会社都合扱いの解雇・退職を行う場合の注意点とは

【ご相談内容】

労働者が退職届を提出してきたところ、当社としても特に慰留することなく、退職届を受理し、自己都合扱いとして処理を行いました。

数日後、当該労働者より、「離職票の離職理由を会社都合扱いにしてほしい」という連絡が入ったのですが、どのような対応をとればよいのでしょうか。

 

【回答】

労働者より「会社都合扱いでの退職」とするよう要請があったとしても、事業者はこの要請に従う義務はありません。

したがって、本件では自己都合扱いとして退職処理手続きを進めれば足ります。

もっとも、解雇・退職に関して会社都合か自己都合かという取扱いは、実のところ労働基準法及び労働契約法には存在しない概念となります。法的には会社都合・自己都合を問わず、労働契約が終了したという点では同じです。このため、事業者としても特に利害得喪はないと考え、会社都合扱いでの退職処理に変更することは特に問題がないのではと考えることもあるようです。

しかし、法的には特段の差異はなくても、助成金の申請や受給が関係してくる場合、会社都合か自己都合かは重要なファクターとなります。もし助成金の申請等を検討している場合、なおさら労働者からの要請に応じるべきではありません。

 

【解説】

1.会社都合解雇・会社都合退職の意義

上記【回答】でも記載した通り、“会社都合による解雇”及び“会社都合による退職”という概念は、労働基準法及び労働契約法に存在しません。

会社都合か自己都合かが重要な検討材料となるのは雇用保険法、特に失業者が受給する失業手当の場面で大きな差異が生じます(受給までの待期、受給日数など)。すなわち、会社都合扱いとなった場合、失業手当が支給されるまでの待期が短くなることと、受給日数が最大120日となります。

したがって、労働者側としては、会社都合扱いとなるか否かは強い利害関係を有することになります。

一方、事業者からすれば、労働契約の終了という法的観点に限れば差異が生じないため、特に意識する必要はありません(但し、後の6.で記述する通り助成金を受給する場面では利害が生じ得ます)。

なお、事業者の倒産や整理解雇を除く普通解雇、懲戒解雇の場合、労働者本人の行為に問題があったことを理由に解雇する以上、会社都合扱いとはならないといった考え方をする事業者もいるようですが、これは誤りです。自己都合か会社都合かの第一義的な判断は離職票における離職理由の記載内容から形式的に判断されます。主な離職理由には次の通りです。

 

1.事業所の倒産等によるもの

(1)倒産手続の開始、手形取引停止による離職

(2)事業所の廃止又は事業活動停止後事業再開の見込みがないため離職

 

2.定年によるもの

 

3. 労働契約期間満了等によるもの

(1)採用又は定年後の再雇用時等にあらかじめ定められた雇用期限到来による離職

(2)労働契約期間満了による離職

(3)早期退職優遇制度、選択定年制度等により離職

(4)移籍出向

 

4. 事業主からの働きかけによるもの

(1)解雇(重責解雇を除く。)

(2)重責解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇)

(3)希望退職の募集又は退職勧奨

 

5. 労働者の判断によるもの

(1)職場における事情による離職

①労働条件に係る重大な問題(賃金低下、賃金遅配、過度な時間外労働、採用条件との相違等)があったと労働者が判断したため

②就業環境に係る重大な問題(故意の排斥、嫌がらせ等)があったと労働者が判断したため

③事業所での大規模な人員整理があったことを考慮した離職

④職種転換等に適応することが困難であったため

⑤事業所移転により通勤困難となった(なる)ため

 

(2)労働者の個人的な事情による離職(一身上の都合、転職希望等)

 

6. その他(1~5のいずれにも該当しない場合)

 

上記のうち、1.については会社都合扱いとなるのは直ぐに理解できるかと思います。

2.及び3.(1)から(3)は原則自己都合扱いとなり、3.(4)は事情によりどちらの場合もあり得ることになります。

4.(1)と(3)は会社都合扱い、(2)は自己都合扱いとなります。

5.(1)は会社都合扱い、(2)は自己都合扱いとなります。

6.はケースバイケースの判断となります(ちなみに、何らかの労使トラブルによる解決として合意退職となった場合、6.欄に記述することが多いと思われます)。

 

2.普通解雇は常に会社都合扱いとなるのか?

上記1.でも解説した通り、失業手当受給の場面で問題となり得る会社都合の該否は、普通解雇・懲戒解雇とリンクするものではありません。

この点、上記1.で引用した離職理由「4.」のいずれに該当するかを検討することがポイントになるのですが、これは雇用保険法に次のような定めがあるからです。

 

雇用保険法第33条第1項本文

被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合には、第21条の規定による期間の満了後1箇月以上3箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間は、基本手当を支給しない。

 

結局のところ、「自己(労働者)の責めに帰すべき重大な理由」があることで解雇されたこと、すなわち重責解雇に該当するのであれば自己都合、重責解雇に該当しないのであれば会社都合と判断することになります。

この重責解雇に該当するか否かについては、厚生労働省が公表している「雇用保険に関する業務取扱要領」では、次のような事例が記載されています。

 

①刑法各本条の規定に違反し、又は職務に関連する法令に違反して処罰を受けたことによって解雇された場合

②故意又は重過失により事業所の設備又は器具を破壊したことによって解雇された場合

③故意又は重過失によって事業所の信用を失墜せしめ、又は損害を与えたことによって解雇された場合

④労働協約又は労働基準法(船員については、船員法)に基づく就業規則に違反したことによって解雇された場合

⑤事業所の機密を漏らしたことによって解雇された場合

⑥事業所の名をかたり、利益を得又は得ようとしたことによって解雇された場合

⑦他人の名を詐称し、又は虚偽の陳述をして就職をしたために解雇された場合

 

さて、上記④では就業規則違反による解雇は重責解雇に該当し得ると記述されています。そうであれば、普通解雇を行う場合、一般的に就業規則を根拠に解雇する以上は重責解雇に該当する、したがって、会社都合扱いとならないのではという疑問が生まれるかもしれません。

たしかに、この疑問はごもっともなところがあるのですが、実は「雇用保険に関する業務取扱要領」では次のような解説がなされています。

労働協約又は就業規則違反の程度が軽微な場合には、本基準に該当しないものであり、本基準に該当するのは、労働者に労働協約又は就業規則に違反する次の(イ)~(ニ)の行為があったため解雇した場合であって、事業主が労働基準法第 20 条第 3 項において準用する同法第 19 条第 2 項の規定(船員については、船員法第 44 条の 3 第 3 項の規定)による解雇予告除外認定を受け、同法第 20 条(船員については、第 44 条の 3)の解雇予告及び解雇予告手当支払の義務を免れるときである。

(イ)極めて軽微なものを除き、事業所内において窃盗、横領、傷害等刑事犯に該当する行為があった場合

(ロ)賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす行為があった場合

(ハ)長期間正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合

(ニ)出勤不良又は出欠常ならず、数回の注意を受けたが改めない場合

 

上記(イ)から(ニ)の限定列挙された事由のいずれかに該当し、かつ事業者からの申告に基づき労働基準監督署より解雇予告除外認定を受けた場合、と非常に狭い範囲でしか上記④の該当性は認めないとしています。

現場実務において、労働基準監督署に対して解雇予告除外認定手続きを行うことはまずありませんし、また仮に手続きを行ったとしても、そう簡単に認めてもらえないのが実情です(なお、地域差があるようですが、解雇前に手続きをしない限り受け付けないとする労働基準監督署さえ存在します)。

この解説からも明らかなとおり、普通解雇を行う場合、重責解雇に該当するような事例が少ないこと(重責解雇に該当するような事例の場合、懲戒解雇手続きをとることが現場実務では多いように思います)、仮に該当するとしても解雇予告除外認定を受けることは極めて稀であることから、実際のところ、普通解雇を行った場合、会社都合扱いとせざるを得ないということになります。

 

3.懲戒解雇であっても会社都合扱いとなるのか?

上記2.「普通解雇は常に会社都合扱いとなるのか?」で解説した通り、結局のところ、懲戒解雇であっても、雇用保険の取扱いとしては「重責解雇」に該当するのかが重要な判断材料となります。

懲戒解雇の場合、重責解雇に該当すると事業者が判断する場面も多いと思われます。

しかし、今度は労働契約法の観点からすると、懲戒解雇は解雇無効となるリスクが高く、実際紛争となると、なかなか事業者が勝てないのが実情です。このリスクを考慮して、懲戒解雇ではなくあえて普通解雇を選択することも現場実務では多いのですが、そうすると就業規則の内容にもよりますが、重責解雇事由にピタッと該当する普通解雇事由が存在しないといったジレンマが生まれたりします。

いずれにせよ、懲戒解雇だから会社都合扱いではないと考えることは誤りであることを押さえておく必要があります。

 

4.退職の申出や合意退職が会社都合退職に該当する場合とは?

(1)正当な理由のある退職申出と会社都合扱い

労働者自らが退職届を出した場合、事業者は自己都合退職として処理するのが通常であり、原則そのような取り扱いで問題ありません。

もっとも、上記2.で引用した雇用保険法では、次のような定めがあります。

 

雇用保険法第33条第1項本文

被保険者が自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇され、又は正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合には、第21条の規定による期間の満了後1箇月以上3箇月以内の間で公共職業安定所長の定める期間は、基本手当を支給しない。

 

「正当な理由」がある場合、たとえ労働者自らが退職届を提出してきたとしても会社都合として取り扱われることとなります。そして、これを受け、上記1.で引用した離職理由では、「5. 労働者の判断によるもの (1)職場における事情による離職」という項目が設けられています。

では、「正当な理由」とはどういった場面を想定すればよいのでしょうか。

この点、「雇用保険に関する業務取扱要領」では、「被保険者の状況(健康状態、家庭の事情等)、事業所の状況(労働条件、雇用管理の状況、経営状況等)その他からみて、その退職が真にやむを得ないものであることが客観的に認められる場合をいうのであって、被保険者の主観的判断は考慮されない。」と解説した上で18種類の事由をあげていますが、現場実務でよく問題となるのは次のような事由となります。

 

①採用条件(賃金、労働時間、労働内容等)と労働条件が著しく相違したことにより退職した場合
②離職の日の属する月の前 6 月に「労働基準法第 36 条第3項に規定する限度時間に相当する時間数」第 3 条に基づく別表第 1 に規定する延長時間の限度のうち 1 か月を超える時間外労働及び休日労働がいずれか連続して 3 か月以上の期間において行われた場合、いずれかの月において一月当たり 100 時間以上、時間外労働及び休日労働が行われた場合、いずれか連続した 2 か月以上の期間の時間外労働及び休日労働を平均して 1 月当たり 80 時間を超えて、時間外労働及び休日労働が行われた場合、又は労働者の生命及び身体に関し障害が生じるおそれのある法令違反等が行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において改善が行われなかった場合
③事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため、労働者が雇用契約の終了を余儀なくされた場合
④上司、同僚等から故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって退職した場合
⑤配偶者又は扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となったことによって退職した場合

 

①については、例えば、高額の基本給に惹かれて入社したものの、実は基本給には一定時間分の残業代が含まれていたことが判明し退職した場合や、正社員=無期雇用社員と考えて入社したが、賃金及び福利厚生は正社員待遇ではあるものの有期雇用であったため退職した場合などが、よく耳にする事例となります。

②については、例えば、いわゆる過労死ラインに触れるような長時間残業が常態化しており、このままでは身体を壊しそうなので退職した場合、あるいは現実に体調不良となり復帰困難であることから退職した場合などが、よくある事例となります。

③については、例えば、配置転換により担当する業務内容に変更が生じたものの、引継や適切な指導がなく、自分1人では対処のしようがないため退職した場合などが想定される事例となります。

④については、例えばハラスメントを受け、耐えられないとして退職した場合などが典型例となります。

⑤については、例えば、転勤に伴う単身赴任を嫌悪して退職する場合などがあります。なお、最近このパターンのトラブルは増加しているようであり、特にマタニティハラスメントやパタニティハラスメントと絡めて問題となることがあるようです。

 

(2)合意退職と会社都合扱い

例えば、上記1.で引用した離職票の離職理由のうち、「4. 事業主からの働きかけによるもの(3)希望退職の募集又は退職勧奨」に該当する場合、すなわち希望退職募集に申込んで合意退職した場合や退職勧奨に応じて合意退職した場合、会社都合扱いとして取り扱われることとなります。

また、現場実務では、不当解雇や退職強要、退職に際しての錯誤や詐欺などがあった場合、労働者側が労働契約は終了していないと主張し、事業者と紛争となる事例があります。このような事例において、多くの場合、協議を通じて改めて退職日を設定し退職に関する合意書を締結することで解決を図りますが、会社都合扱いによる合意退職とすることが一般的かと思われます。

ただ、上記のような紛争解決の場合、一律に会社都合として取り扱われるわけではありません。すなわち、協議の進め方によっては、自己都合扱いによる合意退職とする場合もあり得るところです。注意したいのは、会社都合か自己都合かについては意識的に合意対象事項としておかないと、最後の最後になって協議が決裂したり、合意書締結後に新たな紛争が勃発しかねないという点です。

なお、どうしても自己都合退職扱いにしたいと事業者が考える場合、会社都合扱いと自己都合扱いとで生じる失業手当の差額分を解決金に上乗せするといった、代替策を講じる必要があることも留意したいところです。

 

5.会社都合か自己都合か争いが生じた場合は?

上記4.(1)で記述した離職事由の場合が典型例なのですが、労働者が特に理由を述べることなく自発的に退職届を提出してきたので、自己都合扱いとしてハローワークに離職票を提出したところ、ハローワークより、労働者は「××の事情(会社側に帰責性のある事情)により辞めざるを得なかった」として異議を申出ていると指摘され、初めて労使双方の認識に齟齬があることに気が付くというパターンが多いようです。

この場合、事業者としては、ハローワークからの問い合わせに対し、自らが認識している退職に至る経過を説明すると共に、例えば退職届(一身上の都合によりと書いてある退職届など)などの書類を提出し、最終的にはハローワークの判断に委ねるという対応をとるべきです。

時々、ハローワークの担当者の中には横柄な態度で、事業者の意見をまともに聞かずに、会社都合扱いにするよう圧力をかけてくる者もいますが、よほどのことがない限り、安易に応じるべきではありません。事業者として言うべきことは言う、しかし最終判断はハローワークにあるというスタンスで臨むほうが、色々と事業者にとっては都合が良いことが多いように思います。

 

6.会社都合扱いにより会社が被るデメリットとは?

上記1.でも解説した通り、会社都合・自己都合のどちらであっても、労働契約が終了するという点では法的な差異は生じません。また、会社都合・自己都合によって、労働基準法及び労働契約法において取扱いが異なるということもありません。

したがって、多くの事業者において、会社都合か自己都合かについて意識されることは無いかと思います。

もっとも、例えば、トライアル雇用助成金、中途採用等支援助成金といった、助成金の申請を今後予定している場合や既に助成金を受けている場合は、注意が必要です。

なぜなら、上記のような助成金を受けるための要件の1つとして、会社都合扱いとなる解雇・退職を行っていないことが定められているからです。

もし労働契約終了に関するトラブルや紛争が生じた場合、「自社は助成金を受けていないか、あるいは助成金の申請手続きを行う予定はないか」を必ず確認すると共に、解決方針として自己都合扱いの退職に拘る必要があるのか明確にすることが重要ポイントとなります。

 

<2022年8月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。