弁護士による就業規則チェックポイント⑧(表彰及び制裁)

 就業規則の作成は社会保険労務士の先生にお願いして作成してもらったり、社長自らがインターネットや書籍などを見ながら作成したりすることが多いようです。

就業規則を作成することは、労務トラブルによるリスクを低減させるためにも非常に有効なことです。
ただ、実際の現場のトラブル、特に労働裁判や労働審判、労働組合による団体交渉、労働基準監督署の介入などといった事例を経験しないことには、どうしても見えてこない視点も存在します。

そこで、厚生労働省が公表しているモデル例を参照しながら、使用者・会社側弁護士の視点で、就業規則のチェックポイントを解説したいと思います。

なお、モデル例は平成25年4月に公表されていたパターンを参照しています。

第11章 表彰及び制裁 

(表彰)
第59条 会社は、労働者が次のいずれかに該当するときは、表彰することがある。
① 業務上有益な発明、考案を行い、会社の業績に貢献したとき。
② 永年にわたって誠実に勤務し、その成績が優秀で他の模範となるとき。
③ 永年にわたり無事故で継続勤務したとき。
④ 社会的功績があり、会社及び労働者の名誉となったとき。
⑤ 前各号に準ずる善行又は功労のあったとき。
2 表彰は、原則として会社の創立記念日に行う。また、賞状のほか賞金を授与する。


最近では聞かなくなった制度ですが、こういった制度を設けることで従業員の士気を高めたりすることができますので、導入検討の余地はあるかと思います。

(懲戒の種類)
第60条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
① けん責
始末書を提出させて将来を戒める。
② 減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③ 出勤停止
始末書を提出させるほか、  日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④ 懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。


懲戒処分については、どのような種類を設けるのか会社(事業者)の裁量に委ねられていますので、第60条のような処分でもよいですし、会社の規模によっては、②と③の間、または③と④の間に「降格」処分を設けてもよいかと思われます。

ところで、懲戒処分で一番のポイントとなるのは、懲戒処分の種類について就業規則に明記しておかないことには、そもそも懲戒処分を科すこと自体不可能という点です。したがって、就業規則を作成するのであれば、懲戒処分については何をどこまで設けるのかについて相当な注意を払うべきです。

なお、実務上の悩みとして1点触れておきますが、上記第60条④後段において、労働基準監督署の認定を受けた場合は解雇予告手当を支給しなくてもよいとされています。労働基準法第20条に定める事項を就業規則に明記しただけに過ぎないのですが、実際の現場実務において、この認定を受けることは至難の業と思われます。

この意味で、解雇する場合には、即時解雇の場合は解雇予告手当の支給を、予告解雇の場合は30日間の勤務を認めることのどちらかを覚悟する必要があります。会社(事業者)にとっては酷なことですが、法律がそうなっている以上、仕方がないと割り切るほかありません。

 

(懲戒の事由)
第61条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
① 正当な理由なく無断欠勤が   日以上に及ぶとき。
② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
③ 過失により会社に損害を与えたとき。
④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
⑤ 性的な言動により、他の労働者に不快な思いをさせ、又は職場の環境を悪くしたとき。
⑥ 性的な関心を示し、又は性的な行為をしかけることにより、他の労働者の業務に支障を与えたとき。
⑦ 第11条、第13条、第14条に違反したとき。
⑧ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第49条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 ① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
 ② 正当な理由なく無断欠勤が  日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
 ③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、  回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
 ④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
 ⑤ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
 ⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
 ⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
 ⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
 ⑨ 職責を利用して交際を強要し、又は性的な関係を強要したとき。
 ⑩ 第13条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
 ⑪ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
 ⑫ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
 ⑬ 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
 ⑭ 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
 ⑮ その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。


懲戒処分を行う場合、懲戒処分を行うだけの事実関係と証拠がそろっているのか、認定した事実関係に基づき、どの懲戒処分に当てはめるのかを検討する必要があります。恣意的な処分であるという批判を浴びないよう、具体的な懲戒処分自由については細かく列挙することがポイントです。

なお、普通解雇(第49条を参照)のところでも記載しましたが、「しばしば」、「重要」、「著しく」といった評価概念は、ここでも用いない方がベターです。労働組合が介入してきた場合や裁判となった場合、この評価概念に該当するか否かで争いが生じることで、余計な争点が増えてしまうためです。書き方だけかもしれませんが、原則は厳しい処分、但し「軽微」な場合は弱めの処分に落とすという形にもっていった方が色々と現場実務では対処しやすいような気がします。

※上記はあくまでも一例です。案件ごとにより手順や結果が変わることもありますので、この点はご容赦願います。 

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弁護士による就業規則チェックポイント④(休暇等)

弁護士による就業規則チェックポイント⑤(賃金)

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弁護士による就業規則チェックポイント⑦(退職金、安全衛生、職業訓練)

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