人の写真や音声をAIの学習に利用し、本人の顔や声を再現した別の広告動画を継続的に生成することまで承諾したといえるかは、必ずしも明らかではありません。

そのため、AIによる学習の可否、生成物の内容、利用する媒体、利用期間、利用目的、二次利用の可否などについて、契約上明確にしておくことが重要です。

また、芸能事務所などを通じて許諾を取得する場合には、その事務所がどの範囲で利用許諾を行う権限を有しているのかについても確認することが望まれます。

このように、本人の肖像や声をAIによって再現する場合には、単に利用の許諾を得るだけでなく、AIの利用方法や生成物の利用範囲を契約上明確にしておくことが重要です。

(4)AIサービスの開発・提供にも注意する

法務省報告書では、AI生成物を利用する行為だけでなく、生成AIサービス自体を提供する行為についても検討されています。

例えば、特定の著名人にそっくりな顔や声を容易に生成できることをセールスポイントとして、生成AIサービスを有償で提供する場合には、その提供行為自体がパブリシティ権侵害と評価される可能性があります。

また、特定の人物の肖像や声に特化した学習用データセットを販売する行為についても、利用態様によってはパブリシティ権侵害が問題となり得ます。

もっとも、AIによる学習行為そのものが、当然にパブリシティ権侵害となるわけではありません。法務省報告書でも、学習行為自体の侵害該当性については異なる見解が示されています。

さらに、生成AIの利用者が第三者のパブリシティ権を侵害した場合、AIサービス提供者についても、権利侵害の結果に寄与したと評価されるときは、共同不法行為責任が問題となる可能性があります。

その判断では、権利侵害が発生する蓋然性や重大性、サービス提供者が権利侵害の発生を認識できたかなどが考慮されます。

生成AIサービスを提供する事業者としては、権利侵害につながる生成を抑制するための合理的な措置や、利用者による不適切な利用への対応体制などを整えておくことが望まれます。

おわりに 生成AI時代に企業が求められる権利処理とは

生成AIの進化によって、企業は、これまで多くの費用や時間を要していた広告や動画などを、比較的容易に制作できるようになりました。

一方、実在する人物の肖像や声を精巧に再現できるようになったことで、パブリシティ権などの権利侵害が問題となる場面も増えています。

2026年9月30日の東京地裁判決は、声もパブリシティ権の保護対象となり得ることを示した点で重要です。また、これに先立って公表された法務省報告書は、生成AIによる肖像や声の無断利用について、現行法に基づく判断の考え方を整理したものとして、企業実務でも参考になります。

生成AIによる画像や音声の利用については、「AIで作成したのだから自由に利用できる」という考え方も、「実在する人物に似ているのだから違法になる」という考え方も、いずれも適切ではありません。

重要なのは、生成された画像や音声が特定の人物のものと識別できるか、その顧客吸引力を利用しているか、本人の人格的利益を侵害していないかを、具体的な利用態様に即して検討することです。

生成AIを安全かつ有効に活用するためにも、企業は、生成物の公開前の確認体制を整えるとともに、制作委託契約や利用許諾契約の整備を進めることが望まれます。

リーガルブレスD法律事務所のサポート内容

生成AIで作成した画像や音声が第三者の権利を侵害するかどうかは、その内容や利用目的、公開方法などによって判断が異なります。そのため、法律上の一般的な考え方を理解していても、自社の広告や動画について、実際に公開してよいのか判断に迷う場合があります。

リーガルブレスD法律事務所では、IT法務や広告法務、知的財産に関する企業法務を取り扱っており、法律上の問題点を指摘するだけでなく、企業が実現したい事業活動を踏まえた具体的な対応策を検討しています。

生成AIの利用に関する企業の課題に応じて、次のようなサポートを提供しています。

(1)法律相談サービス ― AI生成物を利用してよいか判断したい企業へ

「有名人に似たAI画像を広告に使用してよいか」「AI音声がパブリシティ権侵害に該当する可能性はないか」など、具体的な法律上の疑問についてご相談をお受けします。

生成物の内容や利用目的などを踏まえ、問題となる権利や法的リスクを整理するとともに、公開に向けて確認すべき事項や、必要となる対応についてご説明します。

広告や動画の公開を予定しているものの、法的な問題がないか判断に迷っている企業は、まずは法律相談をご利用ください。

(2)スポットサービス ― 広告のチェックや契約書の整備を依頼したい企業へ

法律上の疑問を解消するだけでなく、具体的な書面の確認や作成が必要な場合には、スポットサービスをご利用いただけます。

例えば、AI生成物を使用した広告・動画等のリーガルチェック、制作会社との業務委託契約書の確認・修正、肖像や音声の利用許諾契約書の作成などに対応します。

顧問契約を締結する必要はなく、特定の案件について必要な業務だけをご依頼いただけます。ご依頼内容を確認した上で、業務範囲や費用について事前にお見積もりをご提示します。

(3)法律顧問サービス ― AI活用を継続的に進めたい企業へ

生成AIを継続的に利用する企業では、新しいサービスの企画、広告・コンテンツの制作、取引先との契約など、事業活動の様々な場面で法的判断が必要となります。

その都度、法律上の問題点を調査し、対応方法を検討することは、企業の担当者にとって大きな負担となる場合があります。

法律顧問サービスでは、個々の法律問題への相談対応に加え、企業の事業内容や取引実態を継続的に把握し、新たな取組みを進める際の法的判断や、社内ルール・契約関係の整備を支援します。

法的リスクを理由に新しい取組みを必要以上に停滞させるのではなく、どのような条件や対応方法を整えれば事業を進められるのかを、継続的に検討したい企業に適したサービスです。

AI生成物の利用について判断に迷っている企業の方へ

AI生成物に関する法的な問題は、広告や動画を公開する前であれば、内容の修正や利用方法の変更、必要な許諾の取得などによって対応できる場合があります。

「このまま公開してよいか確認したい」「制作会社との契約内容を見直したい」「今後のAI活用に向けた相談体制を整えたい」といった課題がありましたら、リーガルブレスD法律事務所にお問い合わせください。

法律相談のみのご利用から、特定案件のスポット依頼、継続的な法律顧問まで、課題に応じた依頼方法をご案内します。

<2026年10月執筆>

※本記事は、2026年10月時点の法令、裁判例及び公表資料等を前提として、一般的な法的整理を示すものであり、個別案件についての法的助言ではありません。具体的な対応は、AI生成物の内容、作成過程及び利用態様、権利者の許諾状況、契約関係その他の事情によって異なります。

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