【講演録】クレーム対策

【講演録】クレーム対策

 少し前ですが、某研究会で発表したクレーム対策に関する講演内容です。
 クレーム対策といっても千差万別であり、マニュアル化には到底及びませんが、当職のこれまでの経験上で「抽出できそうなノウハウ」をまとめてみました。
 何かの参考になれば幸いです。

 
 <目次> 
1.そもそも論としての「クレーム対応の目的」は?
2.クレームの初期対応とは?
3.クレーム受付時に意識することは何か?
4.顧客の要求内容を明確化するにはどうすればよいか?
5.初期対応時に謝罪するべきか?
6.顧客の要求内容を整理するには?
7.クレーム受付後の対応方法は?
【補充】ネット上での告発への対応は?
 
 
 

1.そもそも論としての「クレーム対応の目的」は?

 最近、本屋で並んでいるクレーム対策本には、『クレームを通じて顧客をファンにしよう』というものが目立つようになりました。
 確かに、クレーム対応を通じて、顧客が貴社のファンになってくれるのであれば、これほど効率の良いことはありません。
 しかし、「顧客のファン化」を重視しすぎると、顧客の非常識な要求に屈し、顧客をファンにするどころか、かえってトラブルが拡大している場合が多数あります。
 ここで、改めて確認したいのが、クレーム対応の目的は、『顧客の全ての要求に応じることではない!』ということです。
 あくまでも、クレーム対応の本来の目的は、『顧客の要求に対して適切な対応をすること』です。まずは、このことを確認しましょう。
 
 

【ポイント1】

クレーム対応の目的は、『顧客の要求に対して適切な対応をすること』であり、顧客のファン化は結果論に過ぎないことを認識しよう!
 
 
 

2.クレームの初期対応とは?

 クレーム対応の流れを概観すると、次のような流れになります。
 
 ① クレームの受付(電話、メール、面談等)
 ② ①に対する貴社の対応
 ③ ①と②を踏まえて、貴社内での方針検討(場合によっては保険会社への連絡)
 ④ 示談交渉、訴訟等の法的手続き
 ⑤ 解決(?)
 
 さて、弁護士などの専門家は、常に貴社に張り付いているわけではありません。
 したがって、貴社は、否が応でも「①」と「②」の手続きに対応する必要があります。
 
 では、「①」と「②」とは、具体的に何をすれば良いのでしょうか?
 
 まさしく「初期対応」にかかわる部分ですが、一言でいうと、『顧客の要求内容を明確化すること』です。この要求内容を明確化させないことには、③以降の流れに進むことができません。
 したがって、貴社は、クレームを受け付けたら、まずは『顧客の要求内容を明確化すること』を意識して、対応するべきです。
 
 ところで、上記フローで、「⑤:解決(?)」と書きました。
 この意味ですが、クレームは全て示談(和解)or裁判で終了するとは限らない、ということです。
 例えば、悪質なクレームと判断せざるを得ない場合は、明確に「NO」と言い切ってしまい後は何を言ってこようが一切対応しないという場合もあり得ます。また、法律の範囲を超える不当要求に対しては、貴社が適正な(法律上の範囲内の)提示を行った後は、手のアクション待ち(一種の塩漬け状態にする)という場合もあり得ます。
 この様な事例を想定するのであれば、全てが解決できる訳ではない、ましてや全ての案件で示談書等の書面を取り交わせる訳ではないし、取り交わすことを絶対目的とする必然性はないことも意識してもらえればと思います。
 
 

【ポイント2】

 ・クレーム対応は必然的に生じることを認識しよう!

 

 ・まずは、『顧客の要求内容を明確化すること』を意識しよう! 

 

3.クレーム受付時に意識することは何か?

 顧客が貴社に対しクレームを出すとき、顧客も一大決心しています。
 このため、言いたいことを全て言おうとして理路整然としないままアレコレ主張する、または感情的に物事を言う…等の傾向があります。
 
 正直、クレームを受け付ける側にとっては大変なストレスとなり、できれば早めに切り上げて回避したいと思うはずです。
 しかし、この様な対応をとってしまうと、「話を聞いてくれない。」「対応が悪い。」という、顧客が当初伝えようとしていた問題とは「別の問題」が発生します。また、顧客の真の要求事項が見えなくなってしまい、かえって解決の妨げとなります。
 したがって、クレームへ上手く対処したいと考えるのであれば、クレーム受付側はぐっと我慢して、『まずは(特に初回時は)話を聞いてあげる』という対応を徹底するべきです。
 なお、小職の経験上にすぎませんが、長くても30分も話を聞いていれば、相手も落ち着いて、ある程度冷静な話ができるようになります。
 
 結局、受け付ける側にとっては、『ねばり強く&気長に』という意識が必要になります。
 
 

【ポイント3】

 ・クレームへの初期対応時は、『ねばり強く&気長』に『話を聞いてあげる』ことを意識しよう!
 
 ・クレーム対応の留意点として、次のようなチェックシートを用いて漏れがないか確認しよう!
 
<参考チェックシート>
 ◇ クレーム電話のたらい回しをしないか。
 ◇ 相手の「言い分」をまずは聞いてみようと意識しているか。
 ◇ 相手の話を途中で遮っていないか(特に初回時)。
 ◇ 貴社からの回答は、「いつまでに」「誰から」「どの様な方法で」伝えるか具体的に相手に話しているか。
 ◇ 「誠意」が伝わる話し方、言葉遣いを心がけているか。
 ◇ 会話の記録を書面(自己メモ)に残すようにしているか。
 
 
 

4.顧客の要求内容を明確化するにはどうすればよいか?

 さて、顧客がある程度冷静な話をできる段階に至ったのであれば、顧客の要求内容を明確にするべく、『貴社側より積極的に問いかけ等を行う』ことになります。
 
 ところで、顧客の要求内容を明確化するためには、次のような『初期対応時のステップ』を踏んで行くことになると考えられます。
 
① 顧客の感情を害さないための対応
 ・迷惑をかけたことに対する謝罪
 ・相手方の言い分をよく聞く
 ・問題解決に対して共感の態度を示す
 
② 要求内容の明確化 
 ・時系列で事実関係を聞き取る
 ・5W1Hに整理して事実関係を把握する
 ・根拠と要求事項そのものを区別して把握するようにする
 
③ 対応方針の明確化   
 初期対応時は「②」までを目指して、顧客とやり取りするわけですが、顧客に一方的にしゃべらせても、なかなか判然としないこともあります。
 この様な場合、貴社側から、次のような言葉を投げかけて会話をすれば、比較的スムーズに要求内容の明確化を図ることが可能になると思います。

(例1)相手の喋った事実を反復して確認する。
 「…だということでしょうか。」
(例2)話の内容を整理するための橋渡しを行う。
 「ところで、今の点と関連して2~3点お伺いしたいのですが…」
(例3)貴社側より整理した内容を伝える。
 「ご要望は…ということですね。」
(例4)整理した要求事項への対処方法について顧客より合意を取り付ける。
 「今のお客様のご要望に基づいて、今後弊社としましては…という形で対応させて頂きますが、それでよろしいでしょうか。」
 
 ただ、注意して欲しいのが、あくまでも相手の話を聞き終わった上で、上記のような質問を発するということです。
 相手の話を遮って上記のような質問を行うと、かえって逆効果ですので注意しましょう。
 
 

【ポイント4】

 ・顧客の要求内容を明確化するためには、『積極的に問いかけ』を行おう!
 
 ・事実関係の整理には、予めチェックシートを作成しておいて整理しよう!
 
<参考~チェックシート作成時に記載しておくべき事項>
 ◇ 受付日時
 ◇ 受付方法
 ◇ 申出人の氏名・住所・連絡先
 ◇ 被害者の氏名・住所・連絡先
 ◇ 弊社との関係(商品・サービス名、購入・利用年月日、購入・サービス提供場所)
 ◇ 事故年月日
 ◇ 事故状況(いつ、どこで、誰が、何を、どうやって、現況など)
 ◇ 損害内容(人身損害まで及んでいるか)
 ◇ 要求内容
 ◇ 受付時の対応
 ◇ 次に必要となる対応、申出人との約束事項
 ◇ その他
 
 
 

5.初期対応時に謝罪するべきか?

 先ほど、「4.顧客の内容を明確化するには?」の中の『初期対応時のステップ』で、「①」の項目に『迷惑をかけたことに対する謝罪』と記載しました。
 
 この点に関し、よく「謝罪すると法的責任を認めたことになるのではないか」と質問を受けるのですが、色々と考え方はありますが、必ずしも法的責任を認めたことにはならないと考えます。
 例えば、「この度はご迷惑をおかけしております。この様な結果が出たことに対してお詫び申し上げます。原因については、追って○○○までに調査して回答致します。」と回答した場合、法的責任を認めたとは評価されにくいのではないでしょうか。
 
 昨今では、たとえば某大手メーカーの会見時に「謝罪の言葉」が無かったことで、マスコミは「謝罪無し」と大々的に報じます。そして、この報道の結果、某大手メーカーは集中砲火を浴びると共に企業イメージの大幅なダウンになってしまう例が見受けられます。
 少し脱線しますが、上記の例の場合、某メーカーの肩を持つわけではありませんが、おそらく某メーカーは法律上の責任はないと判断していたため、謝罪しなかったと思われます。しかし、それであれば、上記で記載した回答例などを用いて、まずは謝罪と法律上の責任は別であるという点を伝えるべきだったのではないでしょうかと思います。
 
 さて、話を戻します。
 
 顧客の勘違いか否かは初期対応時では分かりません。
 
 ただ、先述の通り、顧客は一大決心をして貴社に連絡を行っています。しかも、法律上の因果関係はともかく、何らかの関係で貴社の商品・サービスで迷惑を被ったと思っているわけです。
 
 したがって、最初から企業側の理屈だけで押し通そうとしても上手くいくはずがありません。初回時は話を聞くと共に、顧客の感情を和らげるためにも、「ご迷惑をおかけしました。」ということを伝えた方が無難ではないかと思います。
 
 

【ポイント5】

法律上の責任が不明確であっても、道徳上の『謝意を伝える』ように意識しよう!
 
 
 

6.顧客の要求内容を整理するには?

 顧客からの話を聞いていると、顧客の要求内容には様々なレベルがあることが分かります。
 もちろん例外はあるので絶対視はして欲しくないのですが、大まかには次のような類型に分類されるかと思います。
 
 ① 単に話を聞いて欲しい、あるいは思いを理解して欲しいといったもの。
 ② 具体的な改善策を要求するもの。
 ③ (法律上の)責任を追及するもの。
 ④ 不当な金品を要求するもの。
 
 この分類に従って対処法の骨子を考えた場合は、一般論としては次のようになるのではないでしょうか。
 
 ①であれば、「貴重なご意見ありがとうございました。」ということで対応すれば足りることが多いでしょう。
 ②であれば、改善の必要性及び有無を検討し、改善が必要であれば改善し、改善の必要がないのであれば、何故必要がないのか明らかにするという対応を取ることになるでしょう。
 ③であれば、法律上の責任範囲を検討するべく、『責任の有無』、責任があるのであれば『損害賠償の範囲』及び『具体的な損害賠償額の算定』の検討を行うということになるでしょう。
 ④であれば、不当要求と言うことで、明確に「応じられない」旨の回答を行い、一切対応しないと言う毅然とした対応が求められるでしょう。
 
 ただ、①~④までの判断は、受付担当者1人で判断できるものではないと思われます。
 また、「③法律上の責任追及」となると、法律の専門家に相談した方が無難でしょうし、「④不当要求」と断定して良いかは、かなり高度な判断能力を必要とします。(単に言葉遣いが荒いとか、反復して連絡を取ってくるなどの理由だけで不当要求とは即断できないのが実情です。)
 
 したがって、1人で早合点せず、少なくとも複数人で検討する、できれば弁護士等の専門家の意見を聞いた方が良いでしょう。
 
 

【ポイント6】

 ・顧客の要求内容は原則4類型に分類されることを意識しよう!
 
 ・どの類型に分類されるか判断する際は、1人で判断しないようにしよう!

 

7.クレーム受付後の対応方法は?

 クレームを受付け、相手の話を聞いた後、今後の方針について社内で協議し、決定された方針に基づいて交渉を行うことになります。
 
 先ほど、「6.顧客の要求内容を整理するには?」でも述べましたが、『1人で判断するのは厳禁』です。
 
 ところで、昨今の報道を見ていますと、現場レベルでは把握できている事実関係が、上長が十分認識していない、あるいはあえて認識しようとしていない事を取り上げて、厳しく問いつめられる場面を目にします。(最悪の場合、上長には伝わっていないことに託けて、事実関係を隠匿しようとする場合もあります。)
 したがって、よほどのことがない限り、クレーム案件については、『全て上長(社長あるいは決裁権限のある担当者)まで伝える』ようにするべきです。
 
 

【ポイント7】

 ・クレームが発生した場合、『全て上長(社長あるいは決裁権限のある担当者)まで伝える』にしよう!
 
 ・社内会議をする際には、予めチェックシートを作成して情報の共有化を図ろう!
 
<参考~チェックシート作成に際して考慮しておきたい項目>
 ◇ 相手の住所、氏名、電話は確認したか。
 ◇ 謝罪したか。
 ◇ クレームの前提となる事実関係を把握したか(時系列、5W1H)。
 ◇ 被害を受けた製品・サービスの特定、購入年月日、購入・提供場所は確認できたか。
 ◇ 被害者は誰か、被害の程度は把握できているか。
 ◇ どの様な利用方法だったのか。
 ◇ 製品は現在どの様な状態になっているのか。
 ◇ 相手の要望は何か。
 ◇ 原因について説明できるか。
 ◇ 直ちに回答できるか。
 ◇ 解決メニューを提示できるか。
 ◇ クレームを今後の経営に活かすことを説明できるか。

 

【補充】ネット上での告発への対応は?

 最近、インターネット上の掲示板等にクレーム内容が記載され、公衆の目にさらされる事例が増えてきています。
 
 これについては、色々な対応方法が考えられますが、ネット告発の目的に応じて、対応方法を検討するべきと考えます。
 
 まず、『ネット告発の目的が恐喝手段(不当要求)して用いられている場合』ですが、悪質クレームと同視できますので、毅然とした対応を取るべきでしょう。また、反論するのであれば、記載された掲示板等ではなく、自社のWeb上で反論するべきでしょう。
 
 次に、『内部告発』の場合は、調査検討の上、内部告発が事実であれば、適切な対処を行うほかありません。なお、内部告発をできる限り外部に出さないためにも、公益通報者保護法を意識しつつ、内部通報手続きを整備することが必要です。
 
 最後に、『クレーム対応に不満を抱いている場合』ですが、匿名の場合は無視するか、自社のWeb上で反論というのが実情のように思われます。
 なお、掲示板の管理者に対して削除要請を行うという手法も考えられますが、残念ながら、すんなりと削除要請に応じてもらえないのが実情のようです。一方、書込者が特定できる場合には、書込者との交渉になりますが、ネット告発取り下げ目的を全面的に押し出して交渉すると、かえって変な書込みが増えるという場合もあり得ますので、交渉方針には細心の注意が必要です。
 
 

【ポイント】

ネット告発への対処法としては、
① 無視する
② 自社Web等で反論する
③ 相手との交渉を試みる
④ 法的対応を検討する(名誉毀損、プロバイダ責任制限法など)
が考えらるが、どの対処法を取るかはよく検討しよう!
 
 

※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。