利用規約における禁止事項の内容及び設定方法のポイントとは

【ご相談内容】

当社では、新たなプラットフォームを展開しようと計画しているのですが、人的リソースの関係もあり、極力ユーザとトラブルが発生しないような利用規約を作成したいと考えています。

どのような内容の利用規約を作成すればよいのか、教えてください。

 

【回答】

ユーザとのトラブルを100%回避することは、残念ながら難しいと言わざるを得ません。

しかし、ユーザに対し、サービス提供事業者として「××されては困る」ということを事前に明示しておけば、一般的なユーザは明示された事項に該当するようなことは行ってきません。また仮に行ってきたとしても、明示された事項に違反したことを理由として、サービス提供事業者が必要な処分を行えば事足ります。

では、「××されては困る」ということをどのように明示するのかですが、利用規約に禁止事項として定めることが有用です。そして、その利用規約についてユーザより同意を得ることで(又は民法の定型約款の定めに従って対処することで)、ユーザは法的義務を負担する(禁止事項として定められている事項に違反してはならない)ことになります。その結果、サービス提供事業者は…

 

・ユーザとのトラブルを未然に防止できる

・不良ユーザに対応できる

・多数の顧客に対して安定的にサービスを提供できる

 

というメリットを享受することが可能となります。

本記事では、禁止事項の定め方・内容につき、解説を行います。

 

なお、禁止事項に違反した場合の制裁措置の方法等については、次の記事をご参照ください。

利用規約の違反に対する対応方法とは?制裁に際してのポイントを弁護士が解説

 

 

【解説】

1.禁止事項の内容

上記【回答】で記述した通り、ユーザとのトラブルを未然に防止するためには、禁止事項を利用規約に明記し、周知を図る必要があります。

では、具体的にどのような禁止事項を定めればよいのかが問題となるのですが、これはサービス内容によって異なります。ここではサービス内容を問わず、共通して定められることが多い事項をあげておきます。

 

(1)法令順守を目的とした禁止条項

(例1)当社もしくは他者が所有もしくは占有する財産を侵害し、または侵害する恐れのある行為

(例2)当社もしくは他者の著作権、商標権等の知的財産権を侵害し、または侵害する恐れのある行為

(例3)他者のプライバシーもしくは肖像権を侵害し、または侵害する恐れのある行為

(例4)反社会的勢力を名乗って不当要求行為をするなどの公の秩序又は善良の風俗に違反する行為

(例5)法令、裁判所の判決、決定若しくは命令、又は法令上拘束力のある行政措置に違反する行為

 

法律に違反する行為をユーザが禁止されることは当然であり、あえて定める必要性はないと考えるかもしれません。しかし、ユーザがあらゆる法律に精通していることはまずあり得ません。ユーザの言い逃れ(そんな法律なんて知らない等の方便)を防止するためにも、代表的な法律違反行為を例示列挙しておくことは有用といえます。

なお、(例4)は簡易なものとなりますが、コンプライアンス重視の観点から、反社会的勢力に該当しないことを要求する表明保証条項(いわゆる反社条項)などをあえて独立条項として定めることも一案です。

 

(2)ユーザ保護を目的とした禁止条項

(例1)ウェブサイトに虚偽の情報を入力するなど、当社に対して虚偽または誤解を生じさせる情報を申告する行為

(例2)第三者のユーザID(アカウント)を利用する行為

(例3)ユーザID(アカウント)を第三者に譲渡または貸与等する行為

(例4)第三者になりすまして本サービスを利用する行為

(例5)複数のユーザID(アカウント)の付与を受ける行為、その他これらに類する行為

 

サービス提供事業者はユーザに対し、プラットフォームを安全快適に利用できるよう措置を講じる義務があります。また、ユーザが安全快適に利用できないようなプラットフォームは、いずれ市場から排除されることになります。

このような観点から、上記のような禁止行為を定めておくことは非常に有益であり、どのようなサービスであっても必ず定めておきたい事項となります。

なお、上記例には記載しませんでしたが、その他にも

 

・本人の同意を得ることなく、または詐欺的な手段により他者の個人情報を収集する行為

・不正アクセスを実施し、または試みる行為(※後述(3)と重複あり)

 

といった事項を定めることも有用です。

 

(3)サービス安全性確保を目的とした禁止条項

(例1)当社が提供するサービスの解析、逆コンパイル、逆アセンブル、リバースエンジニアリングする行為

(例2)コンピューター・ウィルスその他の有害なコンピュータ・プログラムを含む情報を送信する行為

(例3)本サービス用設備(当社が本サービスを提供するために用意する通信設備、通信回線、電子計算機、その他の機器およびソフトウェアをいう)に格納された情報を改ざんし、または消去する行為

(例4)他者の設備または本サービス用設備に不正にアクセスし、またはその利用もしくは運営に支障を与える行為

(例5)当社が実施するアクセス制御、プロテクト(技術的保護手段)を回避し、または回避しようとする行為

 

当たり前のことですが、プラットフォームが欠陥だらけで安心して利用できないというのであれば、ユーザは当該プラットフォームを利用することはありません。このような安全面が危惧されるといった理由でユーザが離脱しないよう、サービス提供事業者は、プラットフォームの安全性を確保するべくできる限りの技術的措置を講じているのですが、100%安全性を確保することは難しいというのも事実です。

したがって、サービス提供事業者はユーザに対し、サービス提供の妨害につながるような行為についてはすべて禁止するという観点で、たくさんの内容を盛り込もうとするのが通常です。

上記で記載した例示条項以外にも、例えば

 

・本サービスの不具合や障害を不正な目的で利用する行為、またはそれを他者へ伝達する行為

・当社が定める一定のデータ容量以上のデータを本サービスを通じて送信する行為

・当社による本サービスの運営を妨害する恐れのある行為

 

などの条項が定められることが多いようです。

 

(4)不適切行為防止を目的とした禁止条項

(例1)当社が提供するサービスに付随する新たな第三者サービスを提供する行為

(例2)他者に対し、当社に無断で当社以外の商品等を宣伝広告・勧誘等する行為

(例3)宗教活動、その他特定の団体への勧誘行為

(例4)反社会的勢力に対する利益供与その他の協力行為

(例5)一度に大量の注文を行う行為、その他転売を目的とした商品の購入行為

 

(4)のタイトルだけを見ると、上記(2)(3)を包含するような内容となるのですが、ここでは、決定的に他のユーザに不利益を及ぼすものではない、また決定的にサービスの安全性に支障を来すものではないものの、他のユーザにとっては不愉快であり、サービス提供事業者にとってはサービス提供の趣旨から外れていて困惑するといったものを記述しています。

上記例以外にも、例えば、

・異性との交際を希望する書き込みその他本サービスを出会い系サイトとして用いる目的または態様と当社が認める行為

を明確に禁止事項として定めることもあるようです。

なお、この部分については、提供するサービス内容に応じて様々な条項例が想定されるところであり、利用規約への明文化に際しては、サービス提供事業者の発想力が問われるといっても過言ではありません。

 

(5)不当表現防止を目的とした禁止条項

(例1)当社もしくは他者を誹謗中傷し、または名誉を傷つけるような行為

(例2)選挙の事前運動、選挙運動またはこれらに類似する行為および公職選挙法に抵触する行為

(例3)わいせつ、児童ポルノまたは児童虐待に相当する画像、残虐な画像、文書等を送信または表示する行為

(例4)人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地等による差別につながる行為

(例5)本人もしくは第三者の個人が特定しうる情報を送信または表示する行為

 

サービス提供事業者が提供するサービス内容によっては、ここまで定めなくてもよい場合もありますが、ユーザがプラットフォーム上で何らかのメッセージを発信できる機能を実装している場合、ユーザによる不適切投稿を防止する観点から、このような条項を定めておくことは必須となります。

なお、どのような表現行為をNGと考えるのかはサービス提供者の考え方次第となりますが、NGと考える表現行為を逐一規定するは現実的ではないことから、特に禁止したいNG表現をいくつか定めた上で、最後に

 

・その他反社会的内容を含み、他人に不快感を与える行為

 

といった表現行為に関する包括(バスケット)条項を定めておくのも一案と思われます。

 

(6)その他の禁止条項

(例1)その他当社が不適当と判断する行為

(例2)ユーザの意図を実現するための手段として、社会通念上相当な範囲を超えた当社に対する要求行為(例えば、威迫・脅迫・威嚇する行為、侮辱や人格を否定する言動、繰り返しの同一要求による長時間の拘束行為を含むが、これらに限らない)

 

上記(1)から(5)までで、典型的な禁止条項について解説を行いました。

禁止条項のポイントは、個別具体的に定めることでユーザに容易に理解してもらうようにすること、明確かつ一義的に定めることでユーザ都合の解釈論争に持ち込ませないこと、網羅的に定めることで取りこぼしを防止すること、が重要となります。

ただ、社会常識・考え方は急激に変化する世の中ですので、全ての禁止事項を漏れなく定めることはおよそ不可能です。

したがって、(例1)で示したような包括条項(バスケット条項)を定めておくことは必須といえます。

なお、このような包括条項(バスケット条項)については、抽象的過ぎて義務の特定が不十分である、あるいはサービス提供事業者の裁量が大きすぎてユーザに著しく不利益であるといった批判もあり、実際のところ法的有効性に疑義を挟まれる場合もあります。

しかし、ユーザから禁止事項に当たらないという反論があった場合、サービス提供事業者が唯一拠り所にできる条項がこの包括条項(バスケット条項)である以上、必ず定めておくべきといえます。特に最近の傾向として、「禁止事項として明文化されていない場合は何をしてもよい」と自己都合解釈するユーザが一定数存在します。サービス提供事業者としてもユーザと対峙するに当たり、何らかの根拠を有しておいた方が望ましいと言えます。

とはいえ、上記のような疑義を考慮した場合、(例1)について、例えば次のような修正を行うことも検討に値すると考えられます。

 

・その他当社が合理的根拠に基づき、不適当と合理的に判断する行為(例えば、××や××などが該当しますが、これらに限られるものではありません)。

・当社は、第×条第×号(包括的な禁止条項を引用)に違反することを理由としてユーザに措置を講じる場合、事前にその理由の要約を告知します。ユーザは異議がある場合、1度に限り、当社所定の方法にて意見を述べることができ、当該措置を再考するよう要請することができます。(禁止事項に付加する別条項としての位置づけ)

 

ところで、(例2)は最近問題視されているカスタマーハラスメントを禁止する条項の一例となります。ただ、このカスタマーハラスメントも法令用語ではなく、明確な定義が無い状態です。このため、何をもってカスタマーハラスメントに該当するのか予見することが難しく、上記(例1)と同じく包括条項(バスケット条項)類似の問題があります。

そこで、(例2)では、カスタマーハラスメントの定義の曖昧性を少しでも排除するべく、具体例を併記する形にしています。

2.法令による制限

どのような禁止事項を定めるべきかについては、上記1.で解説した通りです。

ところで、サービス提供事業者としては、ユーザに変な行動をとられたくない、ユーザを簡単に取り締まりたい、自らにとって都合のよいサービス運営にしたい等々の理由で、一方的な禁止条項を定めがちです。

そして、形式論としては、そのような一方的な禁止条項を定めても、ユーザより同意を取得さえすれば、当該禁止条項は契約内容として取り込まれ、ユーザは従う義務が生じるというのが原則的な考え方となります。ただ、物事には一定の限界があるのも事実であり、たとえユーザの同意を取得していたとしても、法律が強制的に当該禁止条項を無効扱いにする場合があります。

ここで気を付けなければならない法律が“消費者契約法”と“民法の定型約款に関する規制”です。

 

(1)消費者契約法

消費者契約法で注意を要するのは次の条文です。

 

第10条

(前段省略)…法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

 

非常に抽象的な内容であり、どのような条項を定めた場合に消費者契約法第10条に基づき無効となるのか一律に判断することができません。

このため、具体的な検討は弁護士に相談してほしいのですが、例えば、上記1.(6)の(例1)で示した包括条項(バスケット条項)は、無効と判断される可能性があると考えられます(無効と判断されることを防止するために、合理的根拠や合理的判断といったサービス提供事業者による裁量性を一定程度排除する文言を付加したり、例示をあげる等の対策を講じることが望ましいこと、上記1.(6)で解説した通りです)。

 

(2)民法の定型約款

上記(1)で記載した消費者契約法は、ユーザが消費者の場合に適用される法律です。

このため、ユーザが非消費者(事業者)のみの場合、消費者契約法を意識する必要がない、したがって、禁止条項を自由に定めることが可能と考える方もいるかもしれませんが、誤りです。なぜなら、民法で次のような条文が置かれているからです。

 

民法第548条の2第2項

(前段省略)…相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

 

消費者契約法第10条と類似する内容が定められているところ、民法は消費者・事業者を問わず適用されます。

したがって、先述の包括条項(バスケット条項)については、やはり法的効力がない(民法の場合、無効ではなく合意がないという取扱いになります)と判断されるリスクは残るものと考えられます。

 

3.当事務所でサポートできること

WEB等で不特定多数向けにサービスを提供する事業者にとって、適切な禁止事項を定めておくことは、円滑なサービス運営を行う上で必要不可欠であると言っても過言ではありません。

ただ、やみくもに禁止事項を定めればいいという訳ではありません。

よくある事例として、他者の利用規約を参照(コピペ)するというものがあるのですが、いくら類似するサービスを提供している他者の利用規約とはいえ、自らのサービス内容を必要かつ十分に網羅した禁止事項を定めている保証はどこにもありません。また、法的な正確性を担保できているわけではありません。

サービス提供事業者において使い勝手が良く、かつユーザへの説得性も確保できる禁止事項を定めるのであれば、利用規約の作成・チェックはもちろん、運用面でも多数の相談実績がある当事務所にご依頼ください。

 

<2022年12月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。