「X-Tech」ビジネスを始める前の法務戦略(第18回 HRTech⑤ AIによる代替と人事)

1.はじめに

HRTechの進展は利便性をもたらしますが、一方で従来“人”がやっていた業務を奪い取ることにもなります(AIによる業務の代替)。その結果、HRTechにより代替されてしまった業務を担当していた従業員の処遇をどうするのかという問題がどうしても生じます。
今回はこの処遇問題について検討を行います。

2.配置転換

AIにより、企業の中である特定部門が不要になる、又は一部業務をAIが代替するということは現実に起こり始めています。この結果、当該部門・業務に従事していた従業員をどのように処遇するのかが問題となります。
この点、日本の労働法の解釈論は、未だに長期雇用システムを前提にしたものですので、AIに代替された業務に従事していた従業員を直ちに解雇してよいという結論にはなりません。解雇を回避するべく、別の業務に従事できるよう教育訓練を施し、配置転換することで可能な限り雇用を維持するという対応を使用者(事業経営者)に求めるのが伝統的な解釈論となります。この裏返しとして、従業員は原則として、使用者(事業経営者)からの配置転換命令を受け入れなければならない義務を負うことになります。もっとも、配置転換といっても、(1)同一事業所内での部署変更に留まる場合もあれば、(2)勤務地の変更(いわゆる転勤)という場合もあります。この点、(2)については、ワークライフバランスや育児介護への悪影響防止といった観点から、徐々に使用者(事業経営者)の裁量は狭まりつつあることに注意が必要です。
一方で例外的に、従業員は配置転換命令を受け入れる必要がないという場面もあります。いわゆる職種限定契約や勤務地限定契約を締結している従業員の場合です。ただ、この限定契約は、この道数十年の職務経験に従事したといった事情だけでは認められません。労使双方が意識的に限定することを合意した場合に限定されるのですが、最近では、法律に基づき有期雇用から無期転換した従業員について「限定正社員」として取扱い、職種や勤務地の限定契約を締結する場面が増えてきているようです。今後はこの限定正社員が従事する業務がAIにより代替された場合にどう対処するのか、という方向で問題がクローズアップされるかもしれません。このような限定契約を締結している従業員、あるいは上記の原則的には配置転換命令を受け入れなければならないにもかかわらず拒否した従業員については、配置転換により雇用維持が難しいことになります。そうすると、次に記載する「(普通)解雇」又は「整理解雇」を検討せざるを得ないこととなります。

3.解雇

以前「HRTech②」で解雇について触れているのですが、そこでは解雇に相当する従業員を絞り込むための判断としてAIを用いた場合の問題点を解説しました。ここでは、AIにより代替されてしまった業務に従事していた従業員を解雇する理由として、「AI代替により業務がない」という主張が正当性を持つのか、という観点で検討を行います。
上記2.でも記載した通り、伝統的な労働法の解釈論に従えば、解雇回避努力(別の業務に従事できるよう教育訓練を施し、配置転換すること)が求められます。また、使用者(事業経営者)の都合による解雇となる以上、いわゆる整理解雇ということになりますので、希望退職の募集や個別の退職勧奨といった観点からの解雇回避努力も必要となります。
ちなみに、当然のことながら整理解雇が認められるための4用件・要素について考慮しなければなりません。この点、AIによる業務代替にすぎない場合、果たして「整理解雇の必要性」という要件・要素は認められるのか(通常は経営状態が思わしくないといった場面を前提しています)悩ましいところがあります。このため、ケースによっては、配置転換命令を拒否したことによる普通解雇の可否を別途検討する必要があるかもしれません。

(2020年2月10日更新)

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。