医療機関側の都合による賃金減額

<質問>

 ここ数年、当院の業績は悪化しており経費を削減する必要性に迫られています。そこで、経費削減の一環として人件費を削ろうと考えているのですが、医療機関側の都合で一方的に減額することは可能でしょうか。

<回答>

 労働契約において、賃金・労働時間等は重要な労働条件(契約内容)であり、これを労働者の同意無く一方的に変更することは原則不可です。ただし、例外的に労働条件を不利益に変更することについて合理的な理由があるときは、就業規則の変更手続きを取ることで一方的な変更ができる場合があります。

 

 なお、賃金に関する事項は就業規則に必ず記載しなければならない事項ですので、本件では、就業規則の変更手続を検討することになります。

【解説】

 まず確認ですが、スタッフが医療機関側の実情を理解し、賃金減額に同意するのであれば、その同意は原則有効です(証拠を残すためにも書面を徴収しておくべきです)。ただし、医療機関に就業規則、特に賃金規程が存在するのであれば、賃金規程を下回らないようにする必要があります。これは就業規則(賃金規程)を下回る労働条件に同意したとしても、法律上、その同意は無効とされてしまうからです。

 

 それでは、スタッフがなかなか了解してもらえない場合は、一切賃金減額をすることができないかと言われると、そうではありません。極めて慎重な手続きを踏む必要がありますが、就業規則(賃金規程)を変更することによって賃金減額を実施することが可能です。

 

 この問題は、「就業規則の不利益変更」と呼ばれており、労働契約法10条に規定されています。大まかに整理しますと、①変更の必要性、②不利益の程度、③変更内容の相当性、④労働者(労働組合)との協議、⑤その他事情(代償措置など)などを総合的に考慮することになります。

 

 本件では、賃金という労働者にとって最も重要な労働条件の変更を行う以上、単に経費削減の必要性と主張したところで、①の要件さえ充足しない可能性があります。何故、人件費を削減する必要があるのか、医療機関の業績及び経費関係の資料を示すことは最低限必要になるでしょう。また、②及び③についても賃金センサスや業種別賃金との比較検討等が必要でしょう。④については1回限りでは要件充足という訳にはいきませんので、複数回の協議は必要となります。