<会社取引と金融②>社長である父親の死亡により会社を引継ぐことで、連帯保証債務はどうなるか
【ご相談事項】
A社の代表取締役社長である父が亡くなりました。私は父の息子であり相続人なのですが、当然にA社の代表取締役社長になるのでしょうか。また、父はA社の事業資金を銀行より借り入れるにあたり連帯保証人(包括根保証)となっていたのですが、この連帯保証債務はどうなるのでしょうか?
【結論】
代表取締役社長という地位は、相続により承継されるものではありません。会社法に基づき、株主総会で取締役として選任してもらう等の手続きが必要となります。
連帯保証債務は原則として相続の対象となりますが、包括根保証の場合、一定の制限があります。
【ポイント】
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1.社長が亡くなった場合、会社はどうなるのか
日常的に「会社」という言葉が用いられる場合、法人格を有する会社を意味する場合と、個人事業主としての会社を意味する場合の両方が含まれるため、まずはどちらを意味するのか確認する必要があります。
この点、法人格を有する場合、社長個人と会社は法律上別物(別人格)として取り扱われます。このため、社長が亡くなったとしても、会社そのものは存続し続けます。
一方、個人事業主の場合、社長個人が亡くなることで会社(社長と結びついていた事業者としての立場)は消滅することになります。なお、相続の対象となるのは、個別具体的な債権債務であり、“会社(事業者としての立場)”といった抽象的なものが相続の対象となるわけではありません。
本件の場合、A社となっていることから、法人格を有するものとして以下解説します。
2.代表取締役社長の地位は相続の対象となるのか
(1) 代表取締役社長の地位と相続の関係
代表取締役社長という地位は、法的に考えた場合、A社と父親との委任契約を前提にします。そして、この委任契約は、死亡という事実により当然に終了します(民法第653条第1号)。このため、相続の対象とはならず、たとえ息子が相続人であったとしても、当然にA社の代表取締役社長の地位を承継するわけではありません。
相続の問題とは切り離される以上、会社法に従って、代表取締役社長を選任する手続きが必要となります。この点、会社の機関設計により多少手続きが異なりますが、取締役会設置会社であれば、株主総会で取締役として選任してもらい、取締役会で代表取締役社長として選任してもらい、最後に管轄法務局で商業登記を行う、といった手続きが必要となります。
以上のことから、息子がA社の後を継ぐのであれば、上記のような会社法上の手続きを意識することになります。
(2)代表取締役社長として選任されることと相続の関係
上記(1)において、「代表取締役社長という地位」は、相続の問題とはならないと説明しました。ただ、少しややこしいのですが、「代表取締役社長に選任」されるためには、相続の問題を強く意識する必要があります。
なぜなら、株主総会は、株式に応じた多数決で物事が決まるからです。すなわち、息子が十分な株式を保有していない場合、他の株主の意向によって取締役として選任されない可能性があるからです。よくある事例として、父親がA社の全株式又は大多数の株式を保有している場合、株式自体が相続の対象となることから、相続人との間で株式の帰属につき適切な遺産分割協議を行う必要があります。
3.連帯保証はどうなるのか
(1)原則論
連帯保証は相続の対象となります。
なお、莫大な連帯保証債務の負担がある場合、相続放棄を念頭に置くことになりますが、父親の後を継ぎたいと考えているのであれば、相続放棄を実行することは事実上不可能です。
なぜなら、相続放棄は、被相続人(本件であれば父親)のマイナスの負債のみならず、プラスの財産についてもすべて放棄しなければならないからです。放棄対象に株式も含まれますので、株式を保有せずして後を継ぐことは困難と言わざるを得ない以上、A社の代表取締役社長として活動するのであれば、連帯保証債務を引き継がざるを得ないことになります。
(2)包括根保証の特則
原則論は上記(1)の通りですが、包括根保証の場合、相続させるとあまりにも酷ということで、判例法理により制限が課されています。結論だけ記述すると次の通りです。
・相続前に既に発生していた具体的な金銭債務については相続の対象となる
・相続後に発生する将来債務については相続の対象とならない(相続人は責任を負わない)
なお、2020年4月1日より施行された改正民法では、本件のような個人貸金等の根保証契約における連帯保証人の死亡(父親の死亡)が元本確定事由となっています(民法第465条の4第1項第3号)。したがって、そもそも相続の対象とはならないことになります。
(3)銀行からの連帯保証人への就任要請
上記(2)で記載した通り、包括根保証であれば、後を継ぐ息子において連帯保証債務を負担する範囲が制限されます。
ただ、今後もA社の事業継続を行う上で、銀行との取引が必要不可欠となる場合、新たに連帯保証人に就任するよう要請されることが通常です。この要請に応じるかは任意とはなりますが、資金需要がある以上は受け入れざるを得ないものと考えられます(なお、経営者保証ガイドライン等を用いて、連帯保証人無しでの取引に応じてもらえないか交渉することも考えられます)。
4.まとめ
法律上の建前論としては、代表取締役社長となり後を継ぐのかという問題と、連帯保証債務を承継するのかという問題は、全く別の事項となります。
とはいえ、実際の現場取引では、両者が複雑に絡み合っていますので、1つずつ整理しながら対処する必要があります。
【当事務所で提供可能なサービス】
当事務所では、いわゆる事業承継に伴う後継者からのご相談対応を多数行っている実績があります。また、先代の死去に伴う後継ぎ問題や、株式の帰属をめぐる遺産分割問題などにも対応しています。
社長が亡くなったことで色々と混乱することが多いかと思います。しかし、混沌とした状況において、1人で問題を解決しようと強引に事を進めた場合、他の相続人その他利害関係人との信頼関係が崩れ、混乱に拍車をかけることにもなりかねません。
弁護士等の冷静な第三者のアドバイスを聞きながら、事態の解決を図っていただければと思います。