クラウドサービス提供事業者へ個人情報を提供する際の留意点
【ご相談内容】
当社は、クラウドサービスを利用して顧客のデータベースを構築しています。
今般、某顧客より「私の了解を得ないで、個人情報をクラウドサービス提供事業者に提供することは問題ではないか」という問い合わせを受けました。
このような問い合わせを受けることは初めてであり、どのように回答すればよいのか苦慮しています。
クラウドサービス提供事業者へ個人情報を提供する場合の注意点などについて、教えてください。
【回答】
クラウドサービス提供事業者に個人データを提供していると評価される場合、某顧客が指摘する通り、事前に本人(顧客)の同意を取得する必要があります。
しかし、多くの場合は「委託」に該当するとして、第三者提供の問題をクリアーできるはずですし、そもそも第三者(クラウドサービス提供事業者)への提供と法的に評価されるのか検討する余地があります。
以下では、本人の同意を要する第三者提供に該当するのかを検討しつつ、該当する場合と該当しない場合とで注意するべき事項を解説します。
また、クラウドサービス提供事業者は外国事業者であったり、サーバが外国にあったりするといった、国外への個人データ提供問題も生じてきます。この点についても、合わせて解説を行います。
【解説】
1.クラウドサービスの利用と個人データの第三者提供・委託該当性
(1)判断基準
ユーザがクラウドサービスを利用するに際し、個人データをクラウドサービス内に保存等した場合、第三者(=クラウドサービス提供事業者)に対して提供したと評価される場合、ユーザは本人(=ユーザに対して個人情報を提供した者)より、個人情報保護法第27条第1項に基づく「同意」を得る必要が生じます。
【個人情報保護法第27条第1項】
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。 |
ただ、例えば、本人より個人情報を取得した後に、ユーザが新たなクラウドサービスの利用を行う場合、本人より改めて同意を得る必要があるところ、これは煩雑にすぎます。
そこで、ユーザはクラウドサービス提供事業者に対し、個人データの委託を行っているに過ぎないと評価し、本人の同意を不要とできないかという考え方が登場します。
【個人情報保護法第27条第5項】
次に掲げる場合において、当該個人データの提供を受ける者は、前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。 |
ただ、この委託という考え方をとった場合、ユーザはクラウドサービス提供事業者に対して監督義務を負担することになるところ(個人情報保護法第25条)、非現実的で無理を強いるものと言わざるを得ません。
これらの問題意識を考慮してか、個人情報保護委員会は『「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(令和5年5月25日更新)』で、次のような見解を示しています。
【Q7-53に対する回答】
クラウドサービスには多種多様な形態がありますが、クラウドサービスの利用が、本人の同意が必要な第三者提供(法第 27 条第1項)又は委託(法第 27 条第5項第1号)に該当するかどうかは、保存している電子データに個人データが含まれているかどうかではなく、クラウドサービスを提供する事業者において個人データを取り扱うこととなっているのかどうかが判断の基準となります。 |
第三者提供及び委託に該当しない場合、すなわち「個人データを取り扱わない」と評価されるためには、
①利用規約等の契約条項に個人データを取り扱わないことが定められていること
②現実の運用として適切なアクセス制御が行われていること
この2つの要件を充足すればよい、と個人情報保護委員会は述べています。
この点、①については、ユーザは利用規約等をしっかり確認すると共に、不明であれば事前にクラウドサービス提供事業者に対して問い合わせるなどして確認することが重要となります。②については、クラウドサービス内に保存されるデータ内容を自動的に暗号化する技術を導入するなどして、判別不能な状態に置くことなどが考えられますが、これについてもユーザはサービス提供事業者に事前確認したほうが無難です。
なお、上記①及び②の要件を充足したとしても、クラウドサービス提供事業者の使用状況からして、「個人データを取り扱わない」という評価にはならない場合もあり得ます。この点、『「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(令和5年5月25日更新)』は、保守業務に関するものですが、次のような見解を示しています。クラウドサービス提供事業者がデータをどこまで取り扱ってよいのか判断するにあたり、1つの参考基準になると考えられます。
【Q7-55に対する回答】
当該保守サービスを提供する事業者(以下本項において「保守サービス事業者」という。)がサービス内容の全部又は一部として情報システム内の個人データを取り扱うこととなっている場合には、個人データを提供したことになり、本人の同意を得るか、又は、「個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って・・・提供」(法第 27条第5項第1号)しているものとして、法第 25 条に基づき当該保守サービス事業者を監督する必要があります。 |
(2)第三者提供及び委託に該当しない場合
上記(1)で記載した判断基準に従い、第三者提供及び委託に該当しないと評価できる場合、ユーザは本人より同意を得る必要もなく、かつクラウドサービス提供事業者に対して監督義務を負う必要もありません。
しかし、ユーザが個人データを取り扱っているという事実に変わりはありません。
この結果、ユーザは自ら安全管理措置を講じる必要があります。この点については、『「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(令和5年5月25日更新)』でも明確に示されています。
【Q7-54に対する回答】
クラウドサービスの利用が、法第 27 条の「提供」に該当しない場合、法第 25 条に基づく委託先の監督義務は課されませんが(Q7-53 参照)、クラウドサービスを利用する事業者は、自ら果たすべき安全管理措置の一環として、適切な安全管理措置を講じる必要があります。 |
【個人情報保護法第23条】
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。 |
なお、安全管理措置の具体的内容として、①組織的安全管理措置、②人的安全管理措置、③物理的安全管理措置、④技術的安全管理措置、に分類し実施することを求められるのが一般的ですが、詳しくは次の資料をご参照ください。
(参考)
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会)
(※166頁以下の「10 (別添)講ずべき安全管理措置の内容」を参照)
(3)第三者提供又は委託に該当する場合
上記(1)で記載した判断基準に従い、クラウドサービス内での個人データの利用が第三者提供に該当すると評価される場合、ユーザは、個人情報保護法第27条第1項に基づき、本人の同意を得る必要があります。
もっとも、委託と評価される場合は、本人の同意を得る必要はありません。ただこの場合、ユーザは、個人情報保護法第25条に基づき、クラウドサービス提供事業者に対して監督義務を負うことになります。
監督義務の具体的内容としては、①適切な委託先の選定、②委託契約の締結、③委託先における個人データ取り扱い状況の把握、が一般的です。委託契約の内容については次の参考書式を、その他については上記(2)で引用した『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)』を参照してください。
【参考書式】
第1条 第4条 第5条 |
2.海外サーバ(クラウドサービス)を利用する場合の注意点
(1)海外に個人データを提供する場合の原則的対応
日本国内で提供されている多くのクラウドサービスは、海外サーバを利用しているようです。このような状況下でユーザが個人データをクラウドサービス内に保存等した場合、実態として、ユーザはクラウドサービス提供事業者を通じ、海外に個人データを送信したことになります。
そして、この個人データの送信が海外への「提供」と法的に評価される場合、ユーザは個人情報保護法第28条に定める対応が必要となります。ポイントは次の3点です。
①本人からの同意
上記1.で記載した個人情報保護法第27条に基づく本人からの同意とは別に、海外に個人データを提供するに際し、改めて本人の同意を得なければならないことが1つ目のポイントです。
【個人情報保護法第28条第1項】
個人情報取扱事業者は、外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下この条及び第31条第1項第2号において同じ。)(個人の権利利益を保護する上で我が国と同等の水準にあると認められる個人情報の保護に関する制度を有している外国として個人情報保護委員会規則で定めるものを除く。以下この条及び同号において同じ。)にある第三者(個人データの取扱いについてこの節の規定により個人情報取扱事業者が講ずべきこととされている措置に相当する措置(第三項において「相当措置」という。)を継続的に講ずるために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合する体制を整備している者を除く。以下この項及び次項並びに同号において同じ。)に個人データを提供する場合には、前条第1項各号に掲げる場合を除くほか、あらかじめ外国にある第三者への提供を認める旨の本人の同意を得なければならない。この場合においては、同条の規定は、適用しない。 |
②参考情報の提供
個人データを外国に提供する場合、ユーザは別途本人から同意を得る必要があること、前記①の通りです。
ところで、同意を求められる本人としても、外国に個人データを送信されることで何が起こるのか分からないことには判断が付きません。そこで、ユーザは本人に対し、個人情報保護法第28条第2項では参考情報を提供するよう義務付けたこと、これは2点目のポイントとなります。
【個人情報保護法第28条第2項】
個人情報取扱事業者は、前項の規定により本人の同意を得ようとする場合には、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、あらかじめ、当該外国における個人情報の保護に関する制度、当該第三者が講ずる個人情報の保護のための措置その他当該本人に参考となるべき情報を当該本人に提供しなければならない。 |
参考情報の具体的内容については、個人情報保護護委員会規則第17条第2項に定められており、当該外国の名称、適切かつ合理的な方法により得られた当該外国における個人情報の保護に関する制度に関する情報、当該第三者が講ずる個人情報の保護のための措置に関する情報の3項目となります。
各項目に関する細かな留意事項は、次の資料をご参照ください。
(参考)
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(外国にある第三者への提供編)(個人情報保護委員会)
③提供後の継続的な監督等の措置義務
個人データが海外に提供された場合、国民感情として、国内事業者よりも海外事業者への不信感が強く、利用方法等に不安を覚えるという実態があります。
そこで、個人情報保護法第28条第3項では、ユーザに対し、個人データ提供後においても継続的に海外事業者の監督を行うこと、本人より問い合わせを受けた場合は回答することを義務付けました。これが3つの目ポイントとなります。
【個人情報保護法第28条第3項】
個人情報取扱事業者は、個人データを外国にある第三者(第 1 項に規定する体制を整備している者に限る。)に提供した場合には、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該第三者による相当措置の継続的な実施を確保するために必要な措置を講ずるとともに、本人の求めに応じて当該必要な措置に関する情報を当該本人に提供しなければならない。 |
個人情報保護委員会規則第18条の内容及び留意事項については、上記で引用した「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(外国にある第三者への提供編)(個人情報保護委員会)」を参照してください。
(2)個人情報保護法第28条が適用されない場面
上記(1)で記載した通り、海外サーバを通じて提供されるクラウドサービスを利用した場合、ユーザは、個人情報保護法第28条に基づき本人から同意を得ることはもちろん、様々な義務を負担することになります。ただ、現場実務として、これらの事項を実践するとなるとあまりに煩雑であり、クラウドサービス自体が成立しない恐れさえあります。
そこで、個人情報保護法第28条の適用除外となるパターンがいくつか設けられています。
①そもそも「提供」、「委託」に該当するのか
個人データを送信するとはいえ、法的に「提供」「委託」に該当するかは別問題です。
この判断基準ですが、実は上記1.(1)で触れた内容と同じもので判断することになります。その点を明確にしたものとして、『「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(令和5年5月25日更新)』では、次のような見解を公表しています。
【Q12-3に対する回答】
個人情報取扱事業者が、外国にある事業者が外国に設置し、管理・運営するサーバに個人データを保存する場合であっても、当該サーバを運営する当該外国にある事業者が、当該サーバに保存された個人データを取り扱わないこととなっている場合には、外国にある第三者への提供(法第 28 条第1項)に該当しません。ここでいう「当該サーバに保存された個人データを取り扱わないこととなっている場合」とは、契約条項によって当該事業者がサーバに保存された個人データを取り扱わない旨が定められており、適切にアクセス制御を行っている場合等が考えられます(Q7-53 参照)。 |
ところで、「提供」、「委託」に該当しない場合、ユーザは、安全管理措置の一環として「外的環境の把握」を行う必要があります。
この点、『「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(令和5年5月25日更新)』では、次のように記述しています。
【Q10-25に対する回答】
外国にある第三者の提供するクラウドサービスを利用する場合において、クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱わないこととなっている場合には、個人データの第三者への「提供」には該当しませんが、個人情報取扱事業者は、自ら果たすべき安全管理措置の一環として、適切な安全管理措置を講じる必要があります(Q7-53、Q7-54、Q12-3参照)。 |
(3)サーバの設置場所はどこか
外国の事業者がクラウドサービスを提供している場合であっても、個人データが日本国内のサーバに保存され、当該事業者が日本国内でのみ利用している場合は、個人情報保護法第28条が適用されないと考えられています(なお、この場合、個人情報保護法第27条が適用されることには注意を要します)。
この点、『「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(令和5年5月25日更新)』では、次のように述べています。
【Q12-4に対する回答】
当該サーバを運営する外国にある事業者が、当該サーバに保存された個人データを取り扱っている場合には、サーバが国内にある場合であっても、外国にある第三者への提供(法第 28 条第1項)に該当します。ただし、当該サーバを運営する外国にある事業者が、当該サーバに保存された個人データを日本国内で取り扱っており、日本国内で個 |
(4)「外国」に該当するか
これは個人情報保護法に定める「外国」の定義に由来するものですが、個人情報保護法第28条第1項では、「外国」の内、「個人の権利利益を保護する上で我が国と同等の水準にあると認められる個人情報の保護に関する制度を有している外国として個人情報保護委員会規則で定めるものを除く」と定めています。
そして、本記事執筆時点では、EUを構成する国々と英国が上記除外に該当すると定められています。
したがって、サーバがこれらの国にある場合、個人情報保護法上の「外国」に該当しないことから、ユーザは個人情報保護法第28条に基づく負担を免れることになります。
(5)「第三者」に該当するか
これも個人情報保護法に定める、外国にある「第三者」の定義に由来するものですが、個人情報保護法第28条第1項では、外国にある「第三者」の内、「個人データの取扱いについてこの節の規定により個人情報取扱事業者が講ずべきこととされている措置に相当する措置(第三項において「相当措置」という。)を継続的に講ずるために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合する体制を整備している者を除く」と定めています。
どのような者が該当するのかについては、上記(1)②で引用した「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(外国にある第三者への提供編)(個人情報保護委員会)」を参照してください。
3.当事務所でサポートできること
現在の事業活動において、クラウドサービスを利用することは当たり前のような風潮がありますが、個人情報保護法による一連の規制についてはあまり知られていないように感じます。
ただ、「法の不知は許さず」という法格言があるように、本人からの問合わせ対応に不備があった場合や情報漏洩事故が発生した場合、ユーザは、“情報管理体制があまい”、“コンプライアンス意識の欠如”などと世間からは非難されると共に、行政からは制裁を受けることになります。こうした非難や制裁は、ときによって事業者の存在そのものを揺るがしかねない事態にもなり得ることから、平時の今こそ早急に弁護士等の専門家と相談し、問題が無いかチェックして欲しいところです。
また、本記事はユーザ視点で作成しましたが、クラウドサービス提供事業者においても、これらの知識をフル活用することで、ユーザに余計な義務と負担を与えないサービスの構築を行い、同業他社との差別化を図ることができます。したがって、クラウドサービス提供事業者においても、今一度、弁護士等の専門家と相談し、サービス利用にあたっての注意点を確かめてほしいところです。
当事務所では、クラウドサービス提供事業者及びユーザの双方と取引を行っており、上記で記載したような問題点を含め、様々な事例に接することで知見とノウハウを蓄積しています。
クラウドサービスと個人情報との関係で気になることがございましたら、是非当事務所にご相談ください。
<203年9月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。