<会社への予防注射 Vol.12> 労務管理の見直し②

<会社への予防注射 Vol.12> 労務管理の見直し②


 


未払いの残業代があるとして、100万円を超える請求を受けました。今まで「残業代込み」として賃金を支払っていたので、未払い残業代はないという認識ですが、どの様に対応するべきでしょうか。


 


 

ポイント

 会社経営者が考えている残業代の認識と、法律が定めている残業代ルールには大きな乖離があるように思われます。
 典型的なのは「残業代込みと説明し、了解を取り付けて採用している」という事例ですが、法的なルールを守らない限り、その様な主張は裁判では通用しないのが実情です。
 
 

解説

社長(以下「社」) : 大変だぁ、大変だぁ!!
 
弁護士(以下「弁」) :ど…どうされました!?
 
社 :いや、今日、裁判所からこんな手紙が来たんだよ。
 
弁 :見せて下さいね。
フムフム、未払いの残業代があるとして、労働審判手続きを申し立てられたわけですね。
 
社 :うん…? 訴訟じゃないの。
 
弁 :裁判所が関与するので裁判手続きと言えばそうなのです。
が、どちらかというと、裁判所で話し合いを行いながら解決を模索する調停に近い制度と考えた方が分かりやすいかもしれません。
 
社 :なるほど…。で、どうすればいいの?
 
弁 :労働審判の最大の特徴は原則3期日で全ての手続きを終了させてしまうことです。
なので、結論が出るまで早いという特徴があります。また、実質的には第1回目の期日で全ての主張・立証を行う必要があります。この点で、申し立てられた側、つまり相手方は短期間の間に主張をまとめ証拠書類を収集しなければならない点で大きな負担が課せられることとなります。
 
社 :そういえば、第1回期日が3週間後に迫っているな。先生悪いけど、急いで準備してちょうだい。
 
弁 :分かりました。
では、まず概要をお伺いしたいのですが、貴社のお考えとして「未払い残業代」なるものは存在しているという認識はありますか?
 
社 :そんなのないよ!
うちは採用時に残業代込みの賃金だからねと明確に説明して、了解した人しか雇わないから。
 
弁 :なるほど…。賃金の支給項目(手当)はどうなっていますか。
 
社 :基本給と通勤手当がメインだよ。
 
弁 :う~ん。それは非常にマズイですね。
念のため、給与明細、労働条件通知書、そして賃金規程を見せてもらえますか。
 
社 :ちょっと待てよ、あ、これだ、これだ。
 
弁 :拝見します。
え~と、給与明細上も労働条件通知書上も賃金規程上も、いわゆる定額残業代に関する定めはないですね…。
そうなると、残念ながら、社長がおっしゃる「残業代込み」という言い分は法的には通らないと言わざるを得ないと思います。
 
社 :な…なぁんだってぇぇぇ!!!。
 
弁 :残念ながら、残業代込みの制度である定額残業代制度について、法的な有効性について、
   ① 定額残業代であることが分かる独立の賃金項目(手当)を設けること
   ② 賃金規程や労働条件通知書に定額残業代としての性質があることを明記すること
   ③ 何時間分に相当するかを明示すること(具体的な時間が計算できるようにすること)
が裁判所の判断傾向と言われているからです。
 
社 :う…。いや待てよ、今回の従業員は部長職であり、管理職なんだから残業代は発生しないはずなのでは?
 
弁 :管理監督者の話ですね。
世間でいう管理職と労働基準法が定めている管理監督者とは概念が大きく異なります
もちろん、今回の従業員の方の権限や地位、職務内容、出退勤の裁量性や賃金への反映度合いなど詳細な事情をお伺いしないことには、結論づけることはできません。
しかし、マクドナルドの店長判決でもそうでしたが、事実上管理監督者と認められることはあり得ない状況ですので、あまりその抗弁も期待できないのが実情だと思います。
 
社 :う~ん。色々と厳しいなぁ。
ちなみに、今後の参考のために聞いておきたいんだけど、年俸制であれば残業代は発生しないと聞いたことがあるんだけど、どうなの?
 
弁 :それは間違いと言わざるを得ないですね。
年俸制で特に気を付けなければならないのは、例えば賞与部分に当てるため、「年額÷16」としていた場合、残業代計算のベースとなる基礎賃金の計算につき、1ヵ月をベースとして計算することができず、総支給額である年額をベースとすることになるため、かえって残業代が高くなる場合さえあります。
 
社 :じゃあ、年俸制は、残業代対策の有効打にはならないわけだな。
 
弁 :残業代対策として年俸制を用いるのは、筋違いかもしれませんね。


 

 

※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。