IT企業も知っておきたい基本契約書のチェック方法(お金を支払う委託者側からのチェック)

IT企業も知っておきたい基本契約書のチェック方法

 

(お金を支払う委託者側からのチェック)

基本契約書のどの契約条項をチェックするべきか?

取引内容や取引形態、相手方当事者との力関係などで色々とチェックするべき内容は変わってくることが多いかと思いますが、「お金を支払う=契約内容を受託者には適切に守ってもらわないことにはお金は支払えない」という観点からは、次の●点を特に意識していただければと思います。
・期限の利益喪失
・契約解除
・損害賠償
・不可抗力免責
・契約期間
・権利義務の譲渡
・紛争解決 

 

「期限の利益喪失」条項について

期限の利益喪失条項は、債権保全のために必要不可欠な条項と言われますが、逆に支払う側からすれば、期限の利益を放棄すること、つまり、資金繰りに大きな影響を与えることになります。
したがって、ある程度は受け入れなければならない条項とはいえ、あまりにも債権者側の都合で広範に定められてしまうと、思わぬ所で資金繰りに窮することにもなりかねません。
例えば、代表的な条項として、「本契約又は個別売買契約に違反したとき。」には期限の利益を失うということが書かれているかと思いますが、契約の違反の程度が軽微なものまで、いきなり一括して支払えと言われてしまってはたまったものではありません。そこで、例えば、「本契約又は個別契約に違反し、違反状態を解消するよう催告したにもかかわらず、催告後10日を経過しても解消しなかったとき」のような、ワンクッション置くといった修正案を提示していくことがポイントになります。

 

次に、これはあまり契約書に親しんでいないとピンとこないかもしれませんが、期限の利益喪失事由として記載されている内容は、例えば、
・契約の解除事由とされている
・保証金の不返還事由になっている
・違約金の発生事由となっている
と重複していることが非常に多くなっています。

 

つまり、期限の利益喪失という法的効果のみでは止まらず、取引関係に様々な悪影響を及ぼしてしまうことが多いということです。
もちろん、パワーバランスとの関係上、なかなか修正が思うように通らないこともあるかと思います。が、時々、これに乗じてと申し上げれば良いでしょうか、保証金は返還しないとか、成果物にまつわるノウハウを全て開示しろとか、知的財産権をすべて譲渡しろとか、債権保全とは全く関係のない事項がこっそり定められていることがあります。

 

したがって、この期限の利益喪失によって、他への波及効果は無いのか、この点はしっかりと注意してチェックしてほしいと思います。

 

「契約解除」条項について

債権保全の観点からは、約定解除事由を広範に定めておくことが良いということになりますが、逆に、解除されてしまう側からすれば、契約関係の解消されてしまうことは困りますので、やはり狭くしたいという意識が働きます。
そして、このチェックのやり方については、前述の「期限の利益喪失」事由のチェックと重複することになりますので、そちらをご参照ください。

 

次に、期限の利益喪失条項とは異なる、解除条項に関する特有の問題を取り上げます。
ご承知の通り、契約解除により、契約関係が終了することになります。したがって、お互い別々の道を歩めばよいのですが、これまでに取引を行っていた関係上、過去の取引関係については一切合切効力を失わせてしまって良いのか別途検討が必要となる場合があります。

 

例えば、重要なノウハウを開示しているのであれば、契約終了後の秘密保持義務を課すことは必須のこととなるでしょう。また、システム製作の場合、保守などのアフターサービスやバグ対応の補修プログラムの供給、プログラムの変更に伴う著作権侵害の可能性など、契約終了後といえども残存義務の内容や処理手順を定める必要があることが多いのです。代替業者にて対応可能かといった視点から、必ず意識してチェックしてほしいと思います。

 

なお、話が変わりますが、時々、解除すると当然に違約金支払義務を負うような契約条項が定められていることがありますが、ディフェンスする側からすれば、このような条項は削除するべきかと思います。

 

「損害賠償」条項について

具体的にいくらの損害賠償が可能かは実務においては非常に難問です。
法律の一般論としては、相当因果関係を有する損害、すなわち、当事者が通常予見可能な範囲での損害賠償請求が認められると解されています。が、このような抽象的なことを言われてもよく分からないのが実情です。

 

例えば、若干ヤカラ的なことを言うのであれば、ある契約を締結しに行く道中で車にはねられた。このため、契約締結はお流れになり、本来得られたはずの利益が全て吹っ飛んでしまった。この場合において、交通事故による損害賠償として、治療費や慰謝料などは当然のこととして、契約ができたのであれば得られたであろう利益相当額も損害賠償請求できるのかと言われてしまって、直ぐ分かる人はいないかと思います。

 

このような、どこまで損害の範囲に含まれるのか分からないことを避けるために、「直接かつ現実に生じた損害」という限定を行ったりします。要は、逸失利益のような間接損害については損害賠償の対象としないことを明記するという手法です。

 

ただ、上記のような「直接かつ現実に生じた損害」という絞りをかけたとしても、やはり具体的な損害額はよく分からないことがあります。例えば、秘密保持契約を締結した上で秘密情報を開示していたところ、相手方の不注意により秘密情報が漏洩してしまった。この場合に幾ら損害賠償請求ができるのかという問いに対して、秘密情報が漏洩した点では契約違反であり明らかに損害賠償請求権が発生するのですが、情報漏洩による損害額の証明などなかなかできないのではないかと思います。
こういった事態を避けるために、違約金規定を設けておくことは最近多くなってきています。

 

ただ、高額に設定されてしまうと、後で支払いとなると厳しいところも出てきますので、一つの目安として取引価格の上限とするという方法が考えられます。つまり、得られた利益を全てはき出すので、それで勘弁して欲しいというものです。お金を支払う側からすれば、損害項目の内容を問わず、上限が決まっていることは安心材料となりますので、この点も要チェック事項となります。

 

「不可抗力免責」条項について

例えば、次のような条項を見たことは無いでしょうか。
「地震、暴風雨、洪水その他の天災地変、戦争・暴動・内乱、火災、法令の改廃制定、公権力による命令処分、ストライキその他の労働争議、輸送機関の事故、その他受託者の責に帰し得ない事由による契約の全部又は一部の履行遅滞、履行不能又は不完全履行を生じた場合には、受託者はその責に任じない。」

 

非常によく見かける条項であるため、あまり意識していないかもしれませんが、委託者からすれば、少々の地震や暴風雨であっても依頼内容は実現できるはずであり、これで免責とされてしまったらたまらない、あるいは、ストライキその他の労働争議、輸送機関の事故は自然災害とは異なる以上、受託者側でコントロールするべき事項であり、これについても免責とされるのは腑に落ちない…といった問題が実はあったりします。

 

また、一方で受託者は免責される一方で、お金を支払う側の委託者は果たして不可抗力免責を主張できるかというと、上記条項では主張することは不可能です。

 

したがって、よく見かける条項ですが、
①不可抗力として例示列挙されている事由を削除したり、一定の絞りをかける必要がないか
②受託者が免責となる以上、委託者も免責となる形に修正する必要がないか
という点を意識しながらチェックする必要があります。

 

「契約期間」条項について

契約の期間を定めると言うことは、一面では相手方を契約に縛ることができますが、反面では自分も契約から勝手に離脱することはできないと言うことを意味します。したがって、何でもかんでも契約期間を定めておけばよいと言うことにはなりませんし、さりとて契約期間を一切定めないというのも、相手方に離脱に自由を与えてしまい怖いところがあります。

 

こういった観点から、例えば、建物賃貸借契約では2年といった実務上の慣行がありますので、それに従うのも一案でしょう。ただ、本来3年間利用することが予定されているのに、2年間しか借りないというのも問題ですので、実情に合わせて設定する必要があります。

 

もっとも、具体的に契約期間をどのような長さにするかについては、法律がとくに存続期間を定める場合(賃借権について民法604条、借地権について借地借家法3条、借地権について借地借家法29条等)を除き、当事者が自由に定めることができます。また、期間が満了したといえども当事者が合意すれば同一条件で契約を更新することももちろん可能ですが、賃貸借契約のような特別な場合を除き、当然に自動更新がされるというわけではありません。

 

したがって、契約類型や取引形態によって異なるものの、ある程度長期的な継続的取引が予定されている場合には、約定の契約期間満了後も当事者が契約の継続を望めば契約が更新される旨をあらかじめ契約で定めるべきかと思います。なお、更新条項には、
①当事者から反対の意思表示がなければ自動的に更新されると規定する場合
②期間満了前に当事者が協議し合意がなされた場合
に更新されると規定する場合があります。
一般的には、①の自動更新条項が設けられる場合が多いと思いますが、当事者が契約の更新に慎重な場合には②のようにあらたな合意を更新の条件とすることも考えられます。

 

あと、前述の「契約解除」の項目でも述べましたが、契約終了後も引き続き義務を負担させなければならない場面は意外と多くあります。例えば、秘密保持義務や品質保証責任等です。この点についても、抜けることなく留意しておかなければならないチェック内容となります。

 

「権利義務の譲渡」条項について

契約にもとづく権利を譲渡するということは、相手方に対して有する当該契約から生じた債権を第三者に譲渡することであり、義務の譲渡(引受け)とは相手方に対して負担する当該契約から生じた債務を第三者に引き受けさせることとなります。
一般に、これらをあわせて権利義務の譲渡とよんでおり、契約には権利義務の譲渡を禁止する特約を設ける場合も圧倒的に多いです。

 

では、なぜ権利義務の譲渡禁止条項が設けられるのでしょうか?
債権譲渡の場合も債務引受けの場合も、契約当事者としては相手方の変更を意味します。債務者が変更される債務引受けの場合はもちろんのこと、金銭債権が譲渡された場合であっても、債務者としては新債権者から通常以上にきびしい取立てを受けるおそれもあり、自己の意思に反して相手方が変更されることは望ましいこととはいえない場合が多いです。

 

また、自己の予期せぬところで頻繁に相手方が変更されたのでは事務管理上も煩雑であり、債権譲渡については過誤払いの危険も生じ得ます。
そこで、実務上は、以下のような条項を設けて、契約上の権利義務譲渡を禁止することが圧倒的に多くなってしまうのです。ただ、相互に権利義務の譲渡を禁ずる条項を設けた場合、債権者としてはみずからが有する権利を特約により排除することにもなりかねません。

 

したがって、債権者側に将来ファクタリング等の手法を通じた債権流動化の必要がある場合には、みずからの権利を制限する特約を設けることは適切でないということになります。
なお、相互に債権債務を有する当事者間において、権利義務の譲渡禁止特約を設けないことの債務者側のリスクとして、債権者からの一方的な通知により債権が譲渡されてしまった場合に相殺権を確保できるのかが懸念があります。

「紛争解決」条項について

たいていの契約書では、一番後ろの当たりに「紛争が生じた場合には××裁判所を管轄の裁判所とする」という条項が設けられています。

 

さて、何らかの事由により紛争が生じ、報酬その他金銭の支払いを受託者より求められたとします。この手段として訴訟手続きが利用されるわけですが遠方の××裁判所が管轄裁判所と規定されてしまうと、ただでさえ紛争に巻き込まれて大変なのに、出廷するまでの交通費等の経費や時間を食ってしまうこととなり、色々な意味でロスが多くなってしまいます。したがって、合意管轄条項を設けるのであれば、自分の近くの裁判所を定めるのがベストとなるのですが、それでは話がまとまりません。

 

そこで、合意管轄条項については、思い切って削除してしまうというのが賢い選択肢となります。削除するとどうなるの?と思われるかもしれませんが、この場合、民事訴訟法に従って管轄問題は決定されますし、仮に受託者が最寄りの裁判所で訴訟提起をしたとしても、委託者は「移送申立て」を行うことで、場合によっては委託者に最寄りの裁判所で訴訟手続きを行うことも可能となります。

※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい