弁護士による就業規則チェックポイント⑦(退職金、安全衛生、職業訓練)

 就業規則の作成は社会保険労務士の先生にお願いして作成してもらったり、社長自らがインターネットや書籍などを見ながら作成したりすることが多いようです。

就業規則を作成することは、労務トラブルによるリスクを低減させるためにも非常に有効なことです。
ただ、実際の現場のトラブル、特に労働裁判や労働審判、労働組合による団体交渉、労働基準監督署の介入などといった事例を経験しないことには、どうして
見えてこない視点も存在します。

そこで、厚生労働省が公表しているモデル例を参照しながら、使用者・会社側弁護士の視点で、就業規則のチェックポイントを解説したいと思います。

なお、モデル例は平成25年4月に公表されていたパターンを参照しています。

第8章 退職金

(退職金の支給)
第50条 勤続  年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続  年未満の者には退職金を支給しない。また、第61条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。
2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。


退職金は支給義務がありませんし、最近では退職金制度が存在しないという会社も増加してきているようです。
もっとも、退職金制度を設けるのであれば、就業規則に明記する必要があることから、対象者は誰か(正社員のみか、勤続年数による制限を設けるのか等)、どういった条件にて支給するのか(懲戒解雇の場合は支給しないのか、退職時の引き続き不十分の場合には減額するのか等)について定めておくべきです。

(退職金の額)
第51条 退職金の額は、退職又は解雇の時の基本給の額に、勤続年数に応じて定めた下表の支給率を乗じた金額とする。

勤続年数 支給率
5年未満 1.0
5年~10年 3.0
10年~15年 5.0
15年~20年 7.0
20年~25年 10.0
25年~30年 15.0
35年~40年 20.0
40年~ 25.0

2 第9条により休職する期間については、会社の都合による場合を除き、前項の勤続年数に算入しない。


いわゆる年功序列型の昔ながらの退職金計算方法が記載されていますが、退職金の計算方法は会社の裁量に委ねられています。例えば、中退共からの支給額を退職金とすることでもまったく問題ありません。
したがって、会社の事情に合わせて退職金の計算方法を定めれば足ります。

 

(退職金の支払方法及び支払時期)
第52条 
退職金は、支給事由の生じた日から  か月以内に、退職した労働者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う。

 
第52条はよくある条項なのですが、問題事例としてよくあるのは、労働者(従業員)死亡の場合における退職金の支払先です。上記では「遺族」となっていますが、この遺族とは相続人を指すのか、配偶者のみを指すのか一義的に解釈することができません。

したがって、遺族という抽象的な記述ではなく、例えば「生計を一にする配偶者」といった記載を行うべきです。

第9章 安全衛生及び災害補償

(遵守事項)
第53条 会社は、労働者の安全衛生の確保及び改善を図り、快適な職場の形成のために必要な措置を講ずる。
2 労働者は、安全衛生に関する法令及び会社の指示を守り、会社と協力して労働災害の防止に努めなければならない。
3 労働者は安全衛生の確保のため、特に下記の事項を遵守しなければならない。
① 機械設備、工具等の就業前点検を徹底すること。また、異常を認めたときは、速やかに会社に報告し、指示に従うこと。
② 安全装置を取り外したり、その効力を失わせるようなことはしないこと。
③ 保護具の着用が必要な作業については、必ず着用すること。
④ 喫煙は、所定の場所以外では行わないこと。
⑤ 立入禁止又は通行禁止区域には立ち入らないこと。
⑥ 常に整理整頓に努め、通路、避難口又は消火設備のある所に物品を置かないこと。
⑦ 火災等非常災害の発生を発見したときは、直ちに臨機の措置をとり、    報告し、その指示に従うこと。


上記第53条はよく見かける条項であり、内容自体は問題ないと考えられます。

なお、労働安全衛生でよく会社が労働基準監督署より指摘を受ける事項として、安全衛生推進者等の選任に関する事項です。これは、常時使用する労働者数が10人以上50人未満の事業場で必要となります。また、一定の業種及び労働者数が一定規模以上の事業場においては総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者及び産業医の選任が義務付けられています。

従業員数が急激に増加した会社では、うっかり忘れていることが多く、労働基準監督署の検査では必ずと言っていいほど是正を受ける事項ですので、忘れないようにしてください。

 

(健康診断)
第54条 労働者に対しては、採用の際及び毎年1回(深夜労働に従事する者は6か月
ごとに1回)、定期に健康診断を行う。
2 前項の健康診断のほか、法令で定められた有害業務に従事する労働者に対しては、特別の項目についての健康診断を行う。
3 長時間の労働により疲労の蓄積が認められる労働者に対し、その者の申出により医師による面接指導を行う。
4 第1項及び第2項の健康診断並びに前項の面接指導の結果必要と認めるときは、一定期間の就業禁止、労働時間の短縮、配置転換その他健康保持上必要な措置を命ずることがある。


上記第54条については、内容的には一般的なものだと思われます。

健康診断について問題になりうるのは、就業規則の表現というよりも、健康診断実施に際しての費用の取り扱いについてです。結論から言えば、健康診断の費用については会社(使用者)が負担する必要があります。一方、定期健康診断を就業時間中に行った場合の賃金支払い義務については、法律上は賃金支払い義務がありません。そこで、現場実務では、就労時間外で健康診断に行かせたり、年次有給休暇を利用させたりすることが多いようです。

 

(健康管理上の個人情報の取扱い)
第55条 会社への提出書類及び身上その他の個人情報(家族状況も含む)並びに健康診断書その他の健康情報は、次の目的のために利用する。
①  会社の労務管理、賃金管理、健康管理
②  出向、転籍等のための人事管理
2 労働者の定期健康診断の結果、労働者から提出された診断書、産業医等からの意見書、過重労働対策による面接指導結果その他労働者の健康管理に関する情報は、労働者の健康管理のために利用するとともに、必要な場合には産業医等に診断、意見聴取のために提供するものとする。


就業規則の内容としてはこの程度でよいかと思いますが、従業員の個人情報については、個人情報保護法の適用があり、これを受けて厚生労働省がガイドラインを公表しています。

したがって、現場実務としては、このガイドラインに沿った運用が必要となります。

(安全衛生教育)
第56条 労働者に対し、雇入れの際及び配置換え等により作業内容を変更した場合、その従事する業務に必要な安全及び衛生に関する教育を行う。
2 労働者は、安全衛生教育を受けた事項を遵守しなければならない。
(災害補償)
第57条 労働者が業務上の事由又は通勤により負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合は、労基法及び労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に定めるところにより災害補償を行う。

これらの内容は、労働安全衛生法や労働者災害補償法の問題となりますので、就業規則の内容としてはこの程度でよいかと思います。

なお、あえて誤解を恐れずにいうと、(広義での)社会保険の負担を嫌う会社(事業者・使用者)が一定数存在していますが、労災保険については加入しておくべきです。労働災害に対する会社の責任は多額になりがちであるところ、労災保険でカバーされる支給額は使用者にとって大きなメリットがあるからです。

 

第10章 職業訓練

(教育訓練)
第58条 会社は、業務に必要な知識、技能を高め、資質の向上を図るため、労働者に対し、必要な教育訓練を行う。
2 労働者は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合には、特段の事由がない限り教育訓練を受けなければならない。
3 前項の指示は、教育訓練開始日の少なくとも  週間前までに該当労働者に対し文書で通知する。


一般的な内容としてはこの程度でよいかと思います。

しかし、行政が設ける様々な補助金制度の適用を受ける場合、事実上、行政が条件化している社内規程を定める必要があります。支給のために社内規程だけを設けるのは考えものですが、状況に応じて見直しが必要となる条項であることを付言しておきたいと思います。

※上記はあくまでも一例です。案件ごとにより手順や結果が変わることもありますので、この点はご容赦願います。 

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弁護士による就業規則チェックポイント④(休暇等)

弁護士による就業規則チェックポイント⑤(賃金)

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