弁護士による就業規則チェックポイント①(総則、採用・異動)

就業規則の作成は社会保険労務士の先生にお願いして作成してもらったり、社長自らがインターネットや書籍などを見ながら作成したりすることが多いようです。

就業規則を作成することは、労務トラブルによるリスクを低減させるためにも非常に有効なことです。

 

ただ、実際の現場のトラブル、特に労働裁判や労働審判、労働組合による団体交渉、労働基準監督署の介入などといった事例を経験しないことには、どうしても見えてこない視点も存在します。

そこで、厚生労働省が公表しているモデル例を参照しながら、使用者・会社側弁護士の視点で、就業規則のチェックポイントを解説したいと思います。

 

なお、モデル例は平成25年4月に公表されていたパターンを参照しています。

第1章 総則

総則には、一般的に就業規則の作成の目的や適用範囲等を規定します。

(目的)
第1条 この就業規則(以下「規則」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)第89条に基づき、    株式会社の労働者の就業に関する事項を定めるものである。
2 この規則に定めた事項のほか、就業に関する事項については、労基法その他の法令の定めによる。(適用範囲)
第2条 この規則は、    株式会社の労働者に適用する。
2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。(規則の遵守)
第3条 会社は、この規則に定める労働条件により、労働者に就業させる義務を負う。また、労働者は、この規則を遵守しなければならない。

第1条と第3条は当たり前のことを規定したものに過ぎず、あえて就業規則に記載しなければならないわけではありません。
ポイントは第2条、この就業規則がどの属性に分類される労働者に適用されるのかという点です。
労働者保護の見地から批判はあるかもしれませんが、使用者・会社側としては、いわゆる正社員と非正規雇用の社員(契約社員、パート、アルバイト等)とは処遇や労務管理を異にせざるを得ません。そうであるにもかかわらず、適用範囲を明確にしない場合、非正規雇用の社員にも正社員と同じ就業規則が適用されてしまい、色々と不都合が生じえます(例:賃金体系や退職金支給の有無、休職制度の適否、人事異動などの業務命令の可否、育児介護休暇の適用など)。
したがって、第2条第2項で規定されている通り、適用対象となる労働者を明確にし、適用対象外となる労働者は別の就業規則を作成するのが労務管理の基本となります。

第2章 採用、異動等

 

(採用手続)
第4条 会社は、入社を希望する者の中から選考試験を行い、これに合格した者を採用する。(採用時の提出書類)
第5条 労働者として採用された者は、採用された日から  週間以内に次の書類を提出しなければならない。
①   履歴書
②   住民票記載事項証明書
③   自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
④   資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。)
⑤   その他会社が指定するもの
2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。

第4条は当然のことを規定していますので、特にコメントはありません。
一方、第5条については、書類提出の期限を採用日以降にしていますが、これについては要注意です。時々あるのですが、身元保証書等の会社が指定する書類を勤務開始後いつまで経っても提出しない労働者が存在するからです。
提出期限については遅くとも勤務開始日まで、提出しない労働者は採用しないという方針をとるのであれば、内定時に提出させ、当該書類の提出をもって採用決定にすると前倒しにするべきでしょう(内定取り消し事由として書類不提出の場合を明記するのも一案です)。

(試用期間)
第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から  か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、この期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第49条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。

いまだに誤解があるのですが、試用期間中であっても、労働者との労働契約が成立している以上、簡単に解雇することはできません。特に、会社の期待する能力を持ち合わせていなかったとして解雇する場合は、会社が求める基準を客観化し、教育指導を徹底させたという履歴を残しておかないことには、不当解雇として争われた場合、使用者・会社和側にとっては厳しい判断になる可能性が高いと言わざるを得ません。
もし、試用期間を会社が当該労働者の能力を見極める期間であり、試用期間満了と同時に残ってもらうか去ってもらうか決めたいというのであれば、試用期間に相当する有期雇用契約を締結し、期間満了をもって社員として登用するか否かを決めるというプロセスを踏んだ方が安全です。ただし、この場合、有期雇用=非正規雇用となりますので、求人票や求人広告には正社員募集と記載するわけにはいかないことには注意が必要かと思います。

(労働条件の明示)
第7条 会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。

これについても就業規則の内容としては問題ありません。
ただ、現場実務としては、労働条件通知書はどこまでいっても使用者・会社側が一方的に提示する書面に過ぎず、後で労働者より「そのような労働条件には合意していない」と言われてしまうリスクがあります。
したがって、労働条件通知書ではなく、労働契約書という形で、労働者からの署名押印をとる格好にするべきです。
また、労働条件の明示を行う場合、最近多い賃金体系である「固定残業代(定額残業代、みなし残業代)」を用いるのであれば、労働条件通知書に、固定残業代に該当する賃金名目と何時間分の残業代が含まれるのかを明記しておくことも重要です(当然のことながら、就業規則や賃金規程も固定残業代制度を採用していることが前提となります)。

(人事異動)
第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

これは使用者・会社側による配置転換の根拠となる条項となります。裏を返せば、何かの際に配置転換を行おうとした場合、直接的な明文上の根拠がなくなってしまうため、配置転換を拒絶された場合の対応に苦慮することになります。
したがって、この条項は必須と考えるべきでしょう。

(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が  か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき   ・・・●年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき  ・・・必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

まず確認していただきたいのが、休職制度を設けるか否かは全く会社の裁量です。したがって、休職制度を設けないという選択肢をとってもまったく問題ありません。
ただ、多くの企業では休職制度を設けていること、私傷病を理由に直ちに解雇することが果たして適切と言えるのか、非常に微妙な問題があることからすれば、設けた方が望ましいのではないかと考えられます。
そして、設けるのであれば、最近問題となっているメンタルヘルス問題に対応できる休職制度にするべきです。例えば、第1項①では欠勤期間が継続して○カ月となっていますが、メンタルヘルス問題の特徴は、断続的な出勤を繰り返すということです。つまり継続して長期欠勤を行わない事例がありますので、「同一傷病による欠勤が通算して○日を超えた場合」といった形に修正したほうが対処しやすいと思われます。

なお、メンタルヘルス問題に対応するべく、他にも、
①私傷病休職制度の適用対象者の絞り込み
②メンタルヘルス不調疑義者に対する受診命令の根拠規定の整備
③出勤停止措置の根拠規定の整備
④私傷病休職命令の要件の整備
⑤休職期間中の診断書提出義務の根拠規定の整備
⑥復職の判断基準の整備
⑦リハビリ出社・リハビリ出勤(連動して賃金規程も要検討)
⑧休職期間の通算規定の整備
といったものが考えられます。

※上記はあくまでも一例です。案件ごとにより手順や結果が変わることもありますので、この点はご容赦願います。

就業規則に関する記事一覧

弁護士による就業規則チェックポイント①(総則、採用・異動)

弁護士による就業規則チェックポイント②(服務規律)

弁護士による就業規則チェックポイント③(労働時間、休憩、休日)

弁護士による就業規則チェックポイント④(休暇等)

弁護士による就業規則チェックポイント⑤(賃金)

弁護士による就業規則チェックポイント⑥(定年、退職及び解雇)

弁護士による就業規則チェックポイント⑦(退職金、安全衛生、職業訓練)

弁護士による就業規則チェックポイント⑧(表彰及び制裁)