メタバースをビジネス・事業で活用する上で知っておくべき著作権の問題
【ご相談内容】
当社では、メタバース内で事業活動の宣伝広告やバーチャル店舗の設置を検討しています。
できる限り現実の世界を忠実に再現し、利用客にリアルに近い体験をしてもらおうと考えているのですが、どういった法律上の問題を考えておけばよいのか教えてください。
【回答】
2000年代に一時的に流行した「Second Life」の再来かのように、近時メタバースが注目を集めています。とはいえ、今後どこまでメタバースを含むデジタル空間内の経済活動が活発化するのかは未知数であり、ビジネス上のリスクは避けて通れないのが実情です。また、メタバースそれ自体を包括的に適用する法律が存在せず、現行法をパッチワークのように当てて適用法令を検討する複雑性に起因したリーガルリスクも潜んでいます。
本記事では、リーガルリスクを少しで減らすべく、メタバースと著作権の関係に絞って解説を行います。
本記事を読むことで、メタバースを含むデジタル空間内で事業活動を行うに際し、著作権法のポイントを理解することができるかと思います。
【解説】
1.メタバースと法律
(1)メタバースとは
メタバース(meta-verse)とは、Meta(超える)とUniverse(宇宙)を掛け合わせた造語とされています。このためか、世間一般において、統一的な定義が設けられているわけではないようです。
ちなみに、経済産業省が公表した「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」報告書によれば、メタバースによるビジネス活用場面として、一つの仮想空間内において、様々な領域のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供されることが想定されるとしています。
そして、仮想空間について、多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間と定義した上で、ユーザはアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流することやゲーム内空間やバーチャル上でのイベント空間が対象となる、としています。
したがって、経済産業省の上記報告書を参照するのであれば、メタバースとは、
・多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間において、様々な領域のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供されうるもの
と定義づけることができると思われます。
さて、もともとメタバースは、ゲーム産業が中心に事業展開が行われてきました。
しかし、近時はメタバースそれ自体を1つの経済空間と考え、事業者がオフィスを設置したり、ショールーム等の店舗を出店したり、イベントを開催したりという事例が増加しています。
このためか、急激にメタバース内での事業活動が注目を浴びるようになっているのですが、その一方で様々なリーガルリスクが指摘されています。
(2)メタバースに関係する法律
本記事では、メタバースと著作権との関係にスポットを当てて解説しますが、メタバースに関係する法律(リーガルリスク)は著作権だけではありません。
次のような法律についても意識をする必要があります。
・不正競争防止法(商品形態模倣行為)
例えば、現実世界で特徴のある商品等の形状、模様、色彩等を模倣し、メタバース内のデジタルアイテムを生成(デジタルツイン)した場合、あるいはデジタル空間内で特徴のあるアイテムの形状、模様、色彩等を模倣し、メタバース内で当該アイテムを再現した場合、今後は不正競争防止法違反として民事上の制裁及び刑事上の処罰を受けることになります。
なお、「今後」と表現した理由ですが、本記事執筆時点(2023年11月)では、上記内容の改正法が施行されていないからです。とはいえ、遅くとも2024年6月までには施行されますので、今からでも意識したほうが良い内容となります。
改正内容のポイントについては、次の記事をご参照ください。
・不正競争防止法(周知表示混同惹起行為、著名表示冒用行為)
例えば、現実世界で商品等の形状、模様、色彩等自体が、営業表示として周知性や著名性を有する場合において、その商品等の形状、模様、色彩等をメタバース内にデジタルアイテムとして生成した場合、不正競争防止法違反として民事上の制裁及び刑事上の処罰を受けます。
なお、周知表示混同惹起行為及び著名表示冒用行為は、デジタル空間内でも違法であるとする法改正が施行済みであることに注意が必要です。
・意匠法
商品等の形状、模様、色彩等に関連する法律として不正競争防止法を挙げましたが、勘のいい人であれば意匠法が問題になってくるのではないかと思われるかもしれません。
しかし、本記事執筆時点(2023年11月)における現行法上、現実世界で商品等の形状、模様、色彩等について意匠登録を受けていたとしても、メタバースを含むデジタル空間内に存在するデジタルアイテムに対して意匠権侵害が成立することは困難と考えられています。
もっとも、当然のことながら、たとえ意匠権侵害が成立しなくても、不正競争防止法違反は成立し得ますので、他人の商品等の形状、模様、色彩等をデジタル空間内で再現することは危険な行為であることを認識するべきです。
・商標法
商標登録されているロゴやマークが、メタバースを含むデジタル空間内のデジタルアイテムに用いられている場合、商標権侵害となり得る場合があります(デジタル空間だから商標権の効力が及ばないということはありません)。
なお、商品等の形状が立体商標として登録されている場合、その形状をデジタル空間内に再現した場合も商標権侵害となり得ます。
・その他
メタバース内に生成されたアバターが特定の人物と結びつく場合、プライバシー権、名誉権、肖像権侵害の問題が生じるかもしれません。また、アバターが著名人と結びつく場合であれば、パブリシティー権侵害の問題も想定されるところです。
なお、アバターの動きが現実世界での実演家の動きと類似する場合は著作隣接権の問題が考えられますし、アバターが現実世界の歌手の歌唱をアレンジして再現した場合は著作者人格権の問題も有り得るかもしれません。
2.メタバースと著作権
(1)著作権とは
著作権が発生した場合、著作物を著作権者に無断でコピー(複写)することを禁止する、インターネットで利用するに際して、著作権者が定めた一定の条件に従わない限り許諾しないといったことが可能となります。その意味では、著作権は著作物を独占化する権利と言っても過言ではありません。
さて、この著作物ですが、著作権法第2条第1項第1号で「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。そして、この著作物の具体例として、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」(著作権法第10条第1項第4号)、「建築の著作物」(著作権法第10条第1項第5号)、「映画の著作物」(著作権法第10条第1項第7号)などが著作権法では定められています。
なお、著作物に関するポイントは次の3点です。
・創作的なものであること
他人の作品を模倣しただけでは、作者独自の思想感情を表したとはいえません。逆に偶々他人の作品と類似した場合であっても、他人の作品を模倣することなく作者がオリジナルで作り上げた作品である限り、著作権侵害は成立しないことになります。
・外部に表現したものであること
他人に話す、紙に描くなどの外部への表現行為が必要となります。頭の中で考えただけのアイデアが著作権法上の保護対象とならないのは、この要件を充足しないからです。
・文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
芸術性が求められるわけではありませんが、機械的・実用的な製品などは著作物に該当しないことになります。もっとも、プログラムは実用的なものですが著作物に該当します。
以下では、メタバース内に生成されたデジタルアイテムが著作権法上どのような取り扱いを受けるのか検討します。
(2)建築物の再現
上記(1)で記載した通り、著作権法は著作物の一例として「建築の著作物」を認めています。これは、建物それ自体の外観や建物内部(間取り、部屋、階段など)は著作物になり得るということです。
ただ、上記(1)でも記載した通り、著作物となるためには創作性や美術の範囲に属することが要件とされる以上、例えば、近辺に立ち並ぶ個人の住宅やマンション、オフィス街にあるビルなど、いわゆる没個性的な建築物は著作物には該当しません。
この点について、次のように述べる裁判例があります。
【知的財産高等裁判所令和3年12月8日判決】
ところで、著作権法2条1項1号は、「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいうと規定し、同法10条1項4号は、同法にいう著作物の例示として、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を規定しているところ、同法2条1項1号の「美術」の「範囲に属するもの」とは、美的鑑賞の対象となり得るものをいうと解される。そして、実用に供されることを目的とした作品であって、専ら美的鑑賞を目的とする純粋美術とはいえないものであっても、美的鑑賞の対象となり得るものは、応用美術として、「美術」の「範囲に属するもの」と解される。
次に、応用美術には、一品製作の美術工芸品と量産される量産品が含まれるところ、著作権法は、同法にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする(同法2条2項)と定めているが、美術工芸品以外の応用美術については特段の規定は存在しない。 上記同条1項1号の著作物の定義規定に鑑みれば、美的鑑賞の対象となり得るものであって、思想又は感情を創作的に表現したものであれば、美術の著作物に含まれると解するのが自然であるから、同条2項は、美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示した規定であると解される。他方で、応用美術のうち、美術工芸品以外の量産品について、美的鑑賞の対象となり得るというだけで一律に美術の著作物として保護されることになると、実用的な物品の機能を実現するために必要な形状等の構成についても著作権で保護されることになり、当該物品の形状等の利用を過度に制約し、将来の創作活動を阻害することになって、妥当でない。もっとも、このような物品の形状等であっても、視覚を通じて美感を起こさせるものについては、意匠として意匠法によって保護されることが否定されるものではない。 これらを踏まえると、応用美術のうち、美術工芸品以外のものであっても、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えている部分を把握できるものについては、当該部分を含む作品全体が美術の著作物として、保護され得ると解するのが相当である。 |
要は、東京スカイツリーや太陽の塔などの限られた建築物のみが「建築の著作物」として著作権法上の保護対象になるということになります。
このように考えた場合、例えば街並みをメタバース内で再現した場合、一般的な住宅街やオフィス街を再現しただけに過ぎないのであれば、建築の著作物を侵害したと指摘される可能性は低いと考えられます。
では、「建築の著作物」に該当する建築物がある場合、メタバース内に著作権者に無断で再現することはできないのでしょうか。
この点、著作権法には次のような規定があります。
【著作権法第46条】
美術の著作物でその原作品が前条第2項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
①彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合 ②建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合 ③前条第2項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合 ④専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合 |
「建築の著作物」に該当するとしても、著作権法第46条第2号に定める事項に該当しない限り、メタバース内で建築物を再現することが可能になります。
この点、著作権法第46条第2号は現実世界で建築物を建築することを念頭に置いた規定であるところ、建築物を公衆送信することは該当しないと考えられます。
したがって、「建築の著作物」に該当する場合であっても、著作権者に無断でメタバース内に再現することは問題ありません。
ただし、2点注意事項があります。
①「建築の著作物」の例として、東京スカイツリーや太陽の塔を挙げましたが、これらは同時に「美術の著作物」にも該当するとも考えられます。この場合、著作権法第46条第2号以外の要件に該当しないかを検討する必要があります(後述(3)を参照)。
②著作権法第46条は著作(財産)権を制限する規定に過ぎず、著作者人格権まで制限されるわけではありません。建築の著作物をデフォルメ(改変)させる場合、同一性保持権侵害の問題が発生しないか検討する必要があります。
(3)屋外設置物の再現
例えば、メタバース内で街並みを再現するにあたり、屋外に設置されている彫刻や銅像は「美術の著作物」に該当することが通常です。また、看板(デジタルサイネージを含む)についても、内容によっては「美術の著作物」に該当する可能性がありますし、アニメキャラクター等が描かれていた場合はそのキャラクター自体が「美術の著作物」となる場合も想定されます。
したがって、著作権者に無断でこれらをメタバース内に再現することはNGとなります。
もっとも、次のような例外規定に該当する場合は、無断で再現できることになります。
①著作権法第46条に該当する場合
条文は上記(2)で引用しています。
彫刻であれば、著作権法第46条第1号該当性が問題となりますが、現実に彫刻する場合を意味しますので、メタバース内での再現であれば該当しないと考えられます。
また、著作権法第46条第3号該当性については、メタバース内での再現は「屋外」ではない以上、該当しないと考えられます。
さらに、著作権法第46条第4号該当性についても、メタバース内で再現した彫刻や銅像等を模したデジタルアイテムを販売するのであればともかく、単にメタバース内で再現するに留まるのであれば、該当しないと考えられます。
上記のように考えると、屋外設置物をメタバース内に再現するのは何ら支障がないのではと考えるかもしれません。
しかし、著作権法第46条は大前提として“オリジナル作品(原作品)”が屋外の場所に恒常的に設置されている場合とされています。この点、彫刻や銅像であれば、屋外に設置されているのはレプリカの可能性があり、レプリカであれば著作権法第46条の適用はありません。また、アニメのキャラクターが描かれた看板等であれば、オリジナル作品が看板に描かれていることはまずあり得ませんので、やはり著作権法第46条の適用は通常考えられないことになります。
したがって、「美術の著作物」の場合、著作権法第46条の適用場面は思った以上に狭いことに注意を要します(少なくとも「建築の著作物」よりは適用場面が限定されます)。
②著作権法第30条の2に該当する場合
著作権法第30条の2では、彫刻や銅像、看板等が著作物に該当する場合であっても、「付随的著作物」に該当する限りは、著作権者に無断で利用してよいとする規定です。
【著作権法第30条の2】
1. 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たって、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴って、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2. 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴って、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。 |
条文が長く非常に読みづらい規定なのですが、メタバース内での街並み再現を例にした場合、街並みの再現グラフィックが主たるものであり、その一部を構成するアイテムとして彫刻や銅像、看板が付随して再現されているにすぎず、構成全体からみれば軽微と評価される場合、彫刻や銅像、看板等の著作権者に無断で利用することができる、という規定とイメージすれば理解しやすいかと思います。
この点、メタバースを含むデジタル空間の場合、例えば、彫刻や銅像を拡大(ズーム)して閲覧することができる機能などがついている場合、果たして「付随」「軽微」といえるのか、疑義が生じます。
結局のところ、メタバース内での再現の仕方に応じて、ケースバイケースでの判断になると考えられます。
③著作権法第30条の4に該当する場合
著作権法第30条の4では、情報解析など著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用であれば、著作権者に無断で著作物を利用してよい旨定めています。
【著作権法第30条の4】
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
①作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合 ②情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合 ③前2号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあっては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合 |
情報分析などの場合に限定されますので、例えば、メタバースを含むデジタル空間において、再現された街並みをユーザに閲覧させる目的で著作物を利用する場合、著作権法第30条の4には該当しません。
したがって、著作権法第30条の4が適用される場面は相当狭いものと考えられます。
(4)デジタルアイテム(スキン、オブジェクト等)
メタバース内にデジタルアイテムを再現する場合、①現実世界で流通している物品等を再現する場合、②メタバース内に既に存在する仮想アイテムと類似するものを再現する場合の2通りが考えられます。
この点、①現実世界で流通している物品等、例えば服飾品である場合、そもそも服飾品等が著作物であるのかを検討する必要があります。なぜなら、服飾品等は実用品であり、果たして美術の著作物に該当するのか疑義が生じるからです(判断基準については、上記2.(2)で引用した知的財産高等裁判所令和3年12月8日判決を参照してください)。
なお、著作物該当性が否定されたとしても、著作権侵害が成立しないだけであり、商標権侵害や不正競争防止法違反(商品形態模倣行為、周知表示混同惹起行為、著名表示冒用行為)の問題は別に検討する必要があります。
次に、②メタバース内に既に存在する仮想アイテムの場合も、やはりその仮想アイテムが著作物に該当するのかという点が重要となります。特に、仮想アイテムの場合、現実世界で流通している物品等のような実用性・機能性に関する議論は当てはまらないことから、著作物該当性は広いと考えられる点には注意を要します。なお、著作物性が否定されても、商標権や不正競争防止法の問題が生じることは同様です。
(5)アバター
アバターとは、デジタル空間におけるユーザの分身となるキャラクターや画像のことをいいます。
この点、メタバースを含むデジタル空間の運営者が顔(目、耳、鼻、口、眉毛、髪型、輪郭、色彩など)や体(身長、体格、服装など)の選択肢を用意し、ユーザがその中から選択し組み合わせてアバターを作成する場合、表現の選択幅は限定的となりますので、一般的には著作物に該当しないと考えられます。一方、VTuberのように制作ソフト等を用いて自由自在にキャラクターを作り出せる場合、著作物に該当する可能性は高まってくるものと考えられます。
なお、アバターをアニメのキャラクター等に類似させた場合、著作権侵害になる可能性が極めて高くなると思われます。一方、芸能人等に類似させた場合、著作権侵害とはなりませんが、パブリシティー権侵害が成立しうることに注意が必要です。
(6)仮想空間全体
上記(1)から(5)までは、メタバースを含むデジタル空間を構成する個々のアイテムについて検討を行いましたが、デジタル空間内に広がる仮想空間それ自体についても、著作物に該当するケースが考えられます。
ただ、これまでのような「美術の著作物」ではなく、「映画の著作物」と考える方が自然なのかもしれません。この場合、著作権の帰属については著作権法第16条の適用があり、制作した者が当然に著作権者となるわけではないことに注意を要します。
【著作権法第16条】
映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。 |
(7)メタバース内での活動
ここでいう「メタバース内での活動」とは、例えば、①メタバース内で演奏し、歌唱すること、②メタバース内で踊ること、③メタバース内での配信活動を行うこと、などを指します。
この点、①については、ユーザのオリジナル曲を演奏し、歌唱することであれば何ら問題ありません。しかし、現実世界で配信されている音楽を演奏し、歌唱することは著作権を侵害することになります。なお、非営利かつ無料であれば著作権侵害が成立しないとする著作権法第38条は、メタバースを含むデジタル空間内での公衆送信には適用が無いことに注意を要します。
次に、②については、ユーザがオリジナルで振り付けて、メタバース内で舞踊することは何ら問題ありません。しかし、現実世界で行われているダンスを、アバター等を通じて真似した場合、実演家の著作隣接権を侵害する可能性が生じます。
さらに、③については、メタバース内に配置される個々のデジタルアイテム等が著作物に該当する場合、これらを無断で公衆送信することになりますので著作権侵害が成立することになります。なお、個々のデジタルアイテムについては、上記2.(3)②で記載した「付随的著作物」に該当するのではないかといった点につき検討の余地はありますが、結局のところは配信内容によると言わざるを得ません。メタバースにおける利用規約において、配信の可否・方法につき、どのように定められているのかを確認するべきです。
3.当事務所でサポートできること
近時メタバースを含むデジタル空間内での生活及び経済活動が非常に注目され、事業者の参入が相次いでいます。
しかし、統一的な法律が存在せず、既存の法律を引っ張り出しては組み合わせる…、まさしくパッチを当てて準用する(類推解釈する)という状態であり、法律に明るくない方々にとってはかなり難解なものになっています。とはいえ、恐れていてばかりではビジネスになりませんし、先行者との差は広がるばかりです。
当事務所では、法規制が必ずしも明確ではない事業分野において、リスクの抽出だけではなく、そのリスクの重大性を検証し、“リスクを甘受する”、“リスクを抑制する”、“リスクを転嫁する”、“リスクを回避する”といった事業判断に資するよう、できる限り事業者の判断過程に関与するよう努めてきました。この結果、様々な知見とノウハウを得ることができ、ご依頼者様にはこれら知見とノウハウを還元できる体制となっています。
メタバースなど新分野での事業展開に関するご相談がある場合、是非当事務所をご利用ください。
<2023年11月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。