【間違えやすい賃金実務⑧】割増賃金支払いの必要性

質問

次のような場合、割増賃金を支払う必要があるのでしょうか。

 

① 部長職または課長職など役付の従業員

② 時間外割増分を毎月定額で支払っている従業員

③ 代休を付与した従業員

 

回答

① 部長職または課長職など役付の従業員と割増賃金について

部長職や課長職の役付の従業員については、一般的には管理職と呼ばれます。

このため労働基準法41条2号に定める「管理監督者」に該当するのではないかと思われるかもしれませんが、一般的な「管理職」という概念と法律が定める「管理監督者」は全く概念が異なります。

 

労働基準法41条2号に定める「管理監督者」は、経営者と一体的な立場にある者とされています。

この点、多くの会社では、部長職や課長職の場合、部下を監督する権限は付与されています。

が、社長や役員のような、経営者として会社経営を左右するような権限まで付与されているわけではありません。

 

従って、多くの場合、単に部長や課長という職制が付与されていたとしても、「管理監督者」に該当しないことになります。

例えば、世間で注目を浴びたマクドナルドの店長について裁判所は、管理監督者に該当しないと判示したことは記憶に残っているかと思います。

 

以上のことから、会社としては、部長職や課長職だから残業代を支払わないという対応は避けるべきです。

そして、部長職や課長職に対して役付手当を支払っているのであれば、当該手当を次に述べる「固定残業代」として位置付けることでリスクヘッジを図ることが、現行の労働法にマッチングするかと思われます。

 

② 時間外割増分を毎月定額で支払っている従業員と割増賃金について

固定残業代(定額残業代やみなし残業代など色々な呼び方があります)については、色々と誤解がされているのですが、(1)基本給に定額の残業代を含めた場合、(2)基本給とは別に定額の残業代を支払う場合、とでは有効と判断されるか否かの結論が大きく異なってくると考えた方が良いかと思います。

 

というのも、裁判所の傾向としては、固定残業代の有効要件として、社内規程上に根拠を有すること、何時間分に該当するのか労働契約書等で明示すること、手当をおける時間外労働が発生した場合には精算を行うこと、が最低でも必要と判断しています。

 

この点、(1)の場合、基本給に含めて残業代を支払っていますので、「何時間分に該当する残業代なのか」が明確になりません。

従って、(1)の場合は、ほぼ固定残業代の有効要件を充足せず、固定残業代としての支払いは無効、結果として全額の割増賃金支払義務を負うことになると考えられます。

 

一方、(2)の場合、上記有効要件を充足した制度設計さえ行い、従業員への周知を図れば、固定残業代として有効と判断される可能性が高いと考えられます。

 

そして、この様な相違点に着目するのであれば、手当を固定残業代として位置付けたい場合はもちろん、会社としては固定残業代として支払っているつもりという場合であれば、上記有効要件を充足するよう、今すぐ社内規程の整備などを行うべきかと思います(未払い残業代紛争が生じてから固定残業代制度を導入しても手遅れと言わざるを得ません)。

 

③ 代休を付与した従業員と割増賃金

代休と振替休日は、よく誤解されているのですが、

・代休=休日労働を行った後で、代償として他の労働日を休日とすること。
・振替休日=事前に休日と労働日の交換を行うこと。

と全く概念が異なります。

 

 要は、休日付与の手続きが「前」か「後」という違いに過ぎないのですが、割増賃金の支払いの有無では大きな違いが生じてきます。
 それは、代休の場合、休日労働を行った事実が存在しますので、法定休日であれば35%増しで割増賃金を支払う必要があります。

 

 一方、振替休日の場合、休日労働を行った事にはなりませんので、少なくとも休日分の割増賃金を支払う必要はありません(もっとも、週40時間を超過した場合の時間外労働割増賃金の支払義務は生じます)。
 ※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。