1 採用過程まで遡った情報管理
例えば、新卒の採用であれば「×社は圧迫面接だった」など色々な情報がネット上に流布しています。また、就活生が喫茶店等のパブリックスペースで大声で面接内容や会社の情報を話している状況も見られます。
一方、中途採用の場合、ネット上の転職サイトや掲示板等に採用時に取得した会社情報を書き込んだり、時には、ライバル会社の従業員が採用面接に来て、採用時に色々と会社情報を聞くだけ聞いて、ライバル会社情報を流してしまうという事例もあるそうです。
これまでは採用決定した従業員から秘密保持誓約書を入手することが通常でした。
しかし、上記例からもわかる通り、今の世の中、採用過程で開示した情報がどこに漏れ出すか分からない、特に、ネット上に情報掲載されてしまったら永遠に消えることが無いという状態となっています。
そこで、入社前の段階、つまり採用過程の一定の時期から情報管理を徹底させる必要があります。
例えば、会社に来てもらって面接をする場合、ある程度は会社の内部状態を見られてしまいますし、採用面接時に会社情報を開示せざるを得ない場面も想定されますので、次のような内容の秘密保持誓約書にサインをもらうことも検討するべきでしょう。
<採用面接時における誓約書の条項例>
・私は、就職活動等により知り得た次に例示される貴社情報について機密保持し、第三者に開示、漏洩しないことを約束します。 |
2 コンタミネーション
コンタミネーションとは、情報の混入という意味です。
労務管理という観点で問題となる場面は、例えば次のようなものです。
中途で従業員を採用した場面、特に同業他社より従業員を引き抜いたとします。当該従業員は何らかのノウハウや有益な情報を保有していることが多いのですが、当該情報が不正競争防止法上の営業秘密に該当する場合、あるいは転職前の勤務先において秘密保持契約の対象となっている機密事項である場合、当該従業員を採用することで、転職先が一緒にその情報を取得することになります。こういった場合にコンタミネーションが問題となります。
そして、元勤務先は転職先に対し、不正競争防止法違反に基づく差止め請求や民事上の損害賠償請求などの法的手続きをとることで、紛争となってしまうのです。
こういった営業秘密の侵害等と言われないためには、採用予定の転入者に対してインタビューなどをすることで、元の会社からどのような義務が課されているかの確認を行うことが、まずもっての対応策となります。
その上で、転入者が退職時に何らかの契約を締結している(書面を元勤務先に提出している)のであれば、その秘密保持義務や競業避止義務の内容について確認するべきでしょう。
また、次のような入社誓約書を転入者から取得することも検討するべきでしょう。
<入社時のコンタミネーションを防止するための誓約書の条項例>
・私は、第三者が保有するあらゆる機密情報を、当該第三者の事前の書面による承諾なくして貴社に開示し、又は貴社に使用若しくは出願(以下「使用等」という。)させたり、貴社が使用等するように仕向けたり、貴社が使用等しているとみなされるような行為を貴社にとらせたりしないことを約束いたします。 |
3 入社に際して、ネット上の情報を参照してもよいか?
あまり日本では大きな話題になっていないようですが、アメリカでは、Facebookなどに代表されるSNSを利用して、採用前の人物情報を取得して採用の判断材料にしたり、従業員のSNSでの投稿内容を人事評価の一材料にしています。これに対しては、この様な情報取得が違法であるとして裁判が各地で起こっているようです。
もちろん、日本の労働法とアメリカ労働法は異なるものですので、日本でこの種の裁判が直ちに起こるとは考えにくい状況です。
そして、日本国法を前提に考えるのであれば、採用前の人物に関する情報収集について、SNS上の情報は公開情報であること、厚生労働省が公表している「公正な採用選考」記載内容に違反するものではないこと、そして何よりも企業の採用の自由が認められていることからすると、現時点では違法とはいえないと考えられます。
ちなみに、従業員が、勤務時間外に行ったSNSへの投稿内容についても、必要に応じて人事評価の一資料になることも許されるのではないかと考えられます。
なぜならば、いわゆる私生活上の行為であったとしても、企業の社会的評価の低下を招く行為、または企業秩序を乱すような行為であれば、懲戒処分の対象となり得るとされているからです。懲戒処分として不利益を課すことが可能である以上、人事評価としてマイナス評価にすることも一定の場合はやむを得ないと考えられます。
ただ、SNSでの投稿内容をチェックするために、例えばFacebookでの上司からの友達申請に対する承認を強制している企業があるようですが、これはやり過ぎですし、過度な私生活に対する介入と言わざるを得ませんので、これを拒否した際に懲戒処分あるいは人事評価としてマイナス評価することは違法と思われます。
なお、上司が部下に対して友達申請を行うこと自体、ソーシャルハラスメント(略してソーハラ)と言われたりしていますので、直ちに法的責任につながるか否かはともかく、職場環境の悪化を招きかねませんので、十分に注意が必要です。
※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。