残業代請求対応

1.なぜ残業代対策をする必要があるのか

残業代の支払いを要求する通知書を受領した以上、対策を講じなければならないのは当たり前です。

ただ、残業代トラブルに従事する中で、会社・事業者側で対処することが多い執筆者は、近時は別の観点からも危機感を強くしています。その主な原因は次の3つです。

①残業代が高額化していること

2020年4月1日より民法が改正されたのですが、これにより残業代の消滅時効が3年に拡大されました(2020年3月31日までに発生した賃金債権については2年で時効)。要は、今まで2年分の残業代しか請求されなかったのが、3年分の残業代請求ができるようになったため、単純計算では1.5倍に金額が上昇しているということです。

会社の資金繰りに与える影響は大きく、残業代の支払いを回避できない事例の場合、どこから支払原資を持ってくるのか、四苦八苦する社長を見ることが多くなってきています。

なお、将来的には残業代の消滅時効は5年になる予定であること、すなわち更に多額の残業代要求が行われることになることはぜひ押さえておく必要があります。

②残業代を要求する者が、後追いで次々と出現すること

一昔前であれば、元従業員が残業代を要求してきた場合、その元従業員との間で解決すれば終了となることが一般的でした。

しかし、近時は、元従業員が他の従業員に声をかけ、その他の従業員がタイミングを見計らって、新たに残業代を要求し、この状態が継続するということが多くなってきました。会社・事業者からすれば、いつまで経っても残業代トラブルが収束せず、非常に疲弊することになります。また、当然のことながら、会社の財務に与える影響も甚大です。

執筆者はこういった現象を“数珠繋ぎ”と呼んで説明したりするのですが、要は、残業代を要求してくる者の背後には、順番待ちをしている者がいるということを押さえておく必要があります。

③残業代未払いによるペナルティがあること

残業代が未払いであることは、立派な法律違反・コンプライアンス違反です。

コンプライアンス遵守が言われて久しいですが、例えば、取引銀行に残業代未払いが認知された場合、取引銀行が融資態度を変えてきたという話を執筆者はチラホラ聞くようになってきました。また、厚生労働省が監督官庁となる許認可の申請や更新手続きにおいて、残業代未払いの有無が審査に影響を与えるという話も耳にするようになりました。さらに、助成金等を申請する際、労働法に違反していないことが要件とされる場合があるのですが、残業代の未払いが発覚し、助成金の申請に悪影響を及ぼす、あるいは支給済みの助成金の返還を求められたという事態も発生しているようです。

上記はほんの一例にすぎませんが、残業代の未払いが思わぬところでペナルティとなり、事業活動に不利益を与えかねないことを押さえておく必要があります。

 

上記のような観点からも、残業代対策は喫緊の課題であることがお分かり頂けるかと思います。

 

2.残業代請求を受けた場合に検討するポイント

従業員より残業代の支払い要求を受けた場合、会社・事業者は「本当に残業代が発生しているのか」を検討することになります。

この点、残業代発生の有無については、残業代の計算方法に立ち返って検討することが有用であるところ、その算式は次の通りです。

 

基礎賃金×割増率×時間外労働時間-既払い残業代

 

以下では、「基礎賃金」、「割増率」、「時間外労働時間」、「既払い残業代」の4項目について、簡単に検討ポイントを整理します。

 

(1)基礎賃金

基礎賃金とは、1時間当たりの賃金額です。具体的な計算方法は、労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第19条及び同第21条に定めがあるのですが、争いになりやすいのは、基礎賃金より除外できる手当の範囲です。

この点、法令上、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当の5つが定められています(法令上定めはありませんが、残業代の支払いに充てられる手当は、当然基礎賃金の算出より除外します)。

従業員が算出した既存賃金にはこれらの手当てが含まれていることがありますので、要確認となります。もっとも、これらの除外手当は実質で判断しますので、例えば各従業員の置かれた状況を考慮することなく一律額での支給となっている場合は、除外手当に該当しないこと注意を要します。

なお、基礎賃金の算出に当たって誤解の多いのが年俸制です。例えば、年収を16ヶ月で除し、12ヶ月分の賃金と4ヶ月分の賞与扱いを行ったとしても、基礎賃金算出の際は賞与を含めて算出する必要があること要注意です。

 

(2)割増率

割増率とは、法定時間外労働であれば25%分、深夜労働であれば25%分、法定時間外労働と深夜労働の両方に該当する場合は50%分のことを指し、この分を上乗せした賃金を割増賃金と呼びます。

ところで、一般的に残業代=割増賃金というイメージがあるのですが、割増賃金が発生するのは法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えた場合です。このため、法内残業、例えば所定労働時間が7時間と定められている事業場において、従業員が1時間の残業を行った場合、割増分は発生せず1時間分の賃金を支払えば足ります(但し、社内規程上、法内残業であっても割増分を支払う旨定めている場合は割増賃金を支払う必要あり)。

また、休日労働の場合、35%の割増分を支払う必要がありますが、ここでいう休日労働とは法定休日を意味します。土曜と日曜が休日の会社において土曜に出勤した場合、一般的には休日労働に該当しませんので、休日割増分を支払う必要はありません。

さらに、特定の業種及び条件に該当する中小企業の場合、1週当たりの法定労働時間が44時間となります。このため、1日8時間以内であることを前提に、1週40時間を超え44時間以内の労働分については法定時間外労働に対する割増分を支払う必要がありません。

従業員が要求する残業代には、上記のような本来支払う必要のない割増賃金を含むことがありますので、会社・事業者はよく確認する必要があります。

 

(3)時間外労働時間

まず、事実として残業は認められるものの、残業代の支払い対象となる時間外労働時間に該当するのかを検討する必要があります。

例えば、会社・事業者が残業禁止命令を出しているにもかかわらず、従業員が無視して残業した場合であれば、残業代の支払い対象となる時間外労働時間に該当しません。あるいは、残業許可制であるにもかかわらず、従業員が許可を取らずに勝手に残業を行った場合であれば、やはり残業代の支払い対象となる時間外労働時間に該当しません。

従業員が要求する残業代には上記時間が含まれている場合がありますので、よく確認する必要があります。なお、特に裁判では、残業禁止命令や残業許可制が適切に運用されているのか厳しく問われることには注意したいところです。

 

次に、事実として残業は認められるものの、法律上、残業代を支払わなくてもよいとされていないかを検討する必要があります。

例えば、管理監督者(労働基準法第41条第2号)に該当する場合、断続的労働(労働基準法第41条第3号)に該当する場合、事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)

が適用される場合、裁量労働制(労働基準法第38条の3、同第38条の4)が適用される場合、変形労働時間制(労働基準法第32条の2から同第32条の5)が適用される場合などであれば、残業の事実があったとしても、残業代を支払う必要はありません。

従業員が要求する残業代には、上記法制度を無視して算出されている場合がありますので、十分確認する必要があります。なお、あくまでも法が定める例外制度である以上、その要件を充足しているかにつき、会社・事業者は慎重に検証しなければなりません。

 

さらに、従業員が主張する時間外労働時間が、会社・事業者が認識している時間外労働時間と合致するのか検討する必要があります。

例えば、タイムカード上は定時で退勤したことになっているにもかかわらず、退勤後も仕事をしていたとして残業代を要求するといった場合です。

従業員が要求する残業代には、根拠を示すことなく一方的な言い分のみで算出されている場合がありますので、注意を要します。なお、いわゆるサービス残業が発生していないかについては、会社・事業者としても十分確認したいところです。

 

(4)既払い残業代

現場実務で問題となるのは、固定残業代(定額残業代、みなし残業代などと呼ばれる場合もあります)についてです。

巷で言われている固定残業代については2パターン存在し、1つは基本給の中に一定の残業代分が含まれているというもの、もう1つは基本給とは別の手当を設けて支給するというものがあります。

この点、基本給の中に残業代を含むパターンですが、理屈の上では認められる余地はあるものの、会社・事業者の賃金管理実務の観点を踏まえるとほぼ認められないと考えた方がよさそうです。すなわち、残念ながら残業代を支払い済みと反論することは難しいと言わざるを得ません。

一方、別手当で支給するパターンについては、裁判例を踏まえると、当該手当が残業代に充当されるものであることを就業規則(賃金規程)及び労働契約書(労働条件通知書)に明記し周知されていること、手当の具体的金額とそれに対応する残業時間が明確になっていること等が要件になると考えられています。会社・事業者は、この要件を充足するのか吟味することになります。

固定残業代については法的有効性が担保できると判断できた場合、従業員が要求する残業代より固定残業代が控除されていないかを確認することになります。

なお、万一固定残業代について法的有効性が否定される場合、既払い残業代として控除できないことはもちろん、固定残業代分について基礎賃金に含めて計算する必要があることに注意を要します。

 

(5)その他

算式の項目からは外れてしまうのですが、残業代の算定に当たっては、次の点も考慮したいところです。

1つ目は労働者性の否定です。残業代は労働契約であることが大前提となりますので、従業員が個人事業主である場合、残業代は発生しないことになります。

2つ目は消滅時効です。賃金の消滅時効は当面は3年(将来的には5年になる予定)とされていますので、支払日より3年経過した残業代については支払い義務が消滅することになります。

3つ目は残業代放棄の合意です。従業員との間で残業代を放棄する合意を取り交わすこと自体は有効ですので、当該合意が成立している限り、残業代の支払い義務を免れることになります。

なお、会社・事業者より、従業員に対して貸付債権又は損害賠償請求債権があるので、残業代との相殺を行いたいというご相談をいただくことがあります。しかし、従業員が同意しているのであればともかく、会社・事業者が一方的に相殺することは不可能です(労働基準法第24条第1項)。勘違いされている会社・事業者が多いので注意したいところです。

 

 

3.残業代トラブルを弁護士に依頼する理由

 (1)メリット

様々なメリットが考えられますが、ここでは代表的な3点を挙げておきます。

従業員が要求する残業代が誤りであることを法的に指摘し、正しい残業代を算出することは非常に骨の折れる仕事です。上記2.でも解説しましたが、この複雑な検証・算定業務を弁護士にアウトソーシングすることで、本来の業務に集中することができることはもちろん、残業代の過払い(支払い過ぎ)あるいは誤った算定額に拘泥することによる紛争の長期化を回避できることが弁護士に依頼する1つ目のメリットとなります。

次に、社長又は人事・総務担当者が、敵対する相手方(従業員)と交渉することは、想像以上に精神的負荷がかかります。特に従業員が退職している場合、在籍していた当時は従順だったので、強く言えば要求を撤回するだろうと思っていたら、人が変わったように反抗的態度を取られショックを受けた…という話はよく耳にするところです。このような心理的負担の大きい交渉事を弁護士に任せ、心の平穏を保ちながら業務を遂行できるようになることが弁護士に依頼する2つ目のメリットとなります。

最後に、残業代トラブルは必ず“落しどころ”が存在するのですが、これが分からないまま交渉を進めても、いつまでも解決ができず紛争が長期化し、無駄な時間、労力、お金をかけがちです。こうした無駄を省き、落しどころを見極めた上で、残業代トラブルの早期円満解決を可能とすることが弁護士に依頼する3つ目のメリットとなります。

 

(2)リーガルブレスD法律事務所の強み

残業代トラブルを弁護士に依頼するメリットは上記(1)に記載した通りです。当事務所では次のような強みがあると自負しています。

①解決実績が多数あること

当事務所の代表弁護士は、2001年の弁護士登録以来、会社・事業者側で残業代トラブルの示談折衝、団体交渉(労働組合対応)、労働基準監督署との交渉対応、労働審判手続き対応、仮処分手続き対応、訴訟手続き対応などを処理してきました。その処理してきた事件の中には、従業員の要求額を限りなくゼロに近づけて解決したこともあります。一方で残業代の支払い義務を免れることができない場合、会社の財務に悪影響を与えないよう長期分割払いによる解決を図ったこともあります。

たくさんの事例を通じて得られた知見とノウハウを元に、残業代トラブルに対処することが可能です。

 

②残業代トラブルによる他の事業領域への波及阻止を意識していること

例えば、残業代トラブルの解決にあたり、解決金名目で一定額の金銭を従業員側に支払った場合、源泉徴収等の控除はどうなるのか(税務処理の問題)、社会保険料の本人負担はどうなるのか(公的保険処理の問題)、会社都合扱いでの退職となった場合に助成金はどうなるのか(給付金対応の問題)といった、他の領域に問題が波及することがあります。

当事務所は、これまでに培った経験例を踏まえ、波及の有無・内容・程度などを意識しながら、必要に応じて各種専門家に確認して残業代トラブルに対処することが可能です。

 

③原因分析と今後の防止策の提案を行っていること

トラブルには必ず原因があるところ、これは残業代トラブルでも当てはまります。

当事務所では、残業代トラブルの解決を進めつつ、同時に今後も同様の残業代トラブルが発生しないか診断し、問題点の抽出を行った上で、改善の必要性につきご提案を行っています。そして、ご相談者様よりご依頼があった場合、オプションサービスとして、就業規則や賃金規程の変更手続き支援、労働契約書の修正支援、従業員への説明支援、表立ってトラブルとなっていない従業員との残業代に関する交渉支援などを行っています。

二度と残業代トラブルが発生しないような防止策の制定を含むコンサルティングサービスもご対応可能です。

 

 

4.残業代トラブル対応の料金

(1)法律相談サービス

【サービス内容】

経営課題への対処や問題解決のために、法的観点からのアドバイスを行うサービスです。

 

【当事務所の特徴】

①資料(労働契約書、就業規則等の社内規程、相手からの通知書、ご相談者様自らが作成したメモなど)を予め検討したうえで、法律相談に臨みます。

(但し、法律相談実施日の3営業日前までにご送付願います)

②法律相談実施後2週間以内であれば、ご相談事項に関連する追加のご質問について無料で対応します。

(但し、メールによるお問い合わせに限定させて頂きます)

 

【ご利用者様が得られるメリット】

法的根拠の有無を確認し、方針を組み立てることで、自信を持って経営課題に対処し、問題解決に取り組むことができます。

 

【弁護士費用】

1万5000円(税別)

 

(2)残業代請求を巡るトラブルの具体例

【例1:交渉バックアップ】

・元従業員より1000万円を超える残業代の支払いを求める通知書が送付されてきた

・交渉自体は会社で行うので、会社の立場を踏まえた残業代の計算、交渉の進め方や注意点などを適宜アドバイスしてほしい

 

<弁護士費用>

7万5000円~/月(税別) × 解決期間(月)

※会社の現状調査、調査結果を踏まえた方針策定、証拠固めなどある程度時間をかけて対応する必要があると考えられるため、顧問契約に近い形式での対応としています。

なお、上記弁護士費用は請求者1名であることを前提にしており、かつ案件の難易度や作業量に応じて弁護士費用は変動します。

 

【例2:弁護士からの請求通知と代理対応】

・元従業員の代理人弁護士より、残業代を計算するための資料を開示するよう要求する通知書が送付されてきた

・随時協議しながら対応方針を決めつつ、元従業員側の弁護士との交渉窓口になってほしい

 

<弁護士費用>

10万円~/月(税別)×解決期間(月)

※裁判(労働審判、仮処分、訴訟)、行政(労働基準監督署、労働委員会等)対応、及び団体交渉以外の、代理人弁護士間での協議・交渉のみを前提にした費用体系となります。裁判手続きに移行した場合、行政対応が必要となる場合、労働組合が介入してきた場合などは、弁護士費用の体系が変更となります。

なお、上記弁護士費用は請求者1名であることを前提にしており、かつ案件の難易度や作業量に応じて弁護士費用は変動します。