退職時の情報管理

1 退職時に誓約書を徴収することは困難

「入社後の情報管理」の項目で、情報セキュリティ対策の参考解説として、個人情報ガイドラインと営業秘密管理指針の2つを紹介しました。

この2つには、情報セキュリティ対策として、退職者に対しては秘密保持誓約書を徴収する等の対策を講じることと明記されています。

 

たしかに、一般論としては正しいですし、退職時に徴収できるのであれば絶対に入手するべきです。

 

しかしながら、退職予定者にこういった誓約書を書かせようとすると、結構抵抗を受けたりします。「辞める会社に対して何故この様な書類にサインしなければならないんだ!」という心理的な抵抗に過ぎない場合もあるのですが、退職後に同業他社に就職する場合や独立開業する場合には、自らの首を絞めるこの手の書類にサインすることはあり得ません。

 

ここで人事担当者の苦悩が生じます。そして追い打ちをかけるように厄介なのが、こういった書類にサインさせることについて、現行法上強制手段が存在しないということです。 この結果、退職予定者が何だかんだ言ってサインをせずに、結局書類を徴収できないまま退職日を経過してしまうということは、現場実務ではあり得ることです。

 

こういった実情もあることから、退職時誓約書を徴収しないことが直ちに営業秘密に該当しない、あるいは個人情報保護法上の安全管理措置義務を実施していないという判断に繋がるとは考えられません。とはいえ、正直なところ有効な対策を講じられていないのも事実です。

 

結局のところ、理想論はともかく、現場実務としては、退職時に誓約書を徴収しようとすること自体に無理があるように思います。

 

そうである以上、現実的な対策としては、日常的な情報管理、例えば、入社時の秘密保持誓約書の内容充実化と節目節目で誓約書を徴収するといった日々の努力がポイントになるのではないでしょうか。

 

入社時の誓約書はイメージしやすいと思うのですが、節目節目とは何を意味するのか分かりづらいかもしれません。

典型的なものは配置転換が行われた場合、特に何か特別なプロジェクトチームに加入した場合などがありますが、個人的には、極論すれば1年ごとの給与改定時に誓約書を徴収してもよいかと思います。突然、特に業務に変更がないのに秘密保持誓約書にサインしてくれと持っていくと抵抗されてしまうことがあるのですが、給与改定時は一種の区切りの時期ですので、比較的受け入れられやすいからです。

 

なお、毎年のように徴収することに意味があるのかという質問を受けますが、有るか無いかは、いざという場面がこないことには分かりません。ただ、いざという場面で毎年のように秘密保持誓約書を徴収していた、その内容として具体的な情報については機密情報であることが明記されていたというのであれば、少なくとも退職予定者は機密情報であるという認識を持ち合わせていなかったとは言い難いと思われます(実は時々、入社時誓約書は会社が回収しっぱなしで従業員に渡されていないことが多いことから、知らないと言われてしまい、秘密保持契約の文言によっては認識の有無が争点となってしまう場合もあります)。

 

また、毎年のように徴収する企業の対応は情報管理に対して熱心であるというプラスの評価に繋がるはずです。

 

以上のことから、退職時の問題は入社時から始まっていると考えて頂き、入社時だけではなく、節目節目で秘密保持制約を徴収するようにして頂ければ、より実効性のある法的対応ができるのではないかと考えます。

 

2 競業禁止

退職時に競業避止義務を認めさせることは、上記秘密保持義務以上に困難が伴いますが、そもそもこの競業避止義務の有効性については、平成25年8月16日版の営業秘密管理指針にて新たに追加解説がされています。

 

次のURL先にて確認してみて下さい。

http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/sankoushiryou6.pdf

 

 

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。