「X-Tech」ビジネスを始める前の法務戦略(第15回 HRTech② 退職・解雇に関して)

1.はじめに

HRTech(ヒューマンリソーステックにつき、前回は人事採用の場面を検討しました。今回は真逆の退職・解雇(雇用契約の終了)の場面について検討を行います。

2.人員整理(いわゆるリストラ)とHRTech

(1)退職勧奨
いわゆるリストラを行う場合、「希望退職の募集」⇒「退職勧奨」⇒「整理解雇」という手順を踏むのが通例です。
この点、希望退職の募集については、早期退職に関する条件を検討した上で、労働者自らが退職の申出を行うことから、あまりHRTechを活用することはないかと思います。
しかし、退職勧奨を行う場合、誰を退職勧奨の対象とするべきなのかについて、HRTechを活用するという話はありうることです。ただ、HRTechに基づく診断結果のみを根拠として退職勧奨を突き進めてよいかと問われると話は違ってきます。例えば、いわゆる“退職強要”という言葉がありますが、HRTechの診断結果に納得できない対象労働者に対し、上司等の担当者が強引に辞めるよう仕向けることは不法行為に該当しますし、パワーハラスメントといわれるリスクも存在します。
では、HRTechの診断結果に基づき、自動的に退職勧奨が行われるという場合はどうでしょうか。要は上司等の担当者に代わって、コンピューターが退職の告知を行うわけですが、告知を行うことそれ自体は特に問題にはならないように思われます。しかし、そもそも論としてHRTechの診断結果について果たして正当性・妥当性があるのかを考えた場合、現状では不透明といわざるを得ません。このため、HRTechの診断プロセスの不当性を指摘した上で、退職勧奨の違法性を主張してくるリスクは存在するように思われます。その意味で、現状ではHRTechの診断結果はあくまでも対象労働者を判断するための一材料にすぎず、最終的には“人”(経営者を含む担当者)の判断を介在させたほうが無難ではないかと考えられます。
(2)整理解雇
整理解雇を行う場合、①解雇の必要性(経営状態の悪化等)、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性、という四要素(要件)を検討する必要があります。HRTechを活用する場面といえば③の問題になります(なお、AIテクノロジー全体の問題として考えた場合、AIにより人間の仕事が奪われることになりますので、①の問題がクローズアップされることになります)。
すなわち、整理解雇の対象労働者としてHRTechが診断した場合、果たしてその診断結果だけで③の要素(要件)を充足すると言えるのかが問題となりえます。
この点については、上記(1)の退職勧奨の対象労働者の選定の問題と重複してくるのですが、現状ではHRTechの診断結果について果たして正当性・妥当性については疑義を挟まれる余地が大きいと言わざるを得ません。HRTechが診断するための全体の事実関係に不備がないことはもちろん、判断項目の公平性・客観性などをプロセスの見える化を図りつつ、最終的には“人”(経営者を含む担当者)の判断を介在させる必要があるのではないでしょうか。
(3)有期雇用契約における更新判断
有期雇用契約の場合、一般的には更新するか否かについては雇用主(会社)が判断するという方法がとられています。
では、この更新の有無判断について、HRTechが診断することを契約書に明記し、かつ雇用契約上HRTechの診断結果に従うことに労働者が同意している場合、果たして有効といえるのでしょうか。理屈の上では絶対に否定されるとまでは言い切れませんが、やはりHRTechの診断結果の恣意性を排除できない現段階では、否定的に考えるしかないかと思います。

(2019年11月8日更新)

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。