「X-Tech」ビジネスを始める前の法務戦略(第16回 HRTech③ 労働時間管理)

1.はじめに
HRTech(ヒューマンリソーステック)につき、採用と退職という、いわば労働契約の入口と出口の場面について検討を行いました。今回からはHRTechを利用した労働管理として、労働時間管理について検討していきます。

2.モニタリングにより判明した業務外行為と賃金控除
オフィス内勤務の場合、近時では1人1台のパソコンが貸与されていることが多い状態です。このパソコンに対して例えばモニタリングソフトを導入することで、当該パソコンの稼働状況を調査することで、業務を遂行しているのか、業務外行動(業務とは関係のないネット記事の閲覧等のサボリ行為)を行っているのかが明らかとなります。
理屈の上では、業務外行動は労務の提供には当たりません。したがって、ノーワークノーペイの原則により、業務外行動の時間を自動的に検出した上で、当該時間に相当する賃金分について控除するということが可能となります。
ただ、ここまで厳格・形式的に運用してよいかは色々と検討するべき事項があります。
例えば、特に最近問題視される傾向が強いタバコ休憩については賃金を控除しないのに、業務とは関係のないネット記事の閲覧の場合は賃金を控除されるとなると、バランスを欠くものと言わざるを得ません。また、そもそも論として、一見すると業務とは関係のないネット記事のように見えても、実は業務との関係性を有する可能性もあり得ます(例えば、取引を開始するに先立ち、取引候補者の評判を調査することを目的としてネット掲示板を閲覧していた場合など)。なお、当然のことながら、こういったモニタリングを行うことがプライバシー権と衝突しないか、仮に法的には衝突しないとしても従業員のモチベーション低下(四六時中監視されていることへの不安・困惑・緊張など)につながらないか等も検討する必要があるかと考えられます。

3.遠隔監視と事業場外みなし労働制

HRTechと大袈裟な(?)な言葉を用いなくても、今でも携帯端末(スマートフォン等)の発達により、たとえ会社(事業所)外にいても、いつでも外にいる従業員と連絡が取れる状態となっています。
さて、もともと事業場外みなし労働は、外回りの営業従業員等とは連絡が取りづらく、会社(使用者)による時間管理が困難であることから、あらかじめ定めた労働時間分について業務従事したものとみなす制度です。その点を踏まえると、上記でも記載した通り、現代ではスマートフォン等の携帯端末によって、理屈の上ではいつでもどこでも従業員と会社は連絡を取り合える状況です。また、ニュース等でも話題になった阪急トラベルサポート事件(最判平成26年1月24日)では、結果的には外勤の添乗員について事業場外みなし労働制の適用を否定しています。このような社会情勢の変動があることから、少なくとも外勤だから事業場外みなし労働制が適用されると安易に考えることは危険といわざるを得ません。
このように現時点でも事業場外みなし労働制の適用範囲は徐々に狭まってきている状況下ですので、HRTechの名のもとに、内勤・外勤を問わず従業員の行動を監視できる技術が導入された場合、会社(使用者)は否が応でも従業員の行動管理ができる、つまり労働時間の管理ができることになります。もちろん監視の目の届かないサボリ気味従業員対策として有用な策になる面もありますが、一方で一部の使用者にとっては残業代抑制策として用いていた面もあると考えられます。HRTechを導入することで、労使双方ごまかしがきかなくなると考えたほうが良いかもしれません。
ちなみに、従業員の遠隔監視ができることは、いわゆる持ち帰り残業における労働時間該当性、テレワークにおける労働時間管理についても、当然影響を及ぼすことになります。社会一般の動き裁判例の動向等を注視する必要があること留意してください。

(2019年12月11日更新)

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。