売上金を回収するための契約書のチェックポイント②(相殺予約、債権譲渡禁止、担保提供義務)

売上金を回収するための契約書のチェックポイント②

 前回は、「所有権留保条項」、「期限の利益喪失条項」、「契約解除条項」を解説しました。

 今回は、若干優先度は落ちますが、あると便利な条項である「相殺予約条項」、「債権譲渡禁止条項」、「担保提供義務条項」について解説を行い、売上金を回収するための術をチェックして頂ければと思います。

 

 

4.相殺予約条項はあるか?

 相殺については、お互い債権債務を持っている場合に差し引きしましょう…ということで日常的に用いられているかと思いますが、「相殺予約」となると意味が分からなくなるかもしれません。
 
 例えば、売主が買主に対して、たまたまお願いしていたことがあり5月末に支払わなければならないとします。
 一方で、売主は買主に対し、6月末が支払期限となる売掛金を持っていたとします。
 
 さて、今般、5月中旬の段階で買主が信用不安を起こした場合、このままでは、売主は5月末支払い分と6月末売掛金とを相殺することができません。
 つまり、支払うだけ支払って、後で回収できずに泣き寝入り…という最悪の事態も想定されるのです。
 
 この様な事態を回避するために、お互いが債権債務を有することになった場合には、支払期限到来の有無を問わず、相殺が出来る旨の約定を設けておきます。
 
 つまり、懐を痛めることなく、売上金の回収を実現する手段を確保するために、相殺予約条項は役立つことになります。
 
 なお、相殺を実現するための一番のネックは「期限の利益」を相手方に付与していることですので、「2.期限の利益喪失条項」を設けることで、相殺予約の条項をあえて規定しなくてもある程度は実現可能です。
 
 ただ、期限の利益喪失条項以外の事由であっても、極論すれば特段の問題がない場合であっても、相殺勘定にすることで支払いの利便性を図る(結果的に売上の回収を実現できる)ことができますので、設ける必要性はなお高いと考えていただければと思います。


 

5.債権譲渡禁止条項はあるか?

 これは、上記「4.相殺予約条項」と深い関係がある条項となります。
 
 相殺とは「お互いに債権債務がある状態」であることが大前提となります。
 しかしながら、買主が売主に有する債権を第三者に譲渡してしまった場合、売主と買主双方において債権債務がある状態ではなくなってしまいます。つまり、相殺が出来ない状態となってしまうのです。
 
 要は、売上金の回収方法として、自分の懐を痛めない形をとるために相殺予約を用いるのですが、その実効性を担保することを目的として、債権譲渡禁止条項を設ける意義があるということになります。
 

 

6.担保提供義務条項はあるか?

 この条項は読んで字の如くであり、ある事由が生じた場合には担保を提供するよう要求できる条項となります。
 
 ところで、この条項それ自体は実はあまり実効性はありません。
 
 というのも、この条項を発動するのは、たいてい買主が信用不安となったときなのですが、信用不安に陥っている以上、提供できるような担保はありません(主要な財産は銀行が押さえています)。また、買主が拒否すれば、それ以上は法的に追及しようがない(何か適当な担保をよこせ!と裁判することができない)からです。
 
 では、何のために設けるかといいますと、実は「2.期限の利益喪失条項」を補完するためです。
 
 すなわち、期限の利益が喪失する場合は、民法137条というところに一応規定があります。
民法137条の規定だけでは、とてもじゃありませんが売上の回収に役立たないため「2.期限の利益喪失条項」を設ける必要性があります。
 ただ、民法137条は「担保提供義務があるのに、しない場合は期限の利益を喪失する」と規定されていますので、この条項を入れておくことで、万一、期限の利益喪失条項で対応策をとれない場合であっても、担保提供義務違反=民法137条違反で期限の利益喪失という効果を得ることができるのです。
 
 したがって、この条項も、スピードが大事と言われる債権回収の場面において役立つことになります。

 

※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。