新型インフルエンザの流行に伴う休業と賃金支払いの関係について

新型インフルエンザの流行に伴う休業と賃金支払いの関係について

質問

 新型インフルエンザが流行の兆しを見せており、今秋以降、猛威を振るうのではないかと言われていますが、新型インフルエンザの流行に伴い従業員に対して休業を命じ、または事業所の一時閉鎖措置を講じた場合、従業員に対して賃金を支払う必要はあるのでしょうか。

 

回答

 感染症法に基づく措置や新型インフルエンザ対策ガイドライン等に基づく行政からの要請のように、「公益上の要請」が明らかである場合には、従業員が休業に対して賃金を支払う必要は無いと考えられます。
 一方、公益上の要請が明らかではなく、使用者の自主的判断に基づく休業措置の場合には、一部例外を除いて、労働基準法26条に基づく休業手当の支払い(=平均賃金の60%相当額)はやむを得ないものと考えられます。
 ただ、事業主の自主的判断とはいえ、新型インフルエンザの感染拡大防止措置という社会的要請に鑑みれば、事業主の「責に帰すべき事由」には原則該当しないと考えられるため、民法536条2項に基づく100%の賃金支払いまでは求められないのではないかと考えられます。
1.労基法26条と民法536条2項との関係
 労働基準法26条では「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合は休業手当(=平均賃金の60%以上)を支払うよう規定されています。
 一方、民法536条2項では「債権者(=本件では使用者を意味すると考えて下さい)の責に帰すべき事由」によって労務提供できなかった場合は、「反対給付を受ける権利(=本件では賃金請求権)を失わない」と規定されています。
 一見同じようなことが規定されているかのように思いますが、労基法と民法とでは意味が異なります。
 すなわち、民法上の「責に帰すべき事由」とは、使用者の故意、過失または信義則上これと同視すべき事由と解釈されています。これに対し、労基法上の「責に帰すべき事由」とは、使用者の故意、過失及び信義則上これと同視すべき事由も含まれますが、さらに「使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む」とされています。
 両者の違いは、例えば、交通機関の遮断により原材料を入手できないため工場の生産ラインが止まり、工場従事者の仕事が無くなってしまったので休業となった場合などに表れます。確かに、上記例では、使用者が全面的に責任を負ういわれはありませんが(民法の適用否定)、生産ラインが止まることは使用者の経営管理上の問題なので労基法上の休業手当は支払う必要がある…ということになります。
 なお、本当の不可効力(天災地変等)の場合は労基法26条に基づく休業手当の支払も不要となります。
2.新型インフルエンザと「責に帰すべき事由」
 それでは、新型インフルエンザが拡大してきた場合、特に従業員の中に罹患した者が発生した場合、罹患者への濃厚接触者がいる場合、もしくは罹患の疑いがある者が発生した場合において、使用者が自宅待機や休業命令を出した場合、または事業所自体を一時閉鎖した場合、従業員に対して賃金(労基法26条に基づく休業手当、さらには民法536条2項に基づく賃金全額)を支払う必要があるのでしょうか。
 この点については、この記事をアップした平成21年9月5日時点では公権的解釈が出ているわけではありません。
従って、あくまでも当職の個人的見解とはなりますが、賃金支払義務を負わない限界事例としては、次のようなものが考えられるのではないかと思います。
注)平成21年10月30日に厚労省より「新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する事業者・職場のQ&A」と題する資料が公表されていますので、これも合わせてご参照下さい!

 

感染症法に基づく措置や新型インフルエンザ対策ガイドライン等に基づく行政からの要請あり

 

賃金支払義務無し

(民法536条2項及び労基法26条の適用無し。不可抗力と考えて良いのではないか。)

 

罹患している従業員

賃金支払義務無し

(病欠扱い)

 

感染の疑いが有る従業員、又は罹患した従業員との濃厚接触者の場合

基本的には賃金支払義務無しと考えて良いのではないか。

(但し、感染の疑い有りの従業員について結果的に感染していなかったというのであれば、支払義務は免れない。なお、一般論としては、発症していなくても感染力が極めて強いと言われていることからして、感染予防等の社会的責任の見地からは休業はやむを得ない場合に該当するのではないか)

H21.9.24追加~厚生労働省はこの点について、「保健所による協力要請等の有無を一判断要素に用いるようです。

 

事業所内での多数の従業員が発症する等感染防止が切迫している状況下での事業所の一時閉鎖

賃金支払義務無しと考えてよいのではないか。

(感染防止という公益上の要請が強いといえるのではないか。但し、使用者が何らの対策を講じず漫然と事業所閉鎖措置を取った場合は、労基法休業手当のみならず、民法536条2項に基づく全額支払義務が生じる場合も考えられる。)

H21.9.24追加~厚生労働省はこの点について、「保健所による協力要請等の有無を一判断要素に用いるようです。

 

上記以外の場合

賃金支払義務有り

(労基法26条2項に基づく休業手当は必須。特段の対策を講じることなく非感染者に対しても休業措置をとった場合には民法536条2項に基づく全額支払義務が生じる場合有り)

 

※新型インフルエンザに対する対策は、厚生労働省から公表される情報を参照した方が良いと思いますので、リンクを張っておきます。 

厚生労働省「新型インフルエンザ対策関連情報」 

※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。

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