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システム開発トラブルを減らす実務ガイド(ベンダ等開発事業者向け)

本記事は、システム開発の現場で起こりがちな「あるある」トラブルを、ベンダや開発PMでもすぐに使える形で整理した実務ガイドです。

各テーマは、まず具体例で状況を描き、続いて弁護士の視点から「解決策(今すぐやるべきこと)」と次回から揉めないための「再発防止策」を解説しています。

検収が終わらない修正の連鎖、納期遅延と一方的な減額、見切り着手での報酬回収、保守範囲の線引き、データ復旧や第三者への引継ぎなど、現場で直面しやすい論点を網羅しています。

現場対応に際しての一助にしてください。

契約交渉中(契約前)

(1)見切り着手・契約未了のままスタート

発注者が希望する納期に間に合わせるため、担当者間の口頭の合意だけで開発に着手した。発注者より、あとで社内承認が下りず、すでに作った試作の費用を支払うことはできないと言われた。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

まず、当時の合意を「何を(成果、作業内容)」、「どこまで(完成の範囲、到達点)」、「いくらで(報酬額、算定方法)」、「どのようにして受領するのか」の項目で整理します。また、メール、議事録、見積、デモ記録、作業管理票の完了履歴などから裏付け資料を探し出します。

その上で、完成品を前提にしていたなら「どこまで役立つ状態まで出来ていたか」を示すこと(民法第634条参照)、一方で期間内の作業提供が前提なら「実際の工数と単価」を示すこと(民法第641条参照)を意識して準備を行います。

発注者との交渉に際しては、事実の確定(契約の成立)、清算の考え方、金額と支払時期の順に進めることがポイントです。なお、契約の成立が認められない場合は、契約締結上の過失や商法第512条に基づく相当報酬請求を主張することになります。

■再発防止策

正式契約が間に合わない場合でも、着手前に依頼があったことを裏付ける資料(メール、チャット等を含む)を発注者より取り付けることを意識します。またできる限り、作業範囲・期間、金額の決め方、納品物や作業結果の受け取り方等の取引条件が記載されるよう誘導することがポイントです。

なお、ベンダ側の社内ルールとして、発注書がない限り開発作業を進めないことや、営業担当者の評価につき、単なる成約率を前提とするのではなく、仮合意取得率なども組み込むことで、営業担当者の暴走を止めるといった工夫も行いたいところです。

(2)一方的な契約条件の押し付け

大手の発注者から「自社のひな形でしか契約しない」と言われ、支払は検収後90日、仕様変更は無償対応、成果の権利はすべて発注者に帰属、万一の損害は上限なしで賠償、という条件を突き付けられた。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

まず、下請法(2025年からは中小受託取引適正化法)などの法令違反となる取引条件がないかを探し出します。本件であれば、支払いサイトを90日とする点が違反する可能性が高いことから、その点を指摘し、相手が素直に修正に応じるのかを見極めることが重要です(素直に修正に応じない場合、今後もコンプライアンスを無視した要求が続く可能性が高いことから、そもそも取引をするのかも含めて慎重に検討するべきです)。

次に、発注者に受け入れやすい代替案を検討します。例えば、①支払いは工程ごとで分ける(設計、開発、受入れ段階でそれぞれ一部支払いが発生する)、②変更は「作業量が増加した場合は有償」と明記する、③契約書とは別に受入れ基準としての「テスト項目と期日」を予め提示し承認を得ておく、などです。

なお、大手の発注者の場合、ひな形それ自体は修正できないものの、別途覚書等で内容修正に応じることは可能というスタンスで臨んでくることが多いようです。したがって、大手だから一切修正交渉に応じてもらえないと諦めてはいけません。

■再発防止策

「のめない条件」と「譲ってよい条件」を社内で予め決めておくことが肝要です。そして、決めたルールを営業担当者、作業者、法務担当者、役員で共有し、発注者が誰と話をしても同じルールにて説明することがポイントです。

なお、見積もり段階で、「のめない条件」を先出しすることで、発注者側に認識させておくことも修正交渉を進めやすくする一材料となり得ます。

開発段階

(1)小出しでの追加要望

購買・在庫を扱う基幹システムの開発中、発注画面について簡易な変更要望があり、その都度対応をしていたところ、11つは小規模な修正ではあるものの、次々と変更要望が出てくる事態となり、結果として、テスト観点や移行手順が増え、当初の工数と納期を明確に上回る負担が生じた。

追加費用に関する交渉を要請したところ、発注者は「軽微修正の範囲」と考えており、一切の交渉に応じない。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

まず、当初の合意と現在の依頼内容を対比できる資料を用意します。

初期の仕様・見積・スケジュールと、追加依頼の一覧(日時、依頼者、内容、所要見込み、影響)を並べ、合計の工数増と納期影響を数字で示し見える化することがポイントです。

もっとも、発注者は、工数が増加したことは理解しつつも、事前に追加費用が発生することにつき告知がなかった以上、支払いはできないと反論してくる可能性があります。

これに対しては、追加発注に関する黙示の合意が成立していた、商法第512条に基づく相当報酬請求権が成立するといった再反論を行いつつ、落し所を探ることになります。

 ■再発防止策

契約書等に、「軽微修正」の定義と上限を決めておきます。たとえば「既存の帳票の罫線・余白・ロゴ差し替え」、「既存の並び順・並び替え条件のデフォルト値の変更」、「作業時間が30分以内のもの」といった基準です。

また、変更依頼はあらかじめ定めたルール(フォームからの申請、ネットワーク上で共有するファイルに書込む等)以外では受け付けないこと、面倒であっても変更依頼ごとで有償or無償の返答を行うこと、発注者からの承認がない限りは作業に着手しないこと、といった現場対応を徹底することが肝要です。

なお、現場対応に際し、送付の窓口を一本化し、意思決定の履歴(誰が、いつ、何を承認したか)を残すルールを徹底することも重要です。

(2)発注者の非協力的な対応

開発は進んでいるものの発注側から必要な資料が届かず画面設計が止まる、試作を見せても担当者の社内決裁が滞り次の工程に移れない等の理由により、結果として、想定通りに作業が進んでいない。

後から納期遅延等を指摘されることを回避したい。

 ■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

まず、遅れている協力事項(資料、決裁など)を項目ごとに見える化し、影響(止まっている作業、延びた日数、増えた工数)を数字で示すことができるよう準備します。

次に、期限を切った催告(例:「日までに提出・確認がなければ、スケジュールを再計算します」)を文書で出し、記録を残します。

一方で並行して、現実的な打開策を提示します。たとえば、①社内資料がないまま暫定的に先に進めつつ、確定後に差分対応を有償で行う提案を行う、②決裁が遅れる間は一時停止し、再開時に新スケジュールと追加費用を合意するなどです。

これらの対応を1つずつ積み重ねることで、発注者に協力義務違反があったことを裏付けることができ、発注者が後から納期遅延等を指摘しても、ベンダに帰責性ないと反論することが可能となります。

■再発防止策

着手前に発注側の協力項目リストを作り、提出・決裁・受入テスト等の期日と担当を明記した上で、契約書には遅延時は納期延長、追加費用、作業停止のいずれかをベンダが主張できることを明記することが理想です。

また、協力の遅れによる手戻りは原則有償であることを契約書に明記することも一案です。

なお、受入テストについては、検査期間内に連絡がなければ合格扱いとするみなし合格条項を規定するのは必須と考えるべきです。

納品・検収段階

(1)検収時の無限修正要求

成果物を納品したところ、発注者は「データ出力仕様の変更」「追跡・計測タグの実装」「表示速度の変更」など細かな指摘を五月雨式に行ってきている。

どこまで直せば終わりとなるのかが分からない状態となっており、現場従事者が疲弊し、報酬の支払いも行われず困っている。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

まず、届いている指摘について、「不具合(直すべき)/当初合意の不足(要調整)/新しい要望(追加)」の三つに分けて一覧化します。そして、各項目に、必要な作業量と納期への影響を付けて見える化します。

次に、解決案として、①不具合は無償で直す、②当初合意の不足は最小限の範囲で調整、③新しい要望は有償または次回リリースに移すことを提案します。

このような対応を行う目的は、作業工程の終了時期を明確化することです。

工程が終了している以上、法的に報酬請求権を行使することが可能となります。

なお、依頼者が検査不合格と主張したところで、仕様書等に記載された合意事項に合致し、かつ成果物の機能・稼働に支障を来すことはない状況である場合、検査に合格したものとして取り扱う裁判例も存在します。したがって、結果的には修正要求に応じなくても報酬請求が認められる可能性は高いと考えられます。

■再発防止策

検収の「基準・手順・回数・期限」を事前にルール化することが重要となります。なお、発注者との関係上、いくばくかの「軽微な修正」には応じざるを得ない状況があるのであれば、「軽微な修正」に含まれる作業内容と上限回数を予め設定することをお勧めします。

次に、仕様書等の記載につき、曖昧・抽象的・多義的な解釈が可能といった事情をできる限り排除し、追加要求か否かを判断できる状態を作出しておくことも重要です。

さらに、発注者側に属する様々な者から要求が出されることを回避するべく、担当者を通じてしか要求を出せない形式にすることも、要求連鎖に歯止めをかけることが可能となります。

(2)納期遅延と報酬減額

成果物を納品後、発注者は「予定より遅れたので金額を下げる」と一方的に告知してきた。開発途中で仕様追加があったこと、発注者側の社内決済の遅れが遅延につながったことを説明するも、発注者は話を聞こうとしない。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

遅れの原因を時系列で丁寧に洗い出し、発注者側の事情で生じたもの、ベンダ側の事情によるもの、不可避の外部要因に区分して整理します。この際、議事録、メール、変更依頼、進捗報告といった一次資料に基づき、どの出来事がどれだけ日数を押し延ばす要因となったのかを具体的に示すことがポイントです。

その上で、発注側の事情や外部要因に起因する場合は減額対象外であること、下請法(2025年より中小受託取引適正化法)の適用があるのであれば法令違反であることや監督官庁への申告等を指摘し、発注者に見直しを求めることになります。

一方、ベンダ側の事情が認められる場合、代替案として保守期間の延長や次回作業の割引などを提案しつつ着地点を探すことになります。

■再発防止策

本件のようなトラブルに備えて、契約書に追加・変更要望があった場合は納期変更があり得ること、追加・変更要望の受入れ条件として納期変更に関する合意が必須であることを明記することが一案です。また、実際の現場対応として、追加・変更交渉を行う場合、セットで納期変更に関する交渉を行うことを意識することが重要となります。

なお、いくら契約書を充実させたところで、発注者の追加・変更要望が発生した原因につき、例えば、契約締結当時に求められるベンダの仕様等のまとめ方に不備があったのであれば、ベンダに帰責性があるため、減額を受け入れざるを得なくなる可能性が高いこと注意を要します。

検収完了後(運用段階)

(1)情報漏洩・脆弱性

リリース後しばらくして、外部の利用者から発注者宛に「他人のデータが見えた」との連絡が入った。

発注者より情報漏洩事故が生じたとして、責任を取るように言われている。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

初動としては責任問題を確定させるよりも、被害拡大を止めるための一次対応を直ちに実行することが肝要です。その上で、証拠を喪失しないようログや設定の写しを保全し、発生時刻、原因の入り口、影響し得る範囲を整理します。ここまでの初動策と原因究明準備については、発注者と適宜情報共有することをお勧めします。なお、発注者側において、影響を受けた可能性のある顧客等への連絡やサポート窓口の設置、監督官庁や業界団体への報告、公表のタイミングの作業が発生しますので、必要な範囲で支援を行ったほうが無難です。

次に、発注者側が対外的な対応に追われている状況下で、ベンダは原因究明を行いつつ(必要があれば第三者機関による原因調査を受け入れることも必要)、法的な意味で責任を負うことになるのか契約書等で確認することになります。特に確認するべき条項は、SLA(保証条項)、免責条項、損害賠償の上限条項となります。

原因究明の結果、ベンダに帰責性ありと判断される場合は、再発防止策を提示しつつ損害賠償責任の交渉を行うことになります。

一方、ベンダに帰責性ありとは言い切れない場合(第三者サービスの不備に起因する、未知のウイルスに起因する等)、理屈の上では損害賠償責任を負わないことになります。ただ、発注者が直ちに納得するとは限りませんので、再発防止策の提示に付加する形で、例えば、当面の復旧・監視の無償提供、影響を受けた機能の利用料減免などを提案し、感情的対立を避けながら合意形成を目指すことも必要となります。

■再発防止策

技術的な対策が中心となりますが、法的な観点からは、見かけをよくするためにSLAにできもしないことを書かないこと、免責条項をできる限り具体的かつ詳細に定めることがポイントとなります。

なお、情報漏洩後のベンダの対応が不適切であった場合、事故対応を問題視して責任追及されるリスクも否定できません。したがって、情報漏洩時に備えたマニュアルの整備(誰がやっても同じ水準で対応できるようにすること)が必要不可欠となります。

(2)報酬未払い

検収合格となったにもかかわらず、発注者側は不具合が見つかった等の理由を付けて、報酬を支払わない。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

一例として、次のような回収フローを挙げておきます。

①:報酬未払いの理由を問い質し、明らかにする。

-1:未払いの理由が資金不足の場合、とりあえず「×年×月×日時点における未払い金は×円であること」を記載した書類を発注者より徴収する(支払い方法等の細かな条件は記入する必要なし。むしろ「不具合その他契約違反を理由として支払いを拒絶しているわけではないこと」の明記を重視する)。

-2:未払いの理由がベンダの契約違反であると発注者が主張する場合、とりあえずその違反内容を具体的に聞き出す。なお、可能であれば、理由を明記した書類等を発注者より提出させる。

-3:未払いの理由が発注者の失念に過ぎない場合、支払予定日の交渉を行い確定させる。

-1:書類徴収後、支払いに関する交渉を行う。進展がないようであれば、直ぐに法的手続きに移行する。

-2:発注者が主張する違反内容につき精査する。反論する場合、契約上の根拠の有無を確認することはもちろん、発注者が主張する違反内容に変遷がないか(例えば当初指摘した違反理由と事後に指摘した違反理由が異なっている等)、発注者の主観的不満や言いがかりに留まるものではないか、隠された別の本音がないか(例えばベンダを困惑させることで、報酬減額等の譲歩を引き出させようと企んでいないか等)といった、相手の言動・心理観察が必要となる場合が多い。

-3:再度未払いとなった場合、直ぐに法的手続きに移行する(これ以上の交渉は無駄となる可能性が高いため)。

慌てず・騒がずフローに当てはめながら、粛々と手続きを進めていくことが肝要です。

■再発防止策

未払いを少しでも減らしたいのであれば、最後にまとめて報酬を一括で支払ってもらうといった取引条件ではなく、分割払いとなる取引条件(フェーズ終了ごとに一部金を支払ってもらうなど)を設定したいところです。

また、例えば「入金がない場合、ライセンスを一時停止する(システムが使用できない状態にする)」、「発注者は、一時停止により損害を被っても賠償請求ができない」といった条項を契約書に定めた上で、支払わなければならないという心理状態を作出するといった方法も考えられます。

保守

(1)保守業務の範囲

発注者からの「決済サービスの仕様が急に変更され、これまでの連携が通らなくなったので対処してほしい」との依頼に基づき、対応費用請求したものの、支払いを拒まれている。

また、クラウド事業者の障害でサーバが落ち、復旧や再設定に時間がかかったことから、作業分の費用を請求したところ、やはり支払いを拒まれている。

発注者は、いずれも保守業務の範囲であると主張している。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

まずは保守契約書に定めている保守業務に何が含まれているかを確認する必要があります。

もし、第三者が提供するサービスに起因する障害対応は保守業務の範囲より除外されているのであれば、相当額の報酬請求を行うことは可能と考えられます(商法第512条)。

一方、保守業務の定義が曖昧であり、保守契約書を読んだだけでは分からないという場合は、非常に厄介です。契約書以外の資料(例:提案資料や見積書など)、保守契約締結に際しての説明内容の再現などから、保守業務の範囲を検証することになりますが、それでもはっきりしない場合、残念ながら保守業務の範囲とされる可能性が高いことを覚悟する必要があります。

この場合、今後の見直し交渉として、①いつ、どの外部サービスで、どの変更や障害が発生し、こちらは何を止め、何を復旧し、どの作業にどれだけ時間がかかったのかを、ログ、サポートとのやり取り、変更履歴を明示し、②最小限の復旧は無償で行うが、恒久対応は別途見積りといった二段構えの提案を行い、発注者の納得が得られるよう尽力するほかありません。

なお、とりあえず今回は無償対応とする場合、同種のことが将来発生しても同様の対応とはならないことの申し合わせを行いたいところです。

■再発防止策

上記の解決策でも記載しましたが、保守契約書の保守業務を適切に定めておくことが重要です。ちなみに、保守業務について個別具体的な定義を設定することが難しいのであれば、保守業務から除外される業務を個別列挙し契約書に定めておくという方法もあります。

なお、今回の事例では保守業務の範囲が問われていますが、保守契約の場合、他にも…①対応時間(営業時間外対応のルール)、②1ヶ月あたりの作業上限時間の有無、③第三者サービスの利用料金改定に伴う保守料の変更、④OS・ミドルウェアのサポート終了対応、⑤保守契約終了時のデータの引継ぎなどがトラブル化しやすいので、あわせて保守契約書の整備を行うことをお勧めします。

(2)データ復旧(バックアップ対応)

誤った操作により大量の取引データが消失する事態となった。

発注者よりデータ復旧要請を受けたため、完全な復旧は難しい旨回答したところ、保守契約を締結している意味がないとのクレームを申し立ててきた。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

これについても、上記(1)と同じく、データの復旧作業は保守業務の範囲なのか、そもそも論としてデータのバックアップ作業はベンダの義務なのかにつき、保守契約書を確認することがポイントとなります。

仮に、保守業務対象外であれば、発注者のクレーム申立てに正当性はありません。もっとも、保守業務遂行の過程で任意によるデータのバックアップをしていたのであれば、当該データに基づく復旧作業を行うことを提案するのも一案です。

一方、保守契約書や関連資料(例:提案資料や見積書など)を検討しただけでは業務対象外と言い切れない場合、保守契約違反と指摘されるリスクはあると言わざるを得ません。もっとも、データ消失の原因が発注者の不注意等に起因する場合、損害賠償の算定に当たって過失相殺の適用が考えられますので、適切な負担額になるよう粘り強く交渉を行う必要があります。

なお、これを機に、データのバックアップ業務及び復旧業務が保守業務の対象範囲となるのか新たな合意を取りけることも肝要です。

■再発防止策

やはり上記(1)と同じく、保守契約書の保守業務を適切に定めておくことに尽きます。

なお、データのバックアップ業務及び復旧業務が保守業務の対象範囲とする場合であっても、技術的な理由でリアルタイムでの復旧は難しいといったケースも想定されるところです。したがって、免責条件を適切に定めておくことが重要となります。

また、復旧作業のタイミング(営業時間外対応が求められる場合など)によっては別料金が発生する場合があるとして、料金体系の整備を行うことも検討に値します。

契約終了時(引継ぎ時)

発注者側の事情により保守事業者を変更することとなった。

発注者は変更に際し、環境一式の提供や初期教育の実施を引継事業者に行うよう求めているが、保守料以外に費用を支払うつもりはない。

■弁護士視点の解決策(今すぐやるべきこと)

そもそも論として、ベンダは発注者の指示に従って引継ぎ業務を行う必要があるのかが問題となります。

この点、保守契約書における保守業務に引継ぎ業務が明記されていない場合、当然に引継ぎ業務を行う必要はないと考えられます。もっとも、一切引継ぎ業務をすることなく、保守契約を終了させるというのも難しい場合があります。

この場合、引継ぎ業務は保守業務とは異なる作業であることを前提に有償となること、引継ぎ作業の範囲・期間・工数(時間)を確定させる必要があること、譲渡可能な資産と不可能な資産との切り分けが必要となること、権利関係の処理が必要となること、ベンダとして責任を負えない事項(責任分界点)があること、秘密情報を特定した上で秘密保持義務を課す必要があることなどを説明の上で、引継ぎに関する合意書を締結することが望ましいといえます。また、第三者が提供するサービスを用いている場合、契約上の地位の移転が可能なのか、新たに契約を締結しなおす必要があるのかについても認識の共有を図る必要があります。

■再発防止策

取引関係は永遠に継続することはあり得ない以上、保守契約が終了した場合にどのような処理を行うのか、予め保守契約書に明記しておくことが望ましいといえます。

この点、引継ぎ業務を行うのであれば、上記の解決策に記載した新たに契約を締結しなおす際に検討するべき事項を設定することになります。

一方、引継ぎ業務を行わないのであれば、その旨を明記しておくことが重要です。また、ベンダが保守業務より離脱した場合、発注者側で引き続きシステムを利用できるよう、プログラム著作物等を含む知的財産権を譲渡するのか、ソースコードを開示するのか等についても明記したほうが、後々のトラブル回避に役に立つと考えられます。

ベンダ等のシステム開発事業者が弁護士に相談・依頼するメリット

(1)契約交渉中(契約前)でのメリット

①見切り着手の清算ストーリーを構築

口頭合意・メール・見積・作業ログを「何を/どこまで/いくらで/受領方法」の軸で再整理し、民法634条・641条や商法512条を踏まえた清算方針と交渉順序(成立要件清算枠組金額・期日)を作ります。

相手が合意形成しやすい落としどころの選択肢(完成ベース/工数ベース)をご提案します。

②一方的ひな形への現実解提示

下請法/中小受託取引適正化法のリスクを起点に、修正ゼロを崩す覚書アプローチ、工程分割払い、受入基準の事前合意(テスト項目・期日)など、相手が飲みやすい代替案で交渉の扉を開きます。社内の「のめない条件/譲れる条件」ルール化も同時に設計します。

(2)開発段階でのメリット

①小出し要望の有償・無償線引きを可視化

仕様・見積・スケジュールと変更一覧を突き合わせ、黙示の追加発注/商法512条の相当報酬まで計算根拠を整備。

軽微修正の定義・上限や変更受付の運用ルール(申請フォーム化、承認者の明確化)をその場で組み立て、以後の要求連鎖を止めます。

②非協力的発注者への遅延帰責エビデンス作り

協力事項の未実施影響(止まった作業・延伸日数・増工数)まで数値化。

期限を切った催告文案と、現実的な暫定運用/停止再開合意のセット提案で、後日の減額・遅延責任追及に備えます。

(3)納品・検収段階でのメリット

①無限修正を三分類して工程を閉じる

指摘を不具合/当初合意の不足/新要望に仕分け、必要作業量と期日影響を添えて提示。

不具合=無償、合意不足=最小限調整、新要望=有償or次回で終わりを確定し、報酬請求権の発生点を明確化します。

②納期遅延による一方的減額への予防・対処

遅延要因の帰属(発注側/ベンダ側/外部要因)を一次資料で棚卸し、法令違反の指摘・是正提案、代替案(保守延長・次回割引)による実務的な着地点作りを支援します。

(4)検収後(運用)でのメリット

①情報漏洩・脆弱性の初動~責任範囲を同時並行で整理

被害拡大の停止、証拠保全、原因仮説と影響範囲の技術×法務の二軸メモを早期に作成。

SLA/免責/上限条項を読み替え、第三者調査の受入れ条件や対外公表の段取りまで含めた合意形成を主導します。

②未払い対応の分岐フローを標準化

理由の文書化支払事実の確定書面交渉即時の法的手続移行条件まで、感情対立を避けつつ回収確度を上げる運びをテンプレ化します。

(5)保守フェーズでのメリット

①保守業務に含まれない…言い切れる契約設計

外部サービス起因やクラウド障害、OS/EOL対応、夜間対応の除外列挙・別料金化を含む保守定義の再設計を実行。

曖昧契約でも、提案・見積・説明履歴から業務範囲の実態を再構築し、次回以降の有償二段構え(最小復旧=無償/恒久対応=別見積)へ転換します。

②バックアップ/復旧の期待値コントロール

復旧可能性・RTO/RPOの法務表現、免責条件、料金テーブル(時間帯・緊急度)を整え、「保守しているのに復旧できないのか」論に理路整然と対応します。

(6)契約終了・引継ぎ時でのメリット

①引継ぎを別契約・別料金で合意形成

範囲・期間・工数、譲渡可能資産/不可能資産、権利処理、責任分界点、秘密保持、第三者サービスの地位移転の可否まで織り込んだ引継ぎ合意書を短期に作成。

「保守料だけで全部やって」を防ぎます。

②離脱後も揉めない利用継続の設計図

ソース提供・著作権処理・ライセンス条件など、離脱後に発注者が使い続けられるための条項設計を、自社リスクを最小化するバランスで落とし込みます。

リーガルブレスD法律事務所によるサポート内容

(1)リーガルブレスD法律事務所の5つの特徴 

①当事務所はIT分野に継続的に取り組み、システム開発を含むIT企業向けの相談や案件対応を日常的に行っており、専門性に基づいて実務的な助言と対応を行います。

②システム開発の途中終了、納期の遅れ、検収後の不具合対応、運用・保守の範囲など、発生しやすい論点を類型ごとに整理し、交渉から訴訟まで一連の手続を見据えて対応します。

③相談に際しては契約書や工程・仕様などの資料を事前に確認し、状況の整理、今後取り得る方針、必要な書面の準備までを早い段階で提示する運用を行っています。

④交渉だけでなく訴訟の実績も公開しており、未払いの報酬や作業相当額の回収など、システム開発に特有の紛争に対して具体的な解決結果を示しています。

⑤相談料などの費用情報を明示しており、予算感を把握したうえで依頼の可否を判断しやすいように配慮しています。

(2)法律相談サービス

リーガルブレスD法律事務所では、これまでにお取引のないベンダ等のシステム開発事業者様からのご相談を積極的に受け入れています。

早めのご相談であればあるほど、ダメージの少ない解決策をご提案することが可能です。

ご相談内容例

・契約を締結しないまま作業を始めてしまい、作業範囲や報酬の整理に不安を感じている。

・相手方の契約書が一方的だと感じ、支払条件や責任範囲の修正点を見極めたいと考えている。

・仕様変更が小刻みに続き、有償・無償の判断基準を明確にできずに困っている。

・納期や品質を理由に減額や未払いを示唆され、交渉の進め方を判断できずにいる。

・保守や引継ぎの範囲と費用が曖昧で、合意方法や手順を整理できずにいる。

サポート内容例

・契約書、見積、議事録、メール、作業ログ等を時系列で整理し、合意済み事項と未確定事項の特定を図り、今後の課題と進め方をご提案します。

・現状に即した交渉方針を作成し、清算方法や支払条件、停止・再開条件などの選択肢をご提案します。

・変更管理の基準と手順を整備し、軽微な修正の定義や申請・承認フローを運用可能な形で設計しご提案します。

・検収と請求の進め方を文書化し、指摘内容の区分と処理方針を示して工程の終点を明確化させます。

・減額、未払いへの対処方針を示し、資料に基づいて責任の帰属を検討しながら回収方法をご提案します。

相談者が得られるメリット

・初動を早め、現場の作業を止めずに交渉材料を整えることが可能です。

・論点を類型ごとに整理し、対応の優先順位と現実的な着地点を把握できます。

・変更管理と検収の基準が明確になり、請求と保守開始までの道筋を見失わずに進めることが可能となります。

・減額や未払いに対して、客観的資料に基づいた説明で支払合意を得やすくなります。

・保守や引継ぎの範囲と費用を明確にし、将来の紛争を避ける仕組みを整えることが可能となります。

弁護士費用

190分以内で15,000円(税別)

実施方法

①ご予約(お問い合わせフォーム又はお電話にて日程調整)

②事前準備(利用規約など関係資料を共有いただきます)

③相談実施(オンライン又は対面)

④解決策提示(リスク診断、交渉方針などを具体的にご提示)

⑤アフターフォロー(別途契約の上、交渉代理や訴訟対応、継続支援へ移行)

 

お問い合わせはこちら

 

(3)その他サービス(法律相談以外のサービス)

リーガルブレスD法律事務所では、法律相談サービス以外にも様々なサービスをご提供しています。

ここでは、紛争・トラブルに対する裁判外交渉の支援(同席・代理)サービスをご案内します。

 

■紛争・トラブルに対する裁判外交渉の支援(同席・代理)サービス

ご依頼内容例

・相手方が納期遅延や品質を理由に減額や未払いを主張しているので、支払条件を再交渉したい。

・仕様の追加や変更の扱いについて見解が分かれ、費用とスケジュールの再設定を合意したい。

・検収が長引き、指摘事項の範囲や対応区分が曖昧なため、終点を確定して請求に進みたい。

・協力資料の未提供や意思決定の遅れが続き、責任の帰属と工程の再開条件を交渉で明確にしたい。

・契約を締結しないまま作業を進めたため、終了や清算の条件を文書で合意したい。

サポート内容例

・減額、未払いの主張に対して、請求根拠と支払計画案を準備し、会議に同席または代理参加して合意形成を図ります。

・変更点の経緯をメールやチケットで時系列に整理し、当初合意、追加要望、不具合に区分したうえで、費用と期限の再提案書を提示、説明します。

・検収の基準と期限を交渉アジェンダに落とし込み、指摘事項の分類と処理順序を合意文案(覚書等)に反映して工程が確定できるよう支援します。

・協力事項の未実施による影響を数値で示し、期限を区切った催告、暫定運用、作業停止・再開の条件をその場で提案して合意形成を図ります。

・未締結の状況を踏まえ、作業範囲、対価、引渡し物、権利関係を整理した清算合意案を作成し、交渉の場で文案調整から最終締結まで支援します。

相談者が得られるメリット

・争点を時系列と区分で可視化でき、交渉の入口から着地点までの道筋を短時間で把握できます。

・交渉で用いる書面や説明資料が整い、相手方の合意を得やすくなり、無用な対立を回避しやすくなります。

・検収や変更管理の基準が具体化し、請求や工程再開に向けた実務的な合意を進めやすくなります。

・減額や未払いに対して、責任の帰属と金額影響を資料に基づいて説明でき、回収の可能性を高めることが可能となります。

・交渉が不調に終わる場合でも、内容証明や保全手続など次の手段に円滑に移行でき、解決までの時間と損失を抑えやすくなります。

弁護士費用

別途お見積り

※緊急度、難易度などを考慮して見積書をご提示します。

実施方法

①お問い合わせ後、簡単な聞き取りとお見積りの提示

②正式なご依頼後、調査の上、今すぐ対応するべき課題の抽出

③優先順位を決めた上で、支援開始

④合意書案の作成と交渉

⑤合意書の締結

 

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(4)法律顧問プラン(顧問弁護士サービス)のご案内

リーガルブレスD法律事務所では、ベンダ等のシステム開発事業者を取り巻く様々なリスクを事前に防止し、リスクが発現した場合は素早く除去することを目的とした、継続的な伴走支援サービスをご提供しています。

 

ご依頼内容例

・契約、見積り、発注、検収、保守までの書面と手順を標準化し、案件ごとに判断がぶれない体制をつくりたい。

・仕様変更や価格改定などの条件変更を、毎回の個別交渉に頼らず、社内ルールと書式で回せるようにしたい。

・障害やクレームが発生したときの初動、社内外の連絡、再発防止までを社内で運用できるよう、体制と資料を整えたい。

サポート内容例

・契約、見積り、発注、検収、保守の各書式と手順を統一し、受入基準と責任分担の要点シートを整備して定例で運用を見直します。

・変更申請から承認までの手順と軽微変更の基準を整理し、影響評価フォームと価格、支払条件の定型文を用意して即時に提案できる体制にします。

・障害、クレーム時の初動フローと連絡体制を定め、証拠保全、対外説明のチェックリストと通知、合意の雛形を整備します。

利用者が得られるメリット

・案件ごとの判断が標準化され、社内の説明と対外の交渉が速く一貫した形で進められる。

・変更管理や価格改定を仕組みで回す体制が整い、担当者の属人的な負担や手戻りが減少する。

・検収、請求、保守開始の条件が明確になり、未回収や無償対応の発生率を下げられる。

・障害、クレーム時の初動が安定し、二次被害の防止と関係維持に必要な手順と文書を社内で即時に用意できる。

・判例やガイドラインの更新が定期的に反映され、条項と運用が古くならず、将来の紛争リスクを低く抑えられる。

実施方法

①お問い合わせ、オンライン面談(ご要望事項、プランの説明)

②顧問契約の締結

③窓口の開設(専用メール、チャットの提供)

④日常的な対応(契約書レビュー、相談に即応(即日~数日以内対応可))

⑤ミーティング(必要に応じて経営課題、法務リスクを総点検)

⑥追加支援(必要に応じて交渉代理、訴訟、研修実施などを提供)

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202510月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

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