弁護士による就業規則チェックポイント②(服務規律)

就業規則の作成は社会保険労務士の先生にお願いして作成してもらったり、社長自らがインターネットや書籍などを見ながら作成したりすることが多いようです。

就業規則を作成することは、労務トラブルによるリスクを低減させるためにも非常に有効なことです。

ただ、実際の現場のトラブル、特に労働裁判や労働審判、労働組合による団体交渉、労働基準監督署の介入などといった事例を経験しないことには、どうしても見えてこない視点も存在します。

そこで、厚生労働省が公表しているモデル例を参照しながら、使用者・会社側弁護士の視点で、就業規則のチェックポイントを解説したいと思います。

なお、モデル例は平成25年4月に公表されていたパターンを参照しています。

第3章 服務規律

(服務)
第10条 労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。
(遵守事項)
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。
①   許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
②   職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
③   勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
④   会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
⑤   在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しな
いこと。
⑥   許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
⑦   酒気を帯びて就業しないこと。
 ⑧ その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

トラブル対応を行う弁護士としては、一番整備してほしいところが、実は服務規律の部分です。

何が禁止されているのか、されていないのか常識でわかるだろうと思われるかもしれませんが、裁判や団体交渉等のトラブルになった場合、「明文化されていない以上、禁止されていない」という傾向になりがちだからです。つまり、たとえ常識と思われる事項があったとしても、就業規則上は逐一書いておかないことには通用しないと考えておくべきです。

特に最近では、SNS(ツイッター、ブログ、フェイスブック等)による情報漏えい、炎上騒ぎが頻発していますので、第11条④⑤のような抽象的な規定ではなく、どういった情報は投稿禁止なのか具体的に規定することが必須ではないかと思われます。

ちなみに、某IT企業の就業規則見直しのお手伝いを行った際、就業規則の服務規律に何を規定するべきが検討した際に出てきた事項を、ご参考までに例示します(実際には取捨選択や実情に応じた修正が必要です)。

(1)常に健康に留意し、積極的な態度をもって勤務すること
(2)勤務時間を励行し、遅刻または早退するときは所属長に申し出ること
(3)欠勤する時または休暇を取得するときはあらかじめ所属長に申し出ること
(4)自己の業務上の権限を越えて専断的なことを行わないこと
(5)会社の業務上の機密および会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと
(6)会社の車輪、機械、器具その他備品を大切にして消耗品の浪費を慎むこと
(7)職場の整理整頓に努め、常に清潔を保つようにすること
(8)会社の許可なくソフトウェアのコピーを行わないこと
(9)お客様に対しては、常に明るく親切に対応すること
(10)酒気を帯びて勤務しないこと
(11)相手方の意に反する性的な言動により、その者に不利益な労働条件を与えたり、就業環境を不快なものにする行為をしないこと
(12)始業時刻にはすぐに業務に取り掛かれるようにすること
(13)セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメントなどにあたる行為をして、他の従業員、取引先その他関係者に迷惑をかけないこと
(14)従業員同士または取引先との金銭の貸借を行わないこと。なお、金銭貸借時の保証人になりあうことも同様とする。
(15)業務の遂行にあたっては、会社の方針を尊重するとともに、上長・同僚と協力し合って、円滑なチームワークに努めること。
(16)会社または会社に属する個人を中傷、誹謗し、あるいはその名誉、信用を傷つけないこと
(17)私事に関する金銭取引その他証書類に会社の名称を用いないこと
(18)職制に定められた所属長の命令又は指示をよく守り、率先して、その職責を遂行すること
(19)会社の掲げる方針や約束事、命令、注意、通知事項を必ず遵守すること。
(20)所定の場所以外で喫煙し、又はたき火、電熱器などの火器を許可なく使用しないこと
(21)勤務時間中は、所属長の許可なく職場を離れないこと、また他の従業員の職務を妨害しないこと
(22)許可なく職務以外の目的で会社の設備、車輌、機械、器具その他の物品を使用しないこと
(23)会社の許可なく、在籍のまま、他に雇用されたり、又は自己の営利を目的とする行為を行わないこと
(24)社内において、許可なく業務に関係のない印刷物等の配布又は掲示回覧しないこと
(25)会社の許可なく、会社の業務関係データ、資料その他一切の情報を個人のパソコンに取り込まないこと。
(26)業務はまじめに誠実に取り組み、社内の調和を乱す行為をしないこと
(27)他の従業員と共謀し会社の不利になるようなことを行ったり、そそのかしたり、教唆したりしないこと
(28)暴行、脅迫、傷害、監禁、賭博、窃盗、器物の破壊等の行為、または職場の風紀秩序を乱す行為、あるいは他人の業務を妨害する行為をしないこと
(29)職務上の地位を利用して自己の利益を図ったり、また、金品の貸借関係を結んだり、贈与、饗応の利益を受けたりしないこと
(30)会社の許可なく、みだりに外来者を職場内に立ち入らせないこと。また、外部の人に諸会社を撮影、スケッチ等をさせたり、会社内の物品を贈与しないこと
(31)外部から持ち込んだ記録媒体を会社のパソコンに挿入する時は、ウイルスチェックの実施後に行うこと
(32)業務上必要としない火器、凶器その他の危険と思われる物品を所持しないこと
(33)流言、悪口、侮辱、強要、勧誘、迷惑となる行為をしないこと
(34)会社の電話を私的使用しないこと
(35)会社のパソコンを使用して、私的なメールのやり取りを行わないこと
(36) 勤務時間内における会社からの電話・メールなどの連絡に対して、途絶えないようにすること
(37)会社の許可なく、残業しないこと(場外・場内)。
(38)正社員として、採用された者については、採用後1ヶ月以内にその年の年次計画書を提出すること。その後毎年、1月中に年次計画書を提出すること
(39)社内のグループウェアにより連絡する事があるので、業務上使用するPCにインストールして業務指示などを受け取れる状態にしておくこと
(40) 業務上取り扱いまたは取り扱った情報については、ソーシャルメディアポリシーに従い、在職中はもちろん退職後においても及び就業時間内外を問わず、他に開示、漏洩しないこと

(セクシュアルハラスメントの禁止)
第12条 性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。
(職場のパワーハラスメントの禁止)
第13条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動(例えば、暴行・傷害(身体的な攻撃)、脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)、隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)、私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)など)により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

第12条については、男女雇用機会均等法を持ち出すまでもなく、規定しておかないことには一切セクハラ対策をやっていなかったと言われても仕方がないくらい重要な条項ですので、必ず設けるべきです(当然のことながら、設けただけではダメですが)。

また、最近はパワハラ問題が労働相談事例で大きな比重を占めてきていますので、やはりこの程度の条項は設けておくべきでしょう。

(個人情報保護)
第14条 労働者は、会社及び取引先等に関する情報の管理に十分注意を払うとともに、自らの業務に関係のない情報を不当に取得してはならない。
2 労働者は、職場又は職種を異動あるいは退職するに際して、自らが管理していた会社及び取引先等に関するデータ・情報書類等を速やかに返却しなければならない。
(始業及び終業時刻の記録)
第15条 労働者は、始業及び終業時にタイムカードを自ら打刻し、始業及び終業の時刻を記録しなければならない。

(遅刻、早退、欠勤等)
16 労働者は遅刻、早退若しくは欠勤をし、又は勤務時間中に私用で事業場から外出する際は、事前に    に対し申し出るとともに、承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない理由で事前に申し出ることができなかった場合は、事後に速やかに届出をし、承認を得なければならない。
2 前項の場合は、第39条に定めるところにより、原則として不就労分に対応する賃金は控除する。
3 傷病のため継続して  日以上欠勤するときは、医師の診断書を提出しなければならない。


第14条から第16条については、トラブル事例を想定して特に留意するべきコメントはありません。あえて指摘するとすれば、第14条では標題が「個人情報保護」となっていますが、情報管理一般に関する内容ですので「個人情報曽田の業務情報の保護」が正確といったところでしょうか。

※上記はあくまでも一例です。案件ごとにより手順や結果が変わることもありますので、この点はご容赦願います。

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弁護士による就業規則チェックポイント①(総則、採用・異動)

弁護士による就業規則チェックポイント②(服務規律)

弁護士による就業規則チェックポイント③(労働時間、休憩、休日)

弁護士による就業規則チェックポイント④(休暇等)

弁護士による就業規則チェックポイント⑤(賃金)

弁護士による就業規則チェックポイント⑥(定年、退職及び解雇)

弁護士による就業規則チェックポイント⑦(退職金、安全衛生、職業訓練)

弁護士による就業規則チェックポイント⑧(表彰及び制裁)