弁護士による就業規則チェックポイント⑤(賃金)

就業規則の作成は社会保険労務士の先生にお願いして作成してもらったり、社長自らがインターネットや書籍などを見ながら作成したりすることが多いようです。

就業規則を作成することは、労務トラブルによるリスクを低減させるためにも非常に有効なことです。
ただ、実際の現場のトラブル、特に労働裁判や労働審判、労働組合による団体交渉、労働基準監督署の介入などといった事例を経験しないことには、どうしても見えてこない視点も存在します。

そこで、厚生労働省が公表しているモデル例を参照しながら、使用者・会社側弁護士の視点で、就業規則のチェックポイントを解説したいと思います。

なお、モデル例は平成25年4月に公表されていたパターンを参照しています。

第6章 賃金

(賃金の構成)
第29条 賃金の構成は、次のとおりとする。
       ――基本給
|           |―家族手当
|           |―通勤手当
賃金 ――――手 当――|―役付手当
|           |―技能・資格手当
|           |―精勤手当
|           |―時間外労働割増賃金
――割増賃金  |―休日労働割増賃金
|           |―深夜労働割増賃金


一昔前の会社であれば、上記のような賃金構成をとるところが多かったのですが、賃金制度の見直しが進む昨今では、たくさんの手当てをつけるべきか議論のあるところです。
少なくとも支給実績の内容な手当てを就業規則または賃金規程に残したままにしていた場合、あとで(多くは退職後に)賃金未払いとして請求を受けることになってしまいますので、早めに見直しを行うべきでしょう。

 

(基本給)
第30条 基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。


これについてもよく見かける内容ではあるのですが、いわゆる能力給を採用するのであれば、こういった抽象的なものではなく、人事評価に基づく考課表をもとに基本給が定められる旨の明記が必要です。

 

(家族手当)
第31条 家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。
① 配偶者      月額      
② 18歳未満の子
1人につき    月額      
③ 65歳以上の父母
1人につき    月額      
(通勤手当)
第32条 通勤手当は、月額    円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。

(役付手当)
第33条 役付手当は、以下の職位にある者に対し支給する。
部長     月額       
課長     月額       
係長     月額       
2 昇格によるときは、発令日の属する賃金月から支給する。この場合、当該賃金月においてそれまで属していた役付手当は支給しない。
3 降格によるときは、発令日の属する賃金月の次の賃金月から支給する。

(技能・資格手当)
第34条 技能・資格手当は、次の資格を持ち、その職務に就く者に対し支給する。
安全・衛生管理者(安全衛生推進者を含む。)      月額      
食品衛生責任者                                         月額      
調理師                                                   月額      
栄養士                                                   月額      

(精勤手当)
第35条 精勤手当は、当該賃金計算期間における出勤成績により、次のとおり支給する。
  ① 無欠勤の場合                         月額      
  ② 欠勤1日以内の場合                     月額      
2 前項の精勤手当の計算においては、次のいずれかに該当するときは出勤したものとみなす。
  ① 年次有給休暇を取得したとき
  ② 業務上の負傷又は疾病により療養のため休業したとき
3 第1項の精勤手当の計算に当たっては、遅刻又は早退  回をもって、欠勤1日とみなす。


上記にある「手当」を支給するか否かは任意です。したがって、法律上は基本給のみ支給するという形にしてもまったく問題ありません。
もちろん、福利厚生の観点から様々な手当てを支給することも問題ありませんが、こういった手当は次に述べる割増賃金を計算するに際して、基礎賃金に含められてしまうことが多いこと、つまり残業代として支給する格好になってしまいますので、要注意です。
なお、最近多い、「固定残業代、定額残業代、みなし残業代」制度を採用するのであれば、この箇所で「手当名」、「手当の定義(○時間分の所定外労働に対する賃金として支給すること)」、「手当分を超える残業が生じた場合は別途支給すること」等を明記する必要があります。特に、最近の裁判例の傾向から、深夜残業を除く残業代支払い義務が無い管理監督者に該当する労働者はほぼ皆無に等しいので、部長職などの管理職に支給されている「役付手当」については固定残業代として位置づけることができるよう早期に改訂を図るべきです。

 

(割増賃金)
第36条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
(1)   1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月  日を起算日とする。
①   時間外労働45時間以下・・・25
②   時間外労働45時間超~60時間以下・・35
③   時間外労働60時間超・・・・・50
④   ③の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間・・・35%(残り15%の割
増賃金は代替休暇に充当する。)
(2)1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分については、40
とする。この場合の1年は毎年    日を起算日とする。
(3)時間外労働に対する割増賃金の計算において、上記(1)及び(2)のいずれ
にも該当する時間外労働の時間数については、いずれか高い率で計算することとする。
2 割増賃金は、次の算式により計算して支給する。
(1) 月給制の場合
 ①   時間外労働の割増賃金

(時間外労働が1か月45時間以下の部分)
基本給+役付手当+技能・資格手当+精勤手当

1か月の平均所定労働時間数            ×1.25×時間外労働の時間数
(時間外労働が1か月45時間超~60時間以下の部分)
基本給+役付手当+技能・資格手当+精勤手当

1か月の平均所定労働時間数             ×1.35×時間外労働の時間数
(時間外労働が1か月60時間を超える部分)
基本給+役付手当+技能・資格手当+精勤手当

1か月の平均所定労働時間数             ×1.50×時間外労働の時間数
(時間外労働が1年360時間を超える部分)
基本給+役付手当+技能・資格手当+精勤手当

1か月の平均所定労働時間数             ×1.40×時間外労働の時間数
 ② 休日労働の割増賃金(法定休日に労働させた場合)
基本給+役付手当+技能・資格手当+精勤手当

1か月の平均所定労働時間数             ×1.35×休日労働の時間数
 ③ 深夜労働の割増賃金(午後10時から午前5時までの間に労働させた場合)
基本給+役付手当+技能・資格手当+精勤手当

1か月の平均所定労働時間数             ×0.25×深夜労働の時間数
(2)日給制の場合
 ① 時間外労働の割増賃金
(時間外労働が1か月45時間以下の部分)

     日給             役付手当+技能・資格手当+精勤手当

日の所定労働時間数   +     1か月の平均所定労働時間数× 1.25 × 時間外労働の時間数

(時間外労働が1か月45時間超~60時間以下の部分)

      日給            役付手当+技能・資格手当+精勤手当
日の所定労働時間数   +   1か月の平均所定労働時間数

× 1.35 × 時間外労働の時間数

(時間外労働が1か月60時間を超える部分)

      日給            役付手当+技能・資格手当+精勤手当
1日の所定労働時間数  +   1か月の平均所定労働時間数

× 1.50 × 時間外労働の時間数

(時間外労働が1年360時間を超える部分)         日給               役付手当+技能・資格手当+精勤手当
1日の所定労働時間数 +    1か月の平均所定労働時間数

× 1.40 × 時間外労働の時間数

 ② 休日労働の割増賃金

       日給            役付手当+技能・資格手当+精勤手当
日の所定労働時間数  +     1か月の平均所定労働時間数

× 1.35 × 休日労働の時間数

 ③ 深夜労働の割増賃金

      日給           役付手当+技能・資格手当+精勤手当
1日の所定労働時間数  +    1か月の平均所定労働時間数

× 0.25 × 深夜労働の時間数

(3)時間給制の場合
 ① 時間外労働の割増賃金
(時間外労働が1か月45時間以下の部分)             役付手当+技能・資格手当+精勤手当 
時間給 +    1か月の平均所定労働時間数

× 1.25 × 時間外労働の時間数

(時間外労働が1か月45時間超~60時間以下の部分)

 役付手当+技能・資格手当+精勤手当 
時間給 +    1か月の平均所定労働時間数

× 1.35 × 時間外労働の時間数

(時間外労働が1か月60時間を超える部分)

 役付手当+技能・資格手当+精勤手当 
時間給 +   1か月の平均所定労働時間数

× 1.50 × 時間外労働の時間数

(時間外労働が1年360時間を超える部分)

 役付手当+技能・資格手当+精勤手当 
時間給 +    1か月の平均所定労働時間数

× 1.40 × 時間外労働の時間数

 ② 休日労働の割増賃金

 

役付手当+技能・資格手当+精勤手当 
時間給 +     1か月平均所定労働時間数                          
           × 1.35 × 休日労働の時間数

 ③   深夜労働の割増賃金

 役付手当+技能・資格手当+精勤手当 
時間給 +      1か月の平均所定労働時間数

× 0.25 × 深夜労働の時間数

3 前項の1か月の平均所定労働時間数は、次の算式により計算する。
 (365-年間所定休日日数)×1日の所定労働時間          
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法定労働時間を超えて労働させた場合には2割5分以上法定休日(週1回又は4週4日)に労働させた場合には3割5分以上深夜(午後10時から午前5時までの間)に労働させた場合には2割5分以上の割増率で計算した割増賃金をそれぞれ支払わなければならないことは、ご承知の通りです。

この計算方法を示したのが上記規定となりますが、計算方法自体は法令上の根拠があることから、あえて規定する必要はないかもしれません。

ここで注意するべきは、①割増賃金の算定基礎から除外することができる賃金とその内容、②割増率と中小企業の特例です。

まず①ですが、割増賃金の算定基礎から除外することができる賃金として、家族手当や通勤手当のほか、別居手当、子女教育手当、住宅手当、退職金等臨時に支払われた賃金、賞与等1か月を超える期間ごとに支払われる賃金とされています。が、単にこの名称がつけていたから除外されるというわけではなく、その実質によって判断という留保がついています。例えば、マイホーム・賃貸を区別にせずに住宅手当を支給している場合、名称は住宅手当であっても基礎賃金から除外されることは無いとされています。

したがって、基礎賃金から除外される手当なのかは、慎重に吟味する必要があります。

次に②ですが、上記規定では60時間を超えた場合、年360時間を超えた場合と区分してありますが、大多数の中小企業はこの区分は不要です。つまり、原則通りの2割5分で問題ありません。したがって、次の表に当てはまる中小企業は誤解を招かないためにも、第36条第1項のうち(1)③④、(2)(3)に関する内容は削除するべきです。

【適用が猶予される中小企業】

 業種  資本金の額または
出資の総額
 常時使用する
労働者の数
 小売業  5,000万円以下 又は  50人以下
 サービス業  5,000万円以下 又は  100人以下
 卸売業  1億円以下 又は  100人以下
 その他  3億円以下 又は  300人以下
※第37条と第38条は中小企業には馴染が薄いと思われるため説明省略
(休暇等の賃金)
第39条 年次有給休暇の期間は、所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支払う。
2 産前産後の休業期間、育児時間、生理休暇、母性健康管理のための休暇、育児・介護休業法に基づく育児休業期間、介護休業期間及び子の看護休暇期間、裁判員等のための休暇の期間は、無給 / 通常の賃金を支払うこととする。
3 第9条に定める休職期間中は、原則として賃金を支給しない(  か月までは  割を支給する)。


上記第2項、第3項では選択肢がありますが、無給と定めてもまったく問題ありません。福利厚生をどこまで充実させるべきかという観点から決めればよいでしょう。

 

(臨時休業の賃金)
第40条 会社側の都合により、所定労働日に労働者を休業させた場合は、休業1日につき労基法第12条に規定する平均賃金の6割を支給する。ただし、1日のうちの一部を休業させた場合にあっては、その日の賃金については労基法第26条に定めるところにより、平均賃金の6割に相当する賃金を保障する。


この規定ですが、例えば、勤務態度の悪い従業員を帰宅させた場合(懲戒処分を除く)、不正行為の調査のため自宅待機にさせた場合にも適用があります。

そして、就業規則及び労働基準法上は平均賃金の6割と定められていても、上記のような事例であれば最終的には10割の満額支払いになると考えられます。

このような規定があっても6割の支払いで済むのは、かなり限定的と考えた方がよいかもしれません。

 

(欠勤等の扱い)
第41条 欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数又は時間分の賃金を控除する。
2 前項の場合、控除すべき賃金の1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。
(1)月給の場合
基本給÷1か月平均所定労働時間数
(1か月平均所定労働時間数は第36条第3項の算式により計算する。)
(2)日給の場合
基本給÷1日の所定労働時間数

 

いわゆる「ノーワーク、ノーペイ」の原則であり、勤務していない以上、賃金支払い義務が無いことは当然であり、当たり前のことを規定したものとなります。

 

(賃金の計算期間及び支払日)
第42条 賃金は、毎月  日に締め切って計算し、翌月  日に支払う。ただし、支払日が休日に当たる場合は、その前日に繰り上げて支払う。
2 前項の計算期間の中途で採用された労働者又は退職した労働者については、月額の賃金は当該計算期間の所定労働日数を基準に日割計算して支払う。
(賃金の支払と控除)
第43条 賃金は、労働者に対し、通貨で直接その全額を支払う。
2 前項について、労働者が同意した場合は、労働者本人の指定する金融機関の預貯金口座又は証券総合口座へ振込により賃金を支払う。
3 次に掲げるものは、賃金から控除する。
  ① 源泉所得税
  ② 住民税
  ③ 健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の保険料の被保険者負担分
  ④ 労働者代表との書面による協定により賃金から控除することとした社宅入居料、財形貯蓄の積立金及び組合費


労働基準法第24条を受けた規定であり、内容それ自体は留意する必要はありません。

なお、実務上よく問題となるのは、上記第43条に第2項に関連し、賃金支払先の金融機関口座を会社側が指定することができるのかという点です。

結論から言えば、金融機関を指定することができません。この結果、振込手数料は会社負担となります。振込手数料の支払いを回避したいのであれば、労働基準法第24条の原則通り、支給日に手渡しするほかないと考えられます。

 

(賃金の非常時払い)
第44条 労働者又はその収入によって生計を維持する者が、次のいずれかの場合に該当し、そのために労働者から請求があったときは、賃金支払日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払う。

  ① やむを得ない事由によって1週間以上帰郷する場合
  ② 結婚又は死亡の場合
  ③ 出産、疾病又は災害の場合
  ④ 退職又は解雇により離職した場合


これは労働基準法第25条を受けて規定されているものであり、特段問題はないと考えられます。

 

(昇給)
第45条 昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年  月  日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。
2 顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず昇給を行うことがある。
3 昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。


年功序列型の右肩上がりの賃金体系であれば、このような規定を設けてもよいのですが、最近多い能力給型であれば、昇給のみならず、降給もあることも明記するべきでしょう。

 

(賞与)
第46条 賞与は、原則として、下記の算定対象期間に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して下記の支給日に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。

算定対象期間 支給日
     日から    日まで      
     日から    日まで      


2 前項の賞与の額は、会社の業績及び労働者の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する。

賞与それ自体は支給義務がありませんので、このような条項を設けるか否かは全くの任意となります。

もし賞与に関する規定を設けるのであれば、上記以外にさらに「賞与の支給日に在籍している労働者に限り支給する」という趣旨の文言を追加で入れるのも一案です。

※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。

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