目次
インターネットを介したソフトウェアの利用形態と契約内容の異同
「インターネットを使ってソフトウェアを利用する」と聞くと、どれも同じように見えるかもしれません。しかし、契約書の内容は、見た目が似ていても大きく分かれます。なぜなら、インターネットを介していても、利用の仕組みが異なれば、起こりやすいトラブルと、事前に決めておくべきルールが変わるからです。
たとえば、ソフトウェアをパソコンにダウンロードして使う形があります。
この場合、ソフトウェアそのものは利用者の側で動きます。提供する側が関わるのは、利用を許す範囲を決めたり、更新を配布したりする場面が中心になります。
一方で、利用者が操作する画面は同じでも、実際には提供する側のサーバでソフトウェアが動き、利用者はインターネットを通じて使う形があります。
この場合、提供する側は、ソフトウェアが動く環境を準備し、動かし続け、問題が起きたら対応します。ここで必要になるのは「利用を許す」だけではなく、「止めずに提供し続ける」ための決めごとです。
この違いが、契約が異なる理由です。
ダウンロード型の契約では、主に「どこまで使ってよいか」「どのような使い方はしてはいけないか」を決める必要があります。これに対して、インターネット経由で提供する形では、次のような点を事前に決めておかないと、トラブルになりやすいです。
・どこまでの機能を提供するのか
・問い合わせにはいつ、どの方法で対応するのか
・予定された停止や、急な停止が起きたときにどうするのか
・不具合が起きたときに、どこまで調査し、どのように報告するのか
・利用者のデータをどのように保存するのか、必要があれば戻せるのか
・利用が終了したときに、データを返すのか、消すのか、またいずれの場合もどのように行うのか
同じ「インターネットを使うサービス」でも、こうした点を決める必要があるかどうかは、仕組みによって変わります。
本記事では、インターネットを介して利用できるソフトウェアを前提にしつつ、特に、提供する側のサーバで動かし続ける形を中心に扱います。そして、パソコンに入れて使うダウンロード型の契約と比べながら、どのような点に注意して契約を作るべきかを整理します。
ASPとは何か
(1)意義
インターネットを使ってソフトウェアを利用する形は一見ダウンロード型と似ていますが、契約で決めるべき内容は「どこで動かしているか」「誰が運用しているか」によって変わります。
そこで、本記事ではASPを、次のように定義します。
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提供する側が管理するサーバなどでソフトウェアを動かし、利用者はインターネットを通じて機能を利用する形態のこと |
利用者は通常、パソコンやスマートフォンにソフトウェアを入れて動かすのではなく、画面操作や通信を通じてサービスを利用します。この場合、提供する側は、ソフトウェアを動かす環境を用意し、維持し、必要に応じて更新し、問題が起きたときに対応します。
そのため、契約では「利用を許す範囲」だけでなく、「止めずに提供するためのルール」や「データの取扱い」などが重要になります。
(2)オンプレミスとの異同
ASPは、提供者が管理するサーバ上でソフトウェアを動かし、利用者はインターネット経由で機能を利用する形です。提供者が運用や更新、停止時対応を担うため、契約では提供範囲、稼働水準、停止・障害対応、データの保存・返却などのルールが重要になります。
一方、オンプレミスは、利用者の社内サーバ等にソフトウェアを導入して利用する形で、運用や環境管理は利用者側が担うことが通常です。このため契約の中心は、利用許諾の範囲、保守・更新の範囲、導入・運用の役割分担になります。
両者とも利用条件や責任分界は必要ですが、ASPは運用・データ、オンプレミスは導入・利用許諾がより重要です。
(3)スマホアプリとの異同
ASPは、提供者が管理するサーバ上でソフトウェアを動かし、利用者はインターネット経由で機能を利用する形です。そのため契約では、提供範囲、稼働水準、停止・障害対応、データ保存・返却、仕様変更の通知など運用面のルールが重要になります。
一方、スマホアプリは、利用者の端末にインストールして動かす点が基本で、対応OSや機種差、端末設定や通信環境の影響を受けやすい点に特徴があります。また、ストア審査や配信停止、アプリ内課金などプラットフォームの制約も関係します。
もっとも、スマホアプリでもサーバ連携が中心の場合は実態としてASP要素が強くなり、アプリ部分の利用許諾と、サーバ(プラットフォーム)側の運用ルールの両方を契約で整理する必要があります。
(4)SaaSとの異同
ASPは、提供者が管理するサーバ上でソフトウェアを動かし、利用者がインターネット経由で機能を利用する提供形態を指します。
一方、SaaSは、ソフトウェアをサービスとして継続提供し、月額課金や継続的な更新を前提に運用する考え方として使われることが多いようです。
近年のサービスは、インターネット経由で提供され、継続課金で機能改善も行われるため、ASPとSaaSが同義のように扱われがちです。このため、契約実務では名称より実態が重要で、共通して提供範囲、稼働水準、停止・障害対応、データの保存・返却、規約変更や仕様変更の通知、責任上限などが主要論点になります。
なお、あえて違いを指摘するのであれば、SaaSは標準化された共通基盤で多数の利用者に提供する傾向が強く、規約変更や機能変更のルール設計がより重要になりやすい点に特徴があります。
(5)「ASP」の多義性
本記事では、ASP=Application Service Providerの略語として使用しています。
しかし、ITの現場実務では、例えば
・Affiliate Service Provider(成果報酬型広告(アフィリエイト広告)の仲介・配信・計測などを担う事業者のこと)
・Active Server Pages(Microsoft系のサーバサイド技術のこと)
を「ASP」と略したりします。
文脈から判断するしかありませんが、認識の相違が生じないよう注意したいところです。
ASP契約の特徴(ダウンロード型契約との相違)
同じようにインターネットを使っていても、提供する側のサーバで動く型(ASP)とダウンロードして使う型とでは、契約で守るべきポイントが大きく変わります。
違いを一言で言うなら、前者は「提供を続けるための契約」になりやすく、後者は「使ってよい範囲を決める契約」になりやすいという特徴があります。
(1)法的性質と中心条項
まず、ダウンロードして使う型では、利用者がソフトウェアを自分のパソコンや社内サーバに入れて動かします。提供する側が直接コントロールできるのは、ソフトウェアを配布することや、更新を提供すること、認証を行うことなどに限られます。
そのため、契約で中心になるのは、利用者がどのように使ってよいかを決めるルールです。
たとえば、利用できる人数や台数、社内利用に限るのか、他社に渡してよいのか、コピーや改変をしてよいのかなどを明確にします。また、契約違反があった場合に利用を止められるか、追加の費用が発生するかなども重要になります。言い換えると、ダウンロード型の契約は、利用者の使い方を管理する部分が中心になります。
これに対して、ASPでは、利用者はインターネットを通じて機能を使います。ソフトウェアが動く環境は提供する側が用意し、運用し、更新し続けます。利用者が期待するのは、ソフトウェアを手に入れることではなく、必要なときに使える状態が続くことです。
そのため、契約で中心になるのは、提供を続けるためのルールです。
たとえば、どの機能を提供するのか、問い合わせにはどう対応するのか、停止が必要な場合はいつどのように知らせるのか、不具合が起きたときはどこまで調べてどのように報告するのかを決めます。また、利用者のデータを預かる場合は、保存方法や戻し方、利用終了時の返し方や消し方も決める必要があります。
両者の違いを整理すると、次のとおりです。
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契約内容 |
稼働環境への対応 |
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ダウンロード型 |
「使ってよい範囲」を決める条項が中心 |
利用者側の環境で起きる問題が多く、提供する側が日々の稼働を直接保証しにくい
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ASP |
「止めずに提供するためのルール」を決める条項が中心 |
提供する側の運用が結果を左右しやすく、停止や障害への備えが欠かせない |
この違いを踏まえると、契約書の作り方も変わります。
ダウンロード型なのに、停止や障害対応の条項ばかりを厚くしても、実態に合いません。
反対に、ASPなのに、利用範囲の条項だけを整えても、止まったときやデータの問題が起きたときに守れません。
自社の提供の実態に合わせて、中心条項をどこに置くかを決めることが、契約を作るうえで最も重要です。
(2)著作権・ライセンス
ダウンロード型ソフトウェアと比べたとき、ASPでは「著作権やライセンスの問題が小さくなる」と言われることがありますが、結論としては半分正しく、半分は注意が必要です。
結局のところ、利用者の手元にソフトウェアが配られるのか、配られないのかで大きく変わります。
まずダウンロード型では、利用者がパソコンや社内サーバにソフトウェアを入れて使います。入れる行為や動かす行為の過程で、複製が生じる場面があり得ます。
そのため契約では、利用できる人数や台数、社内利用に限るか、第三者に渡してよいか、コピーや改変をどこまで認めるかといった点を細かく決める必要があります。違反があった場合に利用停止ができるかも重要になります。
一方、ASPでは、基本的に提供する側のサーバでソフトウェアが動き、利用者は画面操作などを通じて機能を使います。利用者の手元にソフトウェアそのものを渡さない形であれば、ダウンロード型ほど「コピーされたかどうか」が中心問題になりにくいです。その代わりに、止まらずに提供するためのルールや、利用者のデータの扱いが中心になります。
ただし、ASPでも著作権・ライセンスの論点が残る典型場面があります。
次の要素がある場合は、契約の中で「使ってよい範囲」と「してはいけないこと」を明確にしておく必要があります。
・端末に入れるアプリや接続用の小さなソフトを配布する場合
・外部連携のための部品や資料を配布する場合
・個別の追加開発や改修を請負い、成果物を引き渡す場合
・画面や資料、出力結果の再利用が問題になり得る場合
特に、端末に入れるアプリや部品を配布する場合は、そこだけはダウンロード型に近い発想が必要です。利用者がそれらを第三者に配ったり、内容を調べたり、別の用途に流用したりすることを防ぎたいなら、禁止事項と違反時の対応を契約で定める必要があります。
また、追加開発を行う場合は、改修した部分の取り扱いをあいまいにすると、「どちらのものか」で揉めやすくなりますので、成果物の帰属や利用範囲を決めておくべきです。
以上の通り、ASPだからといって著作権・ライセンスの条項が不要になるわけではありません。配布物があるか、成果物が生じるか、再利用の余地があるかを確認し、必要な範囲に絞って条項を置くことが肝要です。
(3)運用・SLA・変更管理
ASP契約で特に留意する必要があるのが、運用、稼働の水準、変更の扱いです。
ダウンロード型では、利用者の端末や社内環境でソフトウェアが動くため、提供する側が日々の稼働を直接支える場面は限られます。しかし、ASPでは提供する側のサーバでソフトウェアが動き続けるため、止まったときの影響が大きく、運用のルールが契約の中心になります。
①稼働水準
利用者は「いつでも使える」と期待しがちですが、実際には点検や更新のために止める場面が出ますし、予期しない不具合が起きる場面もあります。ここで重要なのは、止まらないことを約束するのではなく、止まった場合の取り扱いを決めておくことです。契約では、稼働の目安となる数字を置くかどうか、置く場合はその意味をどうするかを整理します。数字を置く場合でも、どの時間帯を対象にするのか、点検の停止を含めるのか、計測方法をどうするのかを決めなければ、後で解釈が割れてしまいます。
②停止ルール
計画的に止める場合は、どのくらい前に知らせるのか、どの手段で知らせるのかを定めます。急な停止が必要になる場合もありますので、どのような場合に急な停止ができるのか、停止中の対応はどうするのか、復旧の見込みをどう伝えるのかも決めておくべきです。利用者が業務で使う場合は、停止の連絡の遅れが大きな不満につながりますので、連絡の仕組みは特に重要です。
③不具合対応
問い合わせの受付時間、緊急として扱う基準、優先順位の付け方、報告の頻度を定めると、双方の期待がそろいやすくなります。原因調査についても、どこまで調べるのか、外部のサービスに原因がある場合はどうするのかを整理します。これを決めていないと、復旧よりも責任追及が先に進み、対応が長引きやすいです。
④変更の取扱い
機能の追加、画面の変更、連携の方法の変更などは、利用者にとっては使い方の変更を意味します。提供する側としては改善の一環でも、利用者にとっては困りごとになることがあります。そのため、契約では、変更を行う場合の通知方法、重要な変更と軽い変更の区別、移行期間をどう設けるかを決めます。連携がある場合は、変更によって利用者側の作業が必要になることがありますので、その作業が誰の負担になるのかも明確にする必要があります。
⑤小括
以上の通り、ASP契約では、運用、稼働、変更を契約で整えておくことが、トラブルを防ぐ上でポイントとなります。
利用者の不満が大きくなりやすい場面を先に想定し、具体的なルールとして書き込むことが重要です。
(4)データ・個人情報・クラウド委託
ASP契約でトラブルが大きくなりやすいパターンとして、上記(3)の停止や不具合もありますが、データの扱いが不明確なまま運用が始まるパターンもあり得ます。
ダウンロード型では、データが利用者の端末や社内サーバに残ることが多いです。しかしASPでは、利用者のデータが提供する側の環境に保存されることが多く、問題が起きたときに「誰が何をどこまで行うのか」が争点になりやすいからです。
したがって、契約では、データの取り扱いをできるだけ具体的に決めておく必要があります。
①データの保存場所と保護方法
提供する側が保存するなら、どのような仕組みで保護するのか、どの程度の頻度で保存の写しを作るのか、問題が起きたときにどこまで元に戻せるのかを決めます。ここを曖昧にすると、利用者は「当然すべて元に戻る」と期待し、提供する側は「そこまでの約束はしていない」と考えて、深刻な対立になります。さらに、保存の写しを作っていても、戻せる範囲には限界がありますので、復旧の範囲と手順を明記することが重要です。
②利用終了時の取扱い
ASPでは契約が終わってもデータが環境に残り得ますので、返すのか、消すのか、いつまで保管するのかを決める必要があります。返す場合は方法と形式、期限、費用負担を明確にします。消す場合は消す範囲と時期、証明の出し方まで決めると揉めにくくなります。ログや記録についても、保存期間や目的を決めておくと安心です。
③個人情報が含まれる場合
ASPでは提供する側が利用者の代わりにデータを取り扱う場面が多く、提供する側が守るべき安全管理や、利用者側が求める管理水準をすり合わせる必要があります。契約では、アクセス権限の管理、持ち出しの制限、暗号化の有無、委託先の監督、事故時の連絡手順などを定めると実務で役立ちます。
④クラウド利用の場合
提供する側がクラウド事業者にサーバや保存を任せる場合は、利用者にとっては「さらに外部に預ける」状態になりますので、再委託の範囲と管理方法を明確にするべきです。また、海外のクラウドを使う場合は、利用者の社内ルールや取引先要請により制約がかかることもありますので、事前に説明できる形にしておくことが重要です。
⑤小括
ASP契約では、データは「あるかないか」ではなく「どう扱うか」を決めることが肝要です。データの取り扱いを具体化するほど、誤解が減り、トラブルを避けやすくなります。
(5)規約(定型約款)と規約変更
ASPでは、利用者と個別の契約書を毎回取り交わすのではなく、Web上の利用規約を共通ルールとして適用することが多いです。
①定型約款該当性
民法では、一定の条件を満たす利用規約を「定型約款」として扱い、契約に組み込まれる場面や、変更のルールを定めています。ただし、すべての利用規約が自動的に定型約款になるわけではありません。取引が画一的に繰り返される性質を持ち、同じ内容の規約を多数の利用者に適用するような場合に、定型約款として取り扱うことが可能となります。
この点、ASPはこの条件に当てはまりやすいのですが、念のため、規約設計の段階で意識しておくと安全です。
②組み入れ(規約が契約内容になるための確認)
利用規約を用意していても、それだけで自動的に契約内容になるわけではありません。利用者が契約する時点で、規約の内容を知ることができ、かつ規約に基づき取引を開始したことを説明できる状態にしておく必要があります。特にWebサービスでは、画面の下部にリンクを置いただけだと、利用者から気付かなかったと言われることがありますので、同意の取り方と証拠の残し方を意識して設計することが重要です。
実務では、次の点を押さえると安全です。
・申込みや登録の画面で、規約の本文(または直ちに読めるリンク)を表示し、同意のチェックを入れないと進めないようにする
・同意した日時、同意した規約の版、利用者の識別情報などを記録し、後から確認できるようにする
・書面や注文書で契約する場合は、適用する規約のURLや版(改定日)を明記し、必要に応じて規約を添付して合意する
③規約変更
民法は、一定の場合には、個別の同意がなくても定型約款を変更して契約内容を変えられる枠組みを置いています。具体的には、変更が利用者全体の利益に合う場合や、契約の目的に反せず合理性がある場合などが挙げられ、あわせて変更内容と効力発生日を事前に周知することが求められます。
ここで重要なのは、「変更できる」と書いてあるだけでは足りず、変更の必要性や内容の妥当性、周知の方法まで含めて、後から説明できる形にしておくことです。
実務で押さえるべきポイントは次のとおりです
・規約の最新版と過去版を分けて保管し、改定日と変更点を分かるようにする
・変更の周知方法を複数用意し、Web掲載だけでなくメールや管理画面通知も併用する
・重要な変更の場合は、事前の通知期間を置き、利用者に解約の機会を与える設計にする
・「軽微な変更」と「重要な変更」を区別し、通知の方法と時期を分けて定める
・同意が必要な場面では、ログイン時の同意表示など、同意を確認できる手順を用意する
ちなみに、SaaSとASPが混同されやすい背景には、どちらも利用規約で多数の利用者に同一ルールを適用し、運用の中で機能や価格が変わり得るという共通点があります。
その結果、呼び方が何であっても、規約の作り方は似てくるのが実情です。
(6)責任分界とリスク設計
責任分界とリスク設計は、ダウンロード型でもASPでも必要ですが、ASPでは特に重くなりがちです。
なぜなら、ASPでは提供する側が日々の運用を担い、利用者の業務やデータに直接影響を与えやすいからです。
したがって、契約で責任の範囲を決めていないと、問題が起きたときに「誰の責任か」「どこまで対応すべきか」が曖昧になり、損害賠償の話に直結しやすくなります。
①原因の切り分け
ASPのトラブルは、提供する側のサーバや設定の問題だけでなく、利用者側の操作ミス、端末の不具合、回線の問題、外部サービスの障害など、複数の要因が絡むことが多いです。
このため、契約では「提供する側が管理できる範囲」と「利用者側が管理すべき範囲」を分けて書くことが重要です。この点、利用者側の範囲には、アカウントやパスワードの管理、権限設定、端末の管理、社内の運用ルールなどが含まれることが多いようです。
②損害賠償の範囲
ASPでは、停止やデータの問題が起きたときに、利用者より売上の減少や業務停止などの損害を主張されることがあります。しかし、提供する側が無制限に責任を負うことになると、月額料金と釣り合わないリスクを抱えることになります。
そこで、契約では損害賠償の上限を定めることが一般的です。
上限の決め方としては、直近の利用料金を基準にする方法が多いです。あわせて、間接的な損害や、将来の利益に関する損害については、対象外とする設計が取られることが多いです。
ただ、これらは、利用者に不利な印象を与えやすいので、提供する側としては、理由と代替策を示せるようにしておくと交渉が進みやすいといえます。
③外部サービスの障害対応
多くのASPは、クラウド事業者の基盤やメール配信、決済などを利用しています。これらが止まった場合、提供する側だけで復旧できないことがあります。
そのため、契約では、外部サービスに原因がある場合の取り扱いを明確にし、提供する側が負う責任の範囲を整理します。一方で、利用者にとっては「使えない」事実は変わりませんので、連絡方法や状況報告の頻度など、利用者の不安を抑える運用面の約束を入れておくことが有効です。
④セキュリティ
不正アクセスや情報漏えいが起きた場合は、原因の調査や報告が必要になります。
契約では、提供する側が行う対策と、利用者側が行うべき対策を分けて書き、事故が起きたときの連絡手順や協力の範囲を定めます。ここを決めていないと、対応が遅れ、損害が拡大しやすいです。
⑤小括
責任分界は、相手に責任を押し付けるためのものではなく、問題が起きたときに素早く収束させるためのものです。
ASPではこの設計が弱いと、障害が「紛争」に変わりやすいので、契約で丁寧に整えるべきです。
(7)終了・移行(出口設計)
ASP契約では、提供開始時の条件だけでなく、終了時の扱いを先に決めておくことが重要です。
導入時は前向きに進むため、終了の話は後回しになりがちですが、実務では解約や停止の場面でトラブルが起きやすいです。特にASPでは、利用者のデータが提供する側の環境に残ることが多く、終了時の対応が不明確だと不信感が一気に強まります。
①解約、停止、終了の要件と手順
利用者が任意に解約する場合、料金の未払いなどを理由に提供する側が停止する場合、重大な違反を理由に契約を終了させる場合があります。
これらを区別しておくと、終了までの流れが分かりやすくなります。
任意解約については、いつまでに申し出るのか、最終利用日をどう決めるのか、日割り精算をするのかを明確にします。提供する側が停止や終了を行う場合は、事前の連絡方法や猶予期間を定め、いきなり使えなくなる状況を避ける設計が望ましいです。
②データ返却の方法、形式、期限、費用
終了時に最も揉めるのは、データを「返してもらえるのか」「どの形で返してもらえるのか」「いつまでに必要なのか」という点です。
契約では、データを返す場合の方法と形式、提供までの期限、費用負担を明記します。提供する側が標準機能として出力を用意するのか、個別対応として作業するのかによって、料金設計も変わります。
ここを曖昧にすると、提供する側は有償対応を前提に考えるのに対し、利用者は無償対応を当然の権利と考えて対立しやすいです。
③データ削除の時期と保管期間、保管中の取扱い
データを消す場合も、ルールが必要です。
終了後に一定期間は保管するのか、すぐに消すのかを決めます。すぐに消す場合は、利用者がデータを受け取る期限を短くしすぎないよう注意します。一定期間保管する場合は、保管中の取り扱いをどうするのか、提供する側がどこまで責任を負うのかを整理します。また、運用上必要な記録が残る場合は、どの範囲を残すのか、どのくらいの期間残すのかを説明できる形にします。
④移行支援
利用者は別サービスに移ることがありますが、移行には手間がかかります。
提供する側が対応できる範囲と、対応する場合の費用をあらかじめ示しておくと、終了時の交渉がスムーズになります。例えば、出力データの形式の変更や、追加のデータ整形、他システムとの突合などは、標準機能の範囲を超えることが多いので、有償であることを明確にしておくべきです。
⑤小括
終了と移行の設計は、利用者にとっての安心材料になるだけでなく、提供する側にとっても不必要な追加対応を避けるための重要な準備です。ASP契約では、入口だけでなく出口も同じくらい丁寧に決めておくべきです。
ASP契約のためのチェックリスト
契約書や利用規約を作成するに際しては、次の項目が書かれているかを確認することがポイントです。もし書かれていない項目がある場合は、本文に追記するのか、別紙に回すのかを検討すると整理しやすいかもしれません。
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・どの機能を提供するのか、提供しない作業は何かが書かれていますか ・問い合わせの窓口、受付時間、対応方法が書かれていますか ・計画的な停止がある場合の連絡方法と時期が書かれていますか ・急な停止が必要な場合の条件と連絡方法が書かれていますか ・不具合が起きたときの連絡、調査、報告の範囲が書かれていますか ・利用者のデータをどう保存し、どの範囲まで戻せるかが書かれていますか ・利用終了時にデータを返すのか消すのか、方法と期限が書かれていますか ・料金の内訳、追加費用が発生する作業、値上げのルールが書かれていますか ・損害賠償の範囲と上限が書かれていますか ・外部サービスの障害が起きた場合の取り扱いが書かれていますか ・セキュリティの分担と事故時の連絡手順が書かれていますか ・規約を変更する場合の通知方法と適用時期が書かれていますか |
ちなみに、ASP契約・利用規約の構成ですが、条項の「見出し」を抜き出した場合、次のようなものが1つの基準となります。
契約書や利用規約を作成するときは、まず見出しを並べ、必要なものだけ本文を作っていくと記載漏れが減るかもしれません。
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・目的と適用範囲 ・用語の定義 ・提供内容と利用条件 ・利用者の義務と禁止事項 ・サポートの範囲と問い合わせ方法 ・停止と点検の取り扱い ・不具合時の対応と報告 ・データの保存と復旧の範囲 ・データの返却と削除 ・料金、支払方法、追加費用 ・料金改定の取り扱い ・外部サービスの利用と再委託 ・セキュリティ対策と事故時の連絡 ・知的財産の取り扱い ・秘密保持 ・契約期間と解約 ・停止、解除、終了時の措置 ・損害賠償の範囲と上限 ・免責の範囲 ・連絡方法 ・準拠法と管轄 |
「ASP契約」を取扱うソフトウェア事業者が弁護士に相談・依頼するメリット
ASP契約は、サービスを「提供し続ける」取引であるため、契約書には運用、停止、不具合対応、データ、規約変更、責任の上限、終了時の扱いなど、実務上の論点が多く含まれます。
雛形の流用や当事者間の経験則だけで作ると、抜けや曖昧さが残り、トラブル時に不利になりやすいです。早い段階で弁護士に相談し、自社の提供形態に合う形へ整えることが有効です。
①「揉める論点」を先回りして設計できる停止・障害、データ返還、仕様変更、追加費用など、実際に争点化しやすい箇所を洗い出し、条項と別紙に落として誤解を減らします。
②交渉を通しやすい「落としどころ」を用意できる相手の要望を受け止めつつ、SLA、損害賠償上限、免責、移行支援の範囲などを現実に運用できる形に調整し、合意形成を進めやすくします。
③規約・運用の更新まで見据えて整備できる規約の組み入れや変更の通知、ログの残し方、終了時の手順など、運用で必要になるルールまで含め、社内で回る仕組みにします。 |
ASP契約は「作って終わり」ではなく「運用し続ける契約」です。
弁護士を活用し、抜けのない設計と合意形成でトラブルを減らし、事業の安定につなげることが重要です。
リーガルブレスD法律事務所によるサポート内容
リーガルブレスD法律事務所は、IT企業・インターネットビジネスを中心に、契約書・利用規約の整備からトラブル対応まで、事業の実務に即してサポートしています。
大阪市中央区の本町駅近くに事務所を構え、全国のご相談にも対応しています。
■リーガルブレスD法律事務所の特徴
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①IT企業の法務に特化した対応を行います IT取引の実情を踏まえ、契約条件を「現場で運用できる形」に整えることを重視しています。
②契約書対応の蓄積が豊富です IT契約書の作成・審査を多数取り扱うことで得られた知見をもとに、論点の抜けや曖昧さを減らす観点から支援します。
③スピードと相談しやすさを重視しています 意思決定のテンポを落とさない支援を心がけています。 |
(1)法律相談サービス
リーガルブレスD法律事務所では、これまでにお取引のない事業者様からのご相談を積極的に受け入れています。
早めのご相談であればあるほど、ダメージの少ない解決策をご提案することが可能です。
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ご相談内容例 |
・ASP契約書/利用規約の見直しを行いたい ・取引先から提示された契約書のレビューと修正交渉の方針整理を行いたい ・運用トラブル(停止・クレーム・損害賠償請求)への初動対応を教えてほしい |
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サポート内容例 |
・取引実態に合わせて、必要条項の過不足がないかを点検し、整理します。利用規約であれば、提示方法などの運用面も含めて設計します ・修正すべき条項の優先順位を付け、代替案を提示できる形に整えます。交渉の落としどころを作り、意思決定を進めやすくします ・相談の場で状況と希望を整理し、取り得る選択肢や見通し、次の一手を具体化します |
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相談者が得られるメリット |
・ASP特有の論点(停止・障害、データ、変更、責任上限、終了対応)を契約に落とし込み、後から争点になりやすい部分を減らします ・机上の条文ではなく、問い合わせ対応や通知、運用手順まで含めて整理するため、社内運用と契約のズレを小さくできます ・重要論点の優先順位が明確になり、合意条件や対応方針を組み立てやすくなるため、意思決定の停滞を防ぎやすくなります |
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弁護士費用 |
1回90分以内で15,000円(税別) |
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実施方法 |
①ご予約(お問い合わせフォーム又はお電話にて日程調整) ②事前準備(関係資料を共有いただきます) ③相談実施(オンライン又は対面) ④解決策提示(リスク診断、交渉方針などを具体的にご提示) ⑤アフターフォロー(別途契約の上、交渉代理や訴訟対応、継続支援へ移行) |
お問い合わせはこちら
(2)その他サービス(法律相談以外のサービス)
リーガルブレスD法律事務所では、法律相談サービス以外にも様々なサービスをご提供しています。
ここでは、AI機能の搭載・提供ルール整備パッケージサービスをご案内します。
■AI機能の搭載・提供ルール整備パッケージサービス
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ご依頼内容例 |
・生成AI機能をリリースする前に、利用規約/注意書き/運用ルールを一式で整えたい ・ユーザー入力(個人情報・機密情報を含み得る)の扱いと、学習/分析への利用可否を整理したい ・AIの誤回答や不適切出力、権利侵害の懸念に備えて、責任分界と対応フローを決めておきたい |
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サポート内容例 |
・AI機能の仕様と提供形態を確認したうえで、利用規約(AI条項)、禁止事項、免責・責任上限、利用停止条件、問い合わせ対応方針を整備します。あわせて、画面上の注意書き(入力画面・結果画面・設定画面)やFAQ文案も作成します ・どの情報を取得し、どこに保存し、誰がアクセスし、外部委託があるかを棚卸しします。その上で、入力情報の取り扱い、学習・分析への利用の範囲、オプトアウトや設定項目、削除依頼への対応方針などを、規約・プライバシー関連文書・社内運用に落とし込みます ・誤回答、差別的表現、第三者の権利侵害、業務判断利用など、トラブルになりやすい類型を想定し、ユーザーへの説明、免責の置き方、通報対応、再現テスト、利用停止や再発防止の手順を整備します。 |
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依頼者が得られるメリット |
・技術論ではなく、ユーザーとの約束事を明確にして、誤解、クレーム、炎上の芽を減らします ・法務論点を先に整理し、必要書類と表示文案をまとめて整備するため、開発・CS・営業の調整コストを抑えやすくなります ・入力データの取り扱い、学習利用の範囲、事故時対応などを言語化し、社内外への説明可能性を高めます |
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弁護士費用 |
案件の仕様(AI機能の種類、入力情報の性質、外部委託の有無、既存規約の有無)により工数が変わるため、別途お見積りとなります |
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実施方法 |
①オンラインヒアリング(30分程度)を実施し、課題の抽出とご要望事項を確認します ②実施計画案とお見積りを提示します ③ご依頼者様にて検証して頂き、ご要望を踏まえて実施計画を確定させます ④実施計画に沿って、順次作業を進めていきます |
お問い合わせはこちら
(3)法律顧問プラン(顧問弁護士サービス)のご案内
リーガルブレスD法律事務所では、契約書締結前の先行着手に起因するトラブルのみならず、システム開発会社(ベンダの)円滑な事業活動の妨げとなる様々な課題の解決支援と事前予防を目的とした、継続的な伴走支援サービスをご提供しています。
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ご依頼内容例 |
・新機能、新サービスのリリース前に、規約・表示・運用フローを一括で点検したい ・契約審査や承認フロー、社内テンプレを整備し、法務対応を属人化させずに回したい ・労務、コンプライアンスの社内ルールを整え、日常的なトラブルを未然に防ぎたい |
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サポート内容例 |
・リリース計画の段階で確認ポイントを整理し、必要に応じて規約、表示、社内運用の修正案まで落とし込みます。重要変更の通知や移行期間の設計など、実装・運用と一体で助言します ・実際の取引や運用に合わせて、社内標準(テンプレ、レビュー基準、承認フロー、記録管理)を整備します。担当者が変わっても品質が落ちにくい運用設計を支援します ・社内規程、運用ルール、相談窓口の設計、研修の実施、社内周知の方法まで含め、予防の観点で整えます。問題が起きる前提で「判断に迷わない仕組み」を作ります |
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利用者が得られるメリット |
・相談先が固定されることで、都度の状況整理が短縮され、意思決定が止まりにくくなります ・リリース、運用、労務など、日常業務に法務を組み込むことで、重大化しやすい論点を早期に潰せます ・テンプレ、運用ルール、判断基準が整うことで、担当者の負担と手戻りが減り、外注費や対応時間のブレも小さくなります |
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実施方法 |
①お問い合わせ、オンライン面談(ご要望事項、プランの説明) ②顧問契約の締結 ③窓口の開設(専用メール、チャットの提供) ④日常的な対応(契約書レビュー、相談に即応(即日~数日以内対応可)) ⑤ミーティング(必要に応じて経営課題、法務リスクを総点検) ⑥追加支援(必要に応じて交渉代理、訴訟対応、研修実施などを提供) |
<2025年12月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。