売上金を回収するための回収方法⑨(債権執行その2)

売上金を回収するための回収方法⑨(債権執行その2)


※前回は、債権執行について解説しましたが、今回はその続きとなります。
 

 

 

4.法的回収方法と強制執行

(4)債権執行(続き)

 前回預金債権の差押えについて解説しましたが、預金債権の差押えを行うに際し、複数の取引銀行が存在する場合、どこを狙うのかという実務上の発想も必要です。


 というのも、いわゆるメインバンクの場合、債務者は当該銀行から借入を行っている可能性があります。そして、銀行からの借入れを行ったことがある方であればお分かりいただけるかと思うのですが、借入先の預金口座は、万一のために備えて銀行が借入金の担保として事実上押さえてあります。このため、差押えを行ったとしても、銀行は「債務者の借入金と相殺するため支払い不可」と回答してくるため、回収ができません。したがって、メインバンクを外して他の銀行への差押えを考えるということも必要になってきます。

 さらに、銀行預金の差押えの場合、いつの時点で差押えを実行するのかについても注意が必要です。というのも、債権執行により差押えの効力が生じるのは、裁判所が銀行に対して差押え通知を発送し、当該通知書を銀行が受け取った時における口座残高にしか効力が生じないからです。つまり前日に引き出されたら引き出された後の残高にしか効力が及びません。また、翌日に入金されたとしても、その入金分に対しても差押えの効力が及びません。したがって、差押え通知をいつの時点で裁判所に送付してもらうのか、裁判所と相談しながらタイミングを見極める必要もあります。


 次に、債権差押えを行うに当たって、専門書やインターネットで調べると「転付命令」というキーワードが出てきます。
 転付命令のイメージですが、債務者(お金の支払い義務がある人)が第三債務者(例えば銀行など)に対して有している債権(例でいえば預金債権)を強制的に債権者のものにしてしまう、つまり当該預金債権が債権者に譲渡されてしまい、債務者の財産から取り上げてしまうといえばわかりやすいかもしれません。つまり、例でいえば債権者が自分のものとして預金の引き出しができてしまうことになります。

 このように書くと、債権差押えに際しては「転付命令」が必須なのではと思うかもしれません。
 しかし、少なくとも私の経験上、ほとんど転付命令までやったことはありません。というのも、転付命令を行うまでもなく、債権差押えによって、「取立権」というものが発生し、上記例でいえば、債権者が第三債務者である銀行に対して、「差押えを行ったので、債務者ではなく、直接債権者に支払ってね」と言えてしまうからです。

 では、何故、転付命令という別制度が存在するかというと、典型的には債務者が破産準備に入ったときが想定されます。例えば、債権差押えの段階では、あくまでも預金債権は債務者に帰属する財産にすぎません。そして、取立権を行使し、支払いを受ける前に債務者が破産手続きを進めてしまった場合、差押えの効力が失われてしまいますので、結果的に回収ができなくなります。しかし、転付命令を受けておけば、債務者から債権者に預金債権が譲渡されますので、債務者の破産手続きの進捗にかかわらず、銀行より払い戻しを受けることができます。
 このように書くと、やっぱり転付命令を受けておいた方がよいと思うかもしれません。

 しかし、大きな落とし穴があります。

 それは、転付命令により債務者の財産を強制的に債権者に帰属させることによって、債権者が債務者に対して有していた債権は消滅します(代物弁済を受けたといえば分かりやすいかもしれません)。一方、第三債務者が銀行など確実に支払ってくれるところであれば良いのですが、例えば零細の取引先に過ぎない場合、支払ってくれる保証はありません。つまり、第三債務者の支払能力が怪しいにもかかわらず、下手に転付命令を受けてしまうと、債務者から取立てはできない、第三債務者からも取立てができない、結局回収ができないという悲惨な状態になってしまうリスクが生じてしまうのです。

 以上のことから、「転付命令」まで行うのは、債務者が破産手続きを進めている等、特殊例外的な事情があるのであればともかく、通常は行わないと考えた方がよいかと思います。
 
 
 

※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。