弁護士による就業規則チェックポイント⑥(定年、退職及び解雇)

 就業規則の作成は社会保険労務士の先生にお願いして作成してもらったり、社長自らがインターネットや書籍などを見ながら作成したりすることが多いようです。

就業規則を作成することは、労務トラブルによるリスクを低減させるためにも非常に有効なことです。
ただ、実際の現場のトラブル、特に労働裁判や労働審判、労働組合による団体交渉、労働基準監督署の介入などといった事例を経験しないことには、どうしても見えてこない視点も存在します。

そこで、厚生労働省が公表しているモデル例を参照しながら、使用者・会社側弁護士の視点で、就業規則のチェックポイントを解説したいと思います。

なお、モデル例は平成25年4月に公表されていたパターンを参照しています。

  第7章 定年、退職及び解雇

[例1] 定年を満65歳とする例

(定年等)
第47条 労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。


[例2]定年を満60歳とし、その後希望者を再雇用する例

(定年等) 
第47条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。


定年と65歳までの高年齢者雇用の関係は誤解を受けやすいところです。
まず、いわゆる定年について、法律上は60歳を下回ることはできません(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条)。しかし、一方で、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条では、事業主には65歳までの高年齢者雇用確保措置が義務付けられています。
この結果、多くの会社では、定年である60歳から65歳までの間について、一種の空白期間ができることになります。そして、現行法の整理では、①65歳までは雇用を行わなければならない、②ただし、60歳前までの労働条件にて引き続き雇用する必要はない(出勤日を減らす、労働時間を減らす、賃金を減額するといった対応が可能)ということになります。
したがって、定年後の労働条件についてどのように定めるのかが問題となってきており、別途社内規程を設けて対応する会社が多くなってきているのが実情です。

 

(退職)
第48条 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。 

 ① 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して14日を経過したとき ② 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
 ③ 第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
 ④ 死亡したとき
2 労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。


第48条第2項は、労働基準法第22条第1項に定められている退職証明書交付義務に関する事項であることから、説明は省略します。

第48条第1項でポイントとなるのは、②の有期雇用の終了についてです。

就業規則上の表現の仕方としては、上記の通りでまったく問題ありませんが、実際の運用では「雇止め」(契約期間が満了し、契約が更新されないこと)の問題に留意する必要があります。

例えば、厚労省の通達では、有期労働契約が3回以上更新されている場合や1年を超えて継続勤務している有期契約労働者について、契約を更新しない場合、使用者は少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告を行うよう求めています。また、裁判例(判例)法理が明文化した労働契約法第19条に基づき、繰り返し更新されたことによって実質的に期間の定めのない従業員と同一視できる場合(例えば、3回以上更新され、正社員と同一業務を行っていた場合など)、または雇用継続への合理的期待が認められる場合(例えば、次回も更新することを雇用主が説明していた場合など)は、単純に期間満了により労働契約を終了させることを認めない取り扱いがなされています。

したがって、実務的には、雇い入れに際しては更新に際しての条件を明示すること、就業中は不用意に雇用への期待を抱かせないこと、といった対策が必要です。

あと、就業規則の表現例からは離れますが、第48条第1項①に関連し、退職願を出して、あとは年次有給休暇の申請をされてしまい、上手く引継ぎがいかないことから、「引継ぎ終了後14日を経過したとき」といった形に修正ができないかという問い合わせを受けたりします。が、結論的には難しいと言わざるを得ません。年次有給休暇の申請を拒絶すること自体難しいことから、退職願を提出してから30日くらい経過期間を設けることで引き継ぎに必要な期間を確保しつつ、服務規律において引継ぎを適切に行う旨明記するくらいかしか対処しようがないのかもしれません。

<参考>

法改正により、平成25年4月1日以後に開始する有期労働契約が、同一の使用者との間で通算で5年を超えて繰り返し更新された場合は、労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)へ転換します(労働契約法第18条)。
これに備えて、根本的に就業規則の見直しが必要になるかもしれませんが(いわゆる正社員と、無期転換した準正社員とでもいうべき2種類の正社員が発生するため)、最低限、次のような条項を設けるべきでしょう。

(無期労働契約への転換)
第〇条  期間の定めのある労働契約で雇用する従業員のうち、通算契約期間が5年を超える従業員は、別に定める様式で申込むことにより、現在締結している有期労働契約の契約期間の末日の翌日から、期間の定めのない労働契約での雇用に転換することができる。
2 前項の通算契約期間は、労働契約法第18条及び同施行通達に従うものとする。
3 この規則に定める労働条件は、第1項の規定により期間の定めのない労働契約での雇用に転換した後も引き続き適用する。ただし、無期労働契約へ転換した従業員に係る定年は、満_歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

 

(解雇)
第49条 労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。

 ① 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。 ② 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転

 換できない等就業に適さないとき。

 ③ 業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病

が治らない場合であって、労働者が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。)。

 ④ 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
 ⑤ 試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格

であると認められたとき。

 ⑥ 第61条第2項に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき。
 ⑦ 事業の運営上又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業

の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき。

 ⑧ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。
2 前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。
3 前項の規定は、労働基準監督署長の認定を受けて労働者を第60条に定める懲戒解雇する場合又は次の各号のいずれかに該当する労働者を解雇する場合は適用しない。
①  日々雇い入れられる労働者(ただし、1か月を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
②  2か月以内の期間を定めて使用する労働者(ただし、その期間を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
③  試用期間中の労働者(ただし、14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
4 第1項の規定による労働者の解雇に際して労働者から請求のあった場合は、解雇の理由を記載した証明書を交付する。


いわゆる「普通解雇」に関する規定となります。

普通解雇事由については上記のような定めが行われるのが一般的ですが、いざ裁判実務を経験すると、「著しく」という評価概念を用いると、何をもって「著しく」というのか一義的に解釈することができず、対処に苦労することがあったりします。そのため、私個人としては、「著しく」とか「高度」といった評価概念は、解雇事由や後で出てくる懲戒事由にはできる限り明記しないよう修正依頼を行っています。

また、解雇するに際しては、なかなか一発解雇というわけにはいかないことから、教育・改善指導を行いつつ、業務命令や軽めの懲戒処分を経て、最終的に解雇という手順を踏む子尾が多くなってきているところ、上記解雇事由では、これにうまく対応できるような直接的な解雇事由がありません。そこで、例えば、「規則違反、職務怠慢等の事由で制裁を受けた後も改善あるいは改悛のあとが見られないとき」といった条項を設けておくのも必要ではないかと思われます。

なお、これは意見が分かれますが、上記第49条第1項⑥については、私個人としてはあえて入れる必要はないと考えています。理由は、懲戒事由が存在することによる普通解雇であれば第49条第1項⑧で対処可能なこと、第49条第1項⑥のような規定を設けることで懲戒解雇と普通解雇との相違がなくなってしまうこと(普通解雇を懲戒解雇並みにハードルを上げてしまいかねないこと)と考えるからです。


※上記はあくまでも一例です。案件ごとにより手順や結果が変わることもありますので、この点はご容赦願います。 

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弁護士による就業規則チェックポイント③(労働時間、休憩、休日)

弁護士による就業規則チェックポイント④(休暇等)

弁護士による就業規則チェックポイント⑤(賃金)

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弁護士による就業規則チェックポイント⑦(退職金、安全衛生、職業訓練)

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