準委任契約(業務委託契約)とは何か? 契約書作成時の注意点と共に解説

IT事業者が最も利用する契約形態は「業務委託契約」ではないでしょうか。

ただ、実はこの「業務委託契約」は法的には非常に厄介な契約です。

例えば、その契約の法的性質は「請負」or「準委任」なのか…この違いが、印紙税の課税、成果物の瑕疵対応、契約終了時の報酬精算といった、実務上重大なリスクに直結します。

特に、

・システム開発の上流工程(要件定義や設計)を担う事業者

・システム保守・運用など長期支援を行う事業者

・サイト運用代行を行うWEB制作事業者

・PM支援を担うITコンサルティング会社

などの皆様にとって、準委任契約に特有のリスク管理は避けて通れません。

 

本記事では、準委任契約の基本から、請負・派遣との法的な違い、印紙税、民法改正後の実務対応、そして契約書作成時の注意点まで、IT業界特有の委託実務を前提に弁護士が徹底解説しています。

ぜひこの機会に、自社の契約実務を再点検するきっかけとしてご活用ください。

1.準委任契約とは

(1)委任と準委任の異同

準委任契約については民法第656条に定めがあります。

一方、委任契約については民法第643条に定めがあるところ、両条文を比較すると、委託する事務内容につき、法律行為であるか否かによって区別されることが分かります。

ここで法律行為とは、例えば、受託者が委託者の代理人になることが典型例ですが、取引実務において、代理人を選任するような委任契約を締結することは少ないと思われます。

したがって、取引実務では準委任契約に該当すると考えておけば、まず間違いありません。

 

(2)請負及び派遣との相違点

(a)請負との相違

取引実務では、法的には準委任契約と分類される場合であっても準委任契約とタイトルを付けず、「業務委託契約」というタイトルと付けることが一般的です。ただ、業務委託契約には、法的に請負に分類される場合もあり、その区別を意識する必要があります。

簡単にまとめると、準委任と請負との民法上の相違は次のようになります。

 

結局のところ、上記表にある「契約の目的」欄記載の通り、準委任と請負の相違は仕事の完成義務があるのかで区別されることになります。

ただ、取引実務上、仕事の完成義務があるか否かの判断は難しい場合が多いので、契約書を作成するに際しては、仕事の完成義務の有無が明確に分かるように記述することがポイントになります(契約書のタイトルだけではなく、契約書の各条項・内容を意識する必要があります)。

 

(b)派遣との相違

自分以外の第三者に業務遂行を依頼するという点では、準委任も派遣も共通します。

しかし、準委任の場合、委託した業務については、あくまでも受託者の裁量により遂行するという点で受託者の独立性が重視される関係になるのに対し、派遣の場合、委託者が受託者(派遣労働者)に対し指揮命令権を行使できることから、受託者(派遣労働者)は従属的な立場になるという点で相違があります。

また、準委任契約を締結するに当たっては、原則として許認可等は不要となりますが、派遣契約の場合、派遣元(受託者)が労働者派遣業の許可を取得していない限り契約を締結できない(締結しても違法となる)という相違があります。

さらに、準委任契約の内容は、原則として当事者間で自由に定めることができますが、派遣契約の場合、労働者派遣法に従った契約内容にする必要があり、契約内容を自由に定めることができないという相違があります。

 

(3)印紙税

上記(2)で準委任と請負の法的な相違点を記述しましたが、取引実務で関心が高いのは印紙税の負担ではないかと考えられます。なぜなら、準委任契約と判断される場合は印紙税の負担なし(但し、継続的取引契約に該当する場合は第7号文書として印紙税の負担ありに注意)、請負と判断される場合は第2号文書として印紙税の負担ありとなるからです。

なお、印紙税の有無につき悩ましいのが、民法上は準委任契約と解釈する余地があっても、印紙税法上の解釈では請負契約に分類される場合があるという点です。すなわち、印紙税法上の請負契約は、民法上の請負契約より範囲が広いとイメージすればよいかもしれません。

次の記事をご参照ください。

 

(参考)

業務委託(委任、請負)契約を締結する際の印紙税のポイントを弁護士が解説!

 

(4)民法改正により意識する必要がある事項

2020年4月1日より改正民法が施行されたのですが、準委任契約についても一定の改正が行われています。そのポイントは次の3点となります。

 

(a)再委託の可否について

実は2020年3月31日以前に適用されていた民法では、準委任契約において、受託者が再委託可能か否かについては明文の定めが設けられていませんでした(解釈論として再委託は原則不可と考えられていました)。

しかし、改正民法では次のように明文化されました。

第644条の2

1 受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。

2 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。

 

契約書を作成する上で意識したい事項としては、「やむを得ない事由がある」場合、再委託可能という点です。

もちろん、何をもって「やむを得ない事由がある」と判断されるのかはケースバイケースとはなりますが、委託者としては、委託者の知らないところで再委託されるリスクが生じてしまいます。

したがって、再委託を禁止するのであれば、再委託を禁止する旨契約書に定めておくことがポイントとなります。

 

(b)報酬の支払方法と契約の途中解消時の清算処理について

準委任型の業務委託契約を締結する場合、取引実務では報酬の支払い方法につき、業務の遂行に応じて支払う場合もあれば、業務の成果に応じて支払う場合もあります。しかし、2020年3月31日以前の民法では、報酬の支払い方法につき、上記のような区分が設けられていませんでした。

そこで、2020年4月1日より施行された改正民法では、次のような区分を定めました。

・履行割合型…事務処理をした時間又は量に応じて従量的に支払う方法

・成果完成型…成果報酬的に支払う方法

なお、成果完成型準委任契約の場合、請負契約と類似することになりますが、成果完成型準委任契約の場合、仕事の完成義務がない点で請負契約と異なること、上記(2)で記述した通りです。

 

さて、報酬の支払い方法につき、上記のような2区分が定められたことで、一番影響が出るのが、何らかの理由で準委任契約が途中で終了した場合の報酬請求の可否です。

この点、改正民法では次のような定めを設けました。

第648条

(第1項及び第2項は省略)

3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。

①委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。

②委任が履行の中途で終了したとき。

 

第648条の2

1 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。

2 第634条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。

 

やや読みづらい条文なのですが、準委任契約が途中終了した原因に応じて簡単に整理すると次のようになります。

【履行割合型準委任契約の場合】

・当事者双方に帰責事由なし⇒履行割合に応じて報酬請求可(第648条第3項)

・受託者の帰責事由あり⇒履行割合に応じて報酬請求可(第648条第3項)

・委託者の帰責事由あり⇒報酬全額から負担を免れた経費等を控除した額(第536条第2項)

 

【成果完成型準委任契約の場合】

・当事者双方に帰責事由なし⇒報酬請求は原則不可(第648条の2第1項)、例外については※参照

・受託者の帰責事由あり⇒報酬請求は原則不可(第648条の2第1項)、例外については※参照

・委託者の帰責事由あり⇒報酬全額から負担を免れた経費等を控除した額(第536条第2項)

(※)受託者による業務の成果が可分であり、かつ成果の給付によって委託者が利益を受ける場合は、委託者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することが可能(第634条)。

 

契約書を作成する上で意識したい事項としては、「履行割合型」であれば、履行割合をどのように算出するのか基準を明確にすること、「成果完成型」であれば、例外的に報酬請求が可能となる場面を明確にすること、がポイントとなります。

これまで以上に、準委任契約が途中終了した場合の報酬清算方法につき、特約を定める必要性が高くなると考えられます。

 

(c)委任契約の解除

委任契約の解除については、2020年3月31日以前に適用されていた民法でも規定はあったのですが、裁判所の解釈が二転三転した影響もあり、はっきりしない状況でした。そこで、2020年4月1日より施行された改正民法では、裁判所の解釈の到達点を明確にする趣旨で次のように定められました。

第651条

1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

①相手方に不利な時期に委任を解除したとき。

②委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

 

要は、相手の帰責の有無を問わず、委託者と受託者は委任契約をいつでも解除(中途解約)することが可能であることが明確となりました。ちなみに、解除(中途解約)した後の報酬の清算については、上記(1)(4)(b)で記述した通りです。

また、委任契約を解除(中途解約)したことで、相手当事者に損害が発生した場合は損害賠償責任を負う点についても原則化されました。なお、報酬の清算方法は上記(1)(4)(b)で検討される以上、ここでいう「損害」には報酬は含まれません。

 

契約書を作成する上で意識したい事項としては、事由の如何を問わず中途解約が可能というのが民法上のルールである以上、中途解約を禁止したいのであればその旨契約書に明記することが重要となります。

また、中途解約によって生じる損害については算定が難しいことが予想されます。中途解約を認めるのであれば、違約金規定を設けるなどして損害の清算方法を明確化することが望ましいと言えます。

 

2.「準委任契約」を前提にした業務委託契約書を作成する上での留意点

業務委託契約とタイトルが付くもののうち、法的には準委任契約に分類される契約について、準委任契約特有となる条項についてサンプルを提示し検討します。

なお、準委任は事務の委託と定義され、その事務内容に制限はありません。この結果、ありとあらゆる事務(業務)が含まれ、一口で準委任契約と言っても様々なタイプが存在します。したがって、以下で示すサンプルは、全てのタイプの準委任契約に該当するものではないことにご注意ください。

 

(1)業務の内容

委託者が受託者に委託する業務は、次に定める業務の全部または一部とする。

(1)システム企画支援業務

(2)システム運用準備支援業務、システム運用支援業務

(3)その他委託者が指定する業務

 

委託する業務内容・受託する業務内容をできる限り具体的に特定して明記することの重要性は改めて指摘するまでもないかと思います。

ここで注意するべき事項としては、業務内容の特定の際、請負と誤解されるような記述を行わないという点です。例えば、具体的業務内容としてシステム制作業務と記述した場合、システム(仕事)を完成させることが契約の目的と考えるのが一般的です。この場合、(個々の業務を区分できる場合)システム制作業務は請負契約として処理されることになります。

 

ちなみに、ややこしいことを指摘すると、上記サンプル条項の場合、民法上は準委任契約と認識することが多いと思われます。しかし、印紙税法との関係では、例えばシステム企画支援業務であれば、企画書を提出するのであれば成果物があるので2号文書(請負)として取り扱うという考え方を取ります。

この点は注意が必要です。

 

(2)業務の実施

受託者は、本件業務を委託者の指示に従い、善良な管理者の注意をもって行い、委託者の信用を傷つける行為その他不信用な行為を一切行わない。

 

当然のことを記述していると言われればそれまでなのですが、この善管注意義務は取引実務では非常に厄介な概念となります。なぜなら抽象的過ぎて、善管注意義務の範囲を一義的に解釈することが困難だからです。

理論上は、上記(1)で記述した業務内容(=委任の本旨)と関連付けで解釈されることになります。善管注意義務の内容を具体化させるためには、業務内容の特定方法が重要となることに注意が必要です。

なお、何らかの理由で業務内容の特定が難しい場合、例えば逆転の発想で、除外される業務を個別列記するといった対策を講じることも有用です。

 

(3)報告

受託者は自らの責に帰さない事由または正当な事由により、本件業務の遂行を期限内に完了できないことが判明した場合、直ちに受託者にその事由を付して通知し、委託者の指示に従わなければならない。また、受託者は、正当な事由なく委託者の承認を受けずに本件業務を中止することはできない。

 

上記サンプルでは、受託者が、委託者より求めがない場合であっても報告するよう義務付けているという点がポイントとなります。

ところで、民法は準委任契約について報告義務を課しているのではないかと疑義を持たれるかもしれません。しかし、民法第645条は、「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。」と定めるにすぎません。すなわち、委託者が報告を求めていないのであれば、受託者は積極的に報告する必要はないということになります(もちろん、委任者にとって不利益な事態が生じた場合は、善管注意義務の一履行形態として報告義務があると解釈することは可能ですが、しょせんは解釈論に過ぎません)。

民法の定め方を踏まえると、委託者が報告を求めない場合であっても、一定の条件を満たした場合は受託者に報告義務を課すというのが、契約書を作成する上でポイントとなります。本件では業務遂行が期間内に完了しない場合を定めましたが、他にも一定期間orフェーズごとで報告を行うといった定め方も想定されるところです。

取引内容に応じた報告義務をどこまで明記するのか、検討が必要となります。

 

(4)再委託

受託者は、事前に書面による委託者の承諾を得ない限り、本件業務の全部または一部を第三者に再委託できない。

 

このサンプルは、上記1.(4)(a)で記述した、民法では「やむを得ない事由がある」場合は再委託可能とされていることへの対処法となる条項となります。

もちろん、再委託については一切禁止する旨定めることでも問題ありません。

 

また、逆に、再委託を行うことが前提となる業務であれば、受託者の裁量により再委託可能である旨定めることも考えられます。ただ、この場合、委託者としては、再委託先による履行は受託者の履行と同一視すること、再委託先の不履行は受託者の不履行とみなすこと、再委託によって受託者の責任が減免されるわけではないこと、委託者が希望する場合は再委託先の情報を開示すること、といった条項を設けることを検討したほうが良いかもしれません。

 

(5)業務委託料の支払い

1.委託者から受託者に支払われる業務委託料は、月額×円とする。

2.委託者は、当月分の業務委託料を、翌月10日までに次の銀行口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は、委託者の負担とする。

 

上記1.(4)(b)で記述した通り、改正民法による影響が生じる条項となります。

サンプルは、定額制と呼ばれる報酬体系を記載していますが、他にもタイムチャージ制、歩合制、着手金・(中間金)・報酬金制、段階・工程等に応じた支払制、完全成功報酬制など様々な報酬体系があります。

重要なのは、これらの報酬体系が、「履行割合型」と「成果完成型」のどちらに該当するのか、該当する類型に応じた清算ルールにつき民法の規定と同様にしてよいのか(特約を定める必要はないか)という視点です。一般的には、定額制、タイムチャージ制、段階・工程等に応じた支払制は履行割合型になじみやすく、歩合制及び完全成功報酬制は成果完成型になじみやすいと考えられます。なお、着手金・(中間金)・報酬金制は具体的な制度設計によって、分類が決まるものと考えられます。

なお、清算ルールについては、後述(8)で触れます。

 

次に、業務委託料の支払い時期ですが、2024年施行予定のフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)を念頭に置いた場合、業務完了(納品)から60日以内という支払いサイトにする必要があります。例えば、“翌月末締め翌々月×日支払い”の場合、60日を超過する可能性がありますので注意が必要です。

 

ところで、業務委託料の支払いに関連して、受託者が業務遂行に要した費用についても、必要に応じて契約書に明記したほうが良いと考えられます。

なぜなら、民法第649条及び第650条は、次のように定められているからです。

 

【民法第649条】

委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。

 

【民法第650条】

1 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。

 

おそらく取引実務では、業務遂行に要する費用は原則自己負担、例外的に合意があれば、受託者は委託者に請求可という認識で対処していると思われますが、民法上のルールは必ずしも取引実務と合致したものとは言えません。

したがって、委託者の立場とすれば、「民法第649条及び民法第650条は適用しない」、「業務遂行に要する費用は各自負担」といった条項を契約書に定めておいた方が安全かもしれません。

 

(6)不可抗力免責

委託者及び受託者は、天災、地変、戦争、暴動、その他の不可抗力による本契約の履行遅延、履行不能、その他一切の責任を負わない。

 

一般的に見かける条項なのですが、準委任契約の場合、少し留意する必要があります。

なぜなら、民法第650条で次のような定めがあるからです。

 

【民法第650条】

(1項、2項省略)

  1. 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。

 

サンプルのような不可抗力免責条項がない場合、受託者に帰責事由がない場合、たとえ不可抗力であったとしても委託者は受託者に対して損害賠償責任を負担することになります。少なくとも委託者における取引実務感覚からは、民法第650条第3項の規定はズレる内容と思われますので、契約書では何らかの手当をしておきたいところです。

 

(7)中途解約

委託者は、1ヶ月前の書面による通知により、いつでも本契約を解除することができる。

 

上記1.(4)(c)で触れた内容と関連する条項となります。

サンプルでは、委託者による中途解約につき一定の条件(1ヶ月前予告、書面通知)を明記した内容となっていますが、損害賠償については特に触れていません。委託者として、損害賠償責任を負いたくないのであれば、その旨明記する必要があります(なお、サンプルでは(7)では明記せず、後述(8)で触れています)。

一方、サンプルでは、受託者については何も定めていません。この場合、受託者はいつでも中途解約可能というのが民法上のルールとなります。受託者からの中途解約を防止したいというのであれば、中途解約を禁止する等の対策が必要であること注意が必要です。

 

なお、2024年施行予定のフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)を意識した場合、委託者が中途解約する場合、30日以上の予告期間を設ける必要があることも押さえておくべきです。

 

(8)契約終了後の清算

1. 事由の如何を問わず、受託者において本契約の履行が不能となったとき又は本契約が途中で終了したとき、受託者は委託者に対し、次に定める内容にて業務委託料の清算を行う。

(1)受託者は本件業務の成果に関する報告書を作成し、委託者に提出する。委託者において、当該報告書を検証し、委託者において当該成果のみで転用可能と判断した場合、当該成果が属する業務内容に対応する業務委託料全額を精算金として支払う。

(2)前号に定める報告書を検証し、委託者において当該成果のみで転用不可と判断した場合、当該成果が属する業務内容に対応する業務委託料の30%を上限として、委託者受託者協議の上定める。

2. 受託者は前項に定める以外に、本契約が途中で終了したことを理由とした一切の請求を行うことができない。

 

2.(5)「業務委託料の支払い」で触れた通り、中途解約となった場合の業務委託料の清算ルールを定めた条項となります。サンプルでは、履行割合型か成果完成型といった民法のルールを適用せず、独自の清算ルールを定めています。

なお、サンプルの第2項は、2.(7)「中途解約」で触れた、委託者の損害賠償責任を免責することを定めた内容となります。

いずれも委託者有利の内容となっていますが、取引実情に応じて修正する必要があります。

 

3.準委任契約のメリット・デメリット

契約書で別途規定がある場合はともかく、民法上に定められている内容を踏まえてメリット及びデメリットを考えた場合、次のように整理できます。

(1)委託者側

【メリット】

準委任契約を継続する必要性が無くなった場合、いつでも解除することが可能という点があげられます(民法第651条第1項)。

また、受託者に対して業務遂行に対する報告を求めることができる点もあげられます(民法第645条。なお、請負では受託者の報告義務が民法上定められていません)。

さらに、業務遂行につき、再委託を原則禁止できる点もあげることができます(民法第644条の2)。

【デメリット】

デメリットとしては、請負と異なり受託者は仕事の完成義務を負わないため、業務遂行さえすれば報酬支払い義務が発生するという点があげられます(民法第648条第2項。なお、善管注意義務に違反した業務遂行であれば支払い義務は生じません。ただ、善管注意義務と仕事完成義務は別概念であることに注意を要します)。

また、業務遂行による成果に不具合が見つかったとしても、契約不適合責任を追及することが困難という点もあげられます(条文上は、準委任であっても契約不適合責任が排除されているわけではありませんが、解釈上は難しいと考えられます)。

 

(2)受託者側

【メリット】

委託者側と同じく、準委任契約を継続する必要性が無くなった場合、いつでも解除することが可能という点があげられます(民法第651条第1項)。

また、仕事の完成を問わず、業務遂行さえすれば報酬支払い義務が発生する点があげられます(民法第648条第2項。ただし、善管注意義務に違反している場合は不可)。

さらに、中途解約時の報酬請求が、請負の場合よりも認められやすいという点もあげることができます(民法第648条第3項。なお、請負は仕事の完成が報酬請求権発生の要件となっています)。

【デメリット】

報告義務が課せられること及び再委託が制限される点で、請負と比較すると業務遂行方法に制約があることがあげられます。

また、委託者側より中途解約された場合、将来分の報酬請求を行うことが困難という点もあげることができます(民法第651条第2項)。

 

4.トラブルを防ぐための注意点

準委任契約は、多種多様な取引をカバーできる非常に有用な契約類型ではあるものの、契約内容の不明確さや、当事者の法的理解不足によって、しばしばトラブルの火種となります。

以下では、実務で頻出する準委任契約に関するトラブル事例を紹介するとともに、その予防策を解説します。

 

(1)委託業務の成果をめぐるトラブル

【事例】

システム開発における要件定義フェーズを準委任契約で委託したところ、委託者側は「要件定義書」という成果物の提出を当然視していた。一方、受託者側は「成果物作成は義務ではなく、支援業務の一環にすぎない」と主張。納期を過ぎても要件定義書が提出されず、報酬支払の可否をめぐって紛争に発展した。

 

【法的評価】

準委任契約は、民法上「事務処理(業務遂行)」を目的とする契約であり、「成果物の完成」は求められません。したがって、成果物の提出が明確に契約書で定められていない限り、仕事の完成義務は発生しません。

 

【実務上の対応指針】

・契約書の「業務内容」として、成果物提出の有無・提出時期・完成義務の有無を明記すること

・成果物の有無によって請負契約に該当する可能性もあるため、契約類型と報酬形態(履行割合型/成果完成型)との整合性を取ること

 

(2)業務範囲の曖昧さによる追加対応要求

【事例】

ITコンサル会社が「準委任契約により業務支援を行う」との趣旨で契約したが、委託者は業務の中にシステム設計やプロトタイプ作成といった「完成」を伴う業務も含まれると誤認していた。結果として、業務範囲をめぐって対立が生じ、契約解消に至った。

 

【法的評価】

準委任契約においては、業務の範囲・内容が具体的に定められていない場合、義務の範囲を巡って認識齟齬が生じやすくなります。また、完成義務を含むと解釈された場合、請負契約と判断されるリスクがあります。

 

【実務上の対応指針】

・契約書の業務内容を抽象的表現で済ませず、業務の上限・下限・除外項目を明示すること

・仕様書、業務分掌表、成果物一覧などの別紙資料を添付し、認識のズレを防ぐこと

 

(3)中途解約後の報酬請求トラブル

【事例】

WEB制作支援業務を準委任契約で行っていたところ、委託者が業務内容に不満を抱き、一方的に契約を解除した。しかし、受託者側はすでに多数の作業工数を費やしており、履行割合に応じた報酬の支払を請求したところ、委託者は「成果が出ていない」として支払を拒否した。

 

【法的評価】

民法第648条第3項により、準委任契約が中途終了した場合でも、受託者は履行割合に応じて報酬を請求する権利があります。ただし、「成果完成型」契約であった場合、未完成の成果に対する報酬請求は制限される可能性があります(第648条の2)。

 

【実務上の対応指針】

・契約形態(履行割合型 or 成果完成型)を明確に区分すること

・中途解約時の報酬支払ルールや違約金の規定を明記しておくこと

 

(4)契約類型の誤認による労働者派遣法違反リスク

【事例】

IT企業が業務支援を目的に外部人材と準委任契約を締結し、クライアント先での常駐での作業を依頼した。ところが、受託者がクライアント担当者から日常的に業務指示を受けており、監督官庁より労働者派遣法違反を指摘され、ペナルティを受けた。

 

【法的評価】

準委任契約と労働者派遣契約の違いは、指揮命令権の所在と業務従属性の有無にあります。準委任契約においては、受託者が自らの裁量で業務を遂行すべきであり、委託者や第三者が日常的に指示を出す形態は、実質的に「偽装請負」や「違法派遣」に該当するおそれがあります。

 

【実務上の対応指針】

・契約書に受託者の裁量と独立性を明記し、委託者の指揮命令権が及ばないことを明示すること

・実際の業務運用においても、受託者がクライアントから直接指示を受けることがないよう運用ルールを明確化すること

 

(5)契約不適合責任の適用可否をめぐる紛争

【事例】

委託業務の中で作成された資料に多数の誤りが含まれており、委託者側は「成果物に契約不適合がある」と主張して損害賠償を請求した。しかし、受託者は「準委任契約であり、成果物完成義務も契約不適合責任も負っていない」と反論した。

 

【法的評価】

契約不適合責任(民法第562条以下)は、準委任契約に基づく成果物には直接適用されないと解釈されています。

 

【実務上の対応指針】

・成果物に不具合があった場合の対応(再提出・修正義務、損害賠償範囲)を契約条項として別途定めておくこと

・成果物の質を重視するのであれば、請負契約であることを明確にすること

 

(6)まとめ

準委任契約は、表面的には「柔軟な業務委託」として利用しやすい一方で、実務運用、法的構成、行政規制が複雑に絡み合う契約形態でもあります。

本稿で紹介したようなトラブル事例の多くは、「契約内容の不備」「契約類型の誤認」「実態と契約の乖離」に起因しています。

IT業界における業務委託の多様化が進む中で、

・契約形態と実態の整合性の確認

・契約条項の適法性と妥当性の検証

・フリーランス法など最新法規制への対応

といった観点から、弁護士による契約書レビューやリスク診断の活用が今後ますます重要になります。

 

5.弁護士に相談するメリット

 

準委任契約を巡るトラブルは、契約書の条文上の工夫や事前の法的確認によって防げるケースが少なくありません。

しかし、だからといって「契約書を交わしているから安心」「業務委託契約は柔軟だから細かい合意は不要」といった思い込みが、むしろリスクを高めている実態もあります。

特に、以下のような状況に心当たりがある事業者様は、法的リスクの顕在化に対して脆弱な可能性があるため注意が必要です。

・業務委託契約書を、テンプレートの使い回しで運用している

・「準委任」と「請負」の違いが、報酬支払、契約終了時の責任、印紙税にどう関係するか分からない

・再委託や中途解約、成果物の責任について、契約書に十分な定めがあるか不安

・クライアント先で常駐する業務があり、「偽装請負」と指摘されないか懸念している

・フリーランスへの発注が多く、フリーランス法(2024年11月1日施行)への対応が不十分

 

ところで、IT業界における準委任契約は、技術の進化と取引の多様化により、「契約書の形式」だけでは把握できない複雑な実態を抱えがちです。

例えば、次のような判断は、法的知識と実務経験を備えた弁護士でなければ見落とされる可能性があります。

検討事項 実務リスク 弁護士ができること
業務内容の定め方 請負と誤解されて契約不適合責任や印紙税が発生 契約目的と条文整備を一致させるサポート
成果物の有無 成果報酬を巡るトラブル 成果完成型/履行割合型の区別と精算条項の策定
再委託の条件 情報漏洩や責任不在 再委託の制限、通知義務、責任明記
業務場所・指揮命令 偽装請負・違法派遣とみなされる 実態に応じた契約構成と運用指導
報酬支払条件 フリーランス法違反 支払期限、発注書管理、事前交付義務の整備

 

弁護士への相談は、何かトラブルが起きてからではなく、「契約を交わす前」「新たな事業スキームを始める前」にこそ、最も効果を発揮します。

「今の契約書について、どこに問題があるか見てほしい」

「業務委託の形で新規事業を始めたいが、契約類型に不安がある」

「成果物が出ない場合、報酬を払わなくてよいのか?」

「下請に再委託したいが、許される条件は?」

こうした素朴な疑問にも、ITと契約法に通じた弁護士が丁寧にお答えします。

リスクの芽を摘むのは、契約書を交わす「その前」です。

まずは弁護士にご相談ください。貴社のビジネスの信頼と成長を、法務面から全力でサポートいたします。

 

 

6.当事務所でサポートできること

 

多くの弁護士が「業務委託契約書のチェック」「法的リスクの予防」を標榜しています。

しかし、IT業界の契約実務における本当の難しさは、単なる条文理解だけでは解決しません。例えば…

・成果物の定義が曖昧な要件定義支援

・システム常駐を含む業務の再委託、外注体制

・フリーランスとの継続的な契約関係

・納品の概念があいまいなクラウド、SaaSの提供形態

こうした複雑なIT業界特有の実務を、どこまで理解し契約書に落とし込むことができるのかが、弁護士による「契約書レビューの質」を大きく分けることになります。

 

この点、リーガルブレスD法律事務所は次の3つの特長を有します。

 

①ITの構造と現場を「分かっている」弁護士

リーガルブレスD法律事務所の代表弁護士である湯原伸一は、情報処理技術者資格を保有する数少ないIT系弁護士です。

単に法律を知っているだけでなく、ITエンジニアやSIerの業務プロセス、請負と準委任の使い分け、外注と再委託の現場的判断基準など、契約書では見えない実務レベルの構造を理解しています。

 

②「中小IT事業者の視点」で法務を設計できる

リーガルブレスD法律事務所は、特に中小規模のIT事業者(フリーランスを含む)へのサポートに注力しています。

大手志向の法務設計ではなく、現実的なコストと人員体制に即した実行可能な契約管理体制の構築支援が可能です。

社内で法務担当がいない、管理部門が法務まで手が回らないといった企業様にも、実行力あるリーガルサポートを提供してきた実績があります。

 

③契約書「だけ」で終わらせない、継続的な実務支援

リーガルブレスD法律事務所では、契約書の作成やレビューだけでなく、その後の運用相談やトラブル発生時の交渉、事業フェーズの変化に伴う契約見直しまで一貫してサポートします。

契約書だけ作って終わりではなく、「生きた契約実務」の継続支援を行っている点で、多くの顧問先から高い信頼を得ています。

 

上記のような特長を有するリーガルブレスD法律事務所では、次のようなサポートを行っています。

・準委任契約、請負契約、派遣契約のリスク分類と契約書の分離設計

・外注、再委託、多重下請構造における責任明確化

・ITコンサル業、SES事業における報酬体系と清算ルールの最適化

・中途解約、成果物未完成、契約不適合の交渉などの対応テンプレート整備

・フリーランス法など新法や改正法への実務対応支援

 

リーガルブレスD法律事務所は、事業成長を止めないためのリーガルパートナーとして、貴社を支えます。

まずは、お気軽にご相談ください。

 

 

【リーガルブレスD法律事務所が提供するサポート内容】

リーガルブレスD法律事務所では、ご依頼者様のニーズに合わせて、次のようなサービスをご提供しています。

 

■契約書レビュー・作成支援プラン

 

ご相談例

・業務委託契約書を準備したが、準委任/請負の区別が曖昧で不安

・再委託、成果物の扱い、報酬精算ルールを明確にしたい

・フリーランス法や印紙税への対応が心配

・顧客、発注先との紛争防止のため契約書の完成度を高めたい

 

サポート内容

・契約目的(準委任、請負、派遣)の適切な法的分類と条文設計

・成果物の有無、成果完成型/履行割合型の明確化

・中途解約条項、報酬精算条項、損害賠償条項の策定

・フリーランス法、偽装請負、印紙税等のリスク回避条項の提案

・貴社の実態、運用フローを踏まえた実務運用可能な契約案作成

 

主な対象者

・IT、Web、SES、コンサル等で準委任契約を利用する全事業者

・法務部がなく契約実務に不安がある中小IT事業者など

 

弁護士費用

・契約書作成: 8万円(税別)~

(※内容、分量、難易度等により個別見積)

・契約書レビュー、修正提案: 6万円(税別)~

(※内容、分量、難易度等により個別見積)

 

実施方法

・初回ヒアリング(オンライン可)

・契約書ドラフト作成/レビュー

・修正案提示、リスク解説、質疑応答

 

 

 

継続的契約管理・法務顧問プラン

 

ご相談例

・毎回の契約書チェックを弁護士に相談したい

・新規顧客、外注先との契約ごとに弁護士レビューが必要

・フリーランス法など今後の法改正対応も依頼したい

 

サポート内容

・契約書作成、レビュー

(※月額顧問料に応じてサポート範囲が異なります)

・継続的な契約運用相談、交渉支援

・法改正、判例変更への最新対応提案

・突発的なトラブル、紛争時の初動アドバイス

 

主な対象者

・法務専任担当のいない中小IT、SES、SIer事業者

・契約リスクを全般的に管理したい経営層、管理部門など

 

弁護士費用

月額顧問料3万円(税別)~

(※サポート範囲に応じて月額顧問料が異なります)

 

実施方法

・電話、メール、チャット、Zoom等で随時対応

・必要に応じて契約書レビュー、文案作成

 

 

 

トラブル発生時の交渉・紛争対応プラン

 

ご相談例

・成果物不備による報酬支払拒否トラブル

・中途解約後の報酬精算トラブル

・再委託、秘密保持違反に関する紛争

・偽装請負、派遣法違反の行政指導リスク

 

サポート内容

・契約内容、経緯の事実整理

・法的責任の分析、リスク説明

・相手方との交渉、示談交渉代理

・必要に応じた訴訟、調停代理

 

主な対象者

IT、Web業界における契約トラブル当事者など

 

弁護士費用

個別お見積り

 

実施方法

・オンライン/来所での面談協議

・証拠精査

・交渉戦略策定

・代理交渉、法的手続

 

 

 

■スポット(単発)法律相談プラン

 

ご相談例

・自社契約が準委任契約か請負契約か、個別の案件で判断してほしい

・契約書の中のある一条項だけ妥当か検討してほしい

・トラブルが起きたわけではないが、事前に法的リスクを確認したい

・契約書チェックまでは不要だが、法的な考え方、注意点を整理してほしい

 

サポート内容

・事案の背景ヒアリング、法的論点整理

・相談者の疑問、懸念事項に対する法的アドバイス

・契約類型の区別、リスク有無の判断指針提示

・簡易的な条文修正アドバイス

(※契約書レビューには含まれません)

 

主な対象者

・IT業界において準委任契約を利用する事業者全般

・法務部門のない中小企業、フリーランス、経営者

・継続顧問契約までは必要ないがスポットで専門家の意見を聞きたい方など

 

弁護士費用

1回90分以内で15,000円(税別)

 

実施方法

オンライン/来所 いずれも対応可

 

 

 

 

<2023年6月執筆、2025年5月加筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。