残業代込みの賃金体系の有効性

残業代込みの賃金体系の有効性

<質問>

 当院は採用面接時に、「基本給には残業代が含まれている」ことを説明し、従業員の了解を得た上で入社させています。ところが、退職した従業員より残業代の支払いを求める請求書が送付されてきました。支払義務はあるのでしょうか。
 

<回答>

 所定労働時間を超えた場合は残業代の支払義務がありますが、法定労働時間(原則として1日8時間、週40時間。但し、一定規模の医療機関の場合は週44時間の特例が認められる場合あります)を越えた場合は、残業代のほかに、さらに割増賃金を支払わなければならないとされています。

 

 裁判例の傾向からして、残業代込みの基本給という賃金体系は認められないと言わざるを得ません。したがって、いくら従業員から了解を得ていたとしても、残業代支払義務が生じることとなります。
【解説】
 「所定労働時間」とは、各医療機関が定めている勤務時間のことをいいます。
最近では、所定労働時間=法定労働時間と一致することが多いのですが、ときどき所定労働時間は7.5時間と法定労働時間(8時間)より短く設定されている場合があります。この場合、9時間の勤務を行った場合には、90分の残業代支払義務と内60分については割増賃金支払い義務が生じます。

 

 ところで、「回答」にも記載した通り、現在の裁判例の傾向からすると、基本給には残業代が含まれているから、残業代等の支払い義務はないと強弁することは不可能な状態となっています。

 

 そこで、最近では、固定残業代(定額残業代、みなし残業代)と呼ばれる賃金制度を採用するところが増加してきました。これは、基本給とは別項目の賃金(例えば固定残業代という名目を立てる)を設定し、あらかじめ一定時間分の残業代を支払うというものです。この制度を採用したいのであれば、「基本給+固定残業代」という賃金項目分け及び固定残業代が何時間分の残業代に相当するのか就業規則や労働契約書に明記し、当該時間分を上回る残業が発生した場合には超過分を支払うことが必要です。

 

 なお、いわゆる年俸制を採用しても、残業代の支払い義務は免れることはできませんので、注意が必要です。